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60 ミュルニアの錬金手帳

付録です。本日は二回更新予定です。

・冷蘭草【アイスオーキッド】

蘭の仲間の植物。

青白い色をしており、茎にはいくつかの房を付ける。

暗くてじめじめした場所を好み育ち、日光は嫌い。

どうやら土地に根ざす別種の仲間――菌と呼ばれる魔素――と共生関係にあるらしく、特定の場所でしか育たない。

冷気を含んだ特殊な魔力を宿しており、錬金術の冷媒としても使われる。

軽度の毒性があるので食べちゃだめ。




・魔剣オーディナルブランド

メリッサさんの剣。今はエディンお兄さんが持ってる。

古代魔導機文明時代、魔力を込めて属性を宿す剣として広まった量産品。

魔力容量はそこまで高くないが、魔術を刀身へと吸収し属性剣として切れ味を増す効果を持つ。

遺物として珍しくはないものの、剣としての性能が秀逸。

量産品ながらも評価が高く、魔導機文明時代の製法は失われている為にそこそこ高い。

メリッサさんが昔、自分で遺跡から発掘してきたらしい。

元々万能戦士を自称していた人なので、魔法剣士としての相性が良いと使い始めたみたい。




・魔剣ラインカタル

ロロっちの剣。

古代都市カタルを守ったとされる伝説の魔法剣で、なんでロロっちが持ってるのかは知らない。

魔力の波形を分析するに、おそらく周囲の因果と時間を圧縮する力を持つ規格外の魔剣。

ロロっちはその力で物理的な限界を無視して、自身の最高速度で剣を振れるらしい。

一瞬で複数回切れるのはロロっちの剣が速すぎるから。

物理的な限界を無くしたところでそもそも剣の速さが限界に達してないと意味がないので、普通の人が使ってもただ軽いだけの剣。

つまりロロっちが化物というだけの話……?


ちなみに『時空斬獲剣』という異名は、ロロっちが名付けたらしい。

……そのセンスはうちにはわからない。




・帝国軍携帯食

エディンお兄さんから分けてもらった帝国軍の携行食。

乾燥させたハナマ芋にドライプルーンが練り込んであり、そこそこおいしい。

水分が欲しくなるが、栄養素としては十分か。

連日食べる事もあると聞いたので、毎食だとさすがに飽きるかもしれない。

お兄さんわけてくれてありがとう~。

プルーンといえばこの前食べたギルド裏のパンケーキ屋さんのセットがめちゃ美味だった。

あそこは全メニュー制覇したい。




・リューセン

メテオ川が流れる商業都市。

昔からレギン王国の交易拠点として発展してきた。

過去には古代文明が近くにあったらしく、しばしば遺跡が発見されている。

街は防壁に囲われているが、発展により壁が増築され、外側に行くほど迷路のようになっている。

冒険者ギルドは半公営で、国の認可をもらって冒険者へ仕事が振られている。




・魔物園

リューセン領主ロッセル伯が運営する魔物の常設展示会。

基本的に魔物は獰猛な為、全展示生物は檻に入れられている。

ただしロッセル伯の著書である『魔物と仲良く暮らす方法』に書かれた飼育法により、魔物たちは平穏に暮らしている。

どうやらその仮説通り、魔素の高さが獰猛さを左右するらしい。

魔素の排出を促すロッセル流マッサージを受けている魔物たちは本当に気持ちよさそうにしている。



・ゴブリン

亜人種の魔物。

子供ほどの体躯に、緑の肌と大きめの牙が特徴。

知能は人よりも低く、凶暴。

ただし同時に臆病でもあり、群れを作って外敵から隠れてひっそりと暮らしていることが多い。

知能が高いゴブリンはハイゴブリンとして数百単位のゴブリンのリーダーとなることがある。

ハイゴブリンがどのようにして誕生するのかは明らかにされていない。

昔の人魔戦争のときは大量のハイゴブリンによりゴブリン軍団として統括されていたらしいが、現在ハイゴブリンはほとんど確認されていない。




・ソードタイガー

巨大な体躯をした虎。

生まれた頃は子猫と変わらないが、成長するにつれて大きい物では全長二メートルを超える物も珍しくない。

その名前の由来ともなった尖った大きな牙が特徴で、大きい物では三十センチを越える個体も。

しばしば群れで暮らし、大繁殖して街を壊滅させるスタンピードを引き起こすこともある。

その為、繁殖しそうな群れは駆除対象となる。

性格は獰猛で、人に懐かない。

……とされているが、マフちゃんを見ているとそんなこともないように思う。

実地調査(フィールドワーク)で実際に観察をするのは重要。

でもやっぱり怖い。




・屍食獣【グール】

魔界から召喚されるという魔物。

アンデッドの性質を持ち、人に擬態したりもする。

その生体についての仮説は魔術師の間でも長年繰り広げられており、魔界の尖兵から魔界に迷い込んだ人間の成れの果てなど、さまざまな説がある。

アンデッドの特性を生かした使い方として、死霊術士(ネクロマンサー)がさまざまな生物の死骸をツギハギしてマッドグールと呼ばれる改造グールを作り出すことも。

元がアンデッドな分、キメラよりも断然作りやすいらしい。

自分だけの死体を組み合わせて、オリジナルのグールを作ろう!




・不死貴族【リッチ】

死霊術士(ネクロマンサー)が死後アンデッドになったものとされている。

元が人間らしい為、その能力はさまざま。

最低でもアンデッドを操る力はあるようだが、人だった頃の意識が残っているかどうかはまちまちのようだ。

死んで研究を続けるつもりが生前の意思を失ってただただ迷宮を徘徊するアンデッドに……なんてこともあるようなので、リッチ化は一種のギャンブルだと思う。

なのでほとんど人と変わらない意識を持つSSRスーパーリッチ……みたいな存在もいるのかもしれない。

わかんないけど。




・ゴルゴーン

女の人の頭部から大蛇がたくさん生えた合成獣(キメラ)

ヒュドラ、バジリスク、吸血ヒル、クラーケン、マーメイドなんかを組み合わせたみたい。

ヒュドラとクラーケンとマーメイドの再生力、バジリスクと吸血ヒルの吸収力なんかがたぶんコンセプト。

『無限に回復すりゃ強いんじゃね?』みたいなことで作ったんだと思う。安直。

造詣にセンスがない。3点。




 * * *




「……なんだこれ」


「あー! ちょ……それうちのメモ帳! なんで勝手に見てるの!?」


 俺がギルドのテーブルの上に置かれたボロボロの紙束を読んでいると、そう言ってミュルニアが駆けてきた。

 俺はその帳面を差し出しつつ、言い訳をする。


「いやこれ『錬金メモ』としか書いてないし……。誰か忘れたのかと思って、中身を確認して持ち主を探そうと思ったんだよ」


「むむむ……。そこに置いてただけですぅ……。でもありがとうございますぅ……」


 ミュルニアは不服そうにしながらも、そう言って手帳を受け取った。

 俺は一つ疑問に思ったので尋ねる。


「錬金手帳なのに、錬金術のこと一切書かれてないが……」


 動植物やら魔導具やらのことばかり書かれていた。

 俺の言葉に、彼女は視線を逸らす。


「え、ええ~っと……それはほら、高度な錬金術は常人には理解できないっていうか……そう、研究の流出を防ぐ為に暗号化してるの!」


「……このパンケーキ屋の情報も?」


「そ、そうなんだよね~! いいところに目を付けたねお兄さん! パンケーキは魔法陣を示してるんだよな~! 普通の人にはわからないかもだけど!!」


 ミュルニアがそんな強弁する横で、俺たちのそんな様子を見ていたロロが呆れたようにつぶやく。


「また見栄を張って。だいたいミュルニア、いつも『錬金術のことは全部頭に入ってるから』って豪語してたじゃない。……それでなぜかわたしに自分で考えた錬金術のレシピを聞きに来るんだけど。わたしに聞いてもわかるわけないでしょ」


「だ、だからメモ取るようにしたんじゃんか!」


「錬金術のレシピをメモするのも忘れてるし、メモ自体もここに置き忘れてたんでしょ」


「うっ……!」


 ミュルニアは痛いところを突かれたのか、胸を押さえる。

 そしてなぜかいきなり俺に抱きついてきた。


「お兄さん! ロロっちが! ロロっちがいじめる!」


「離れろ。そして全面的にお前が間違ってる」


「そんな! お兄さんまで! えーん!」


 彼女は盛大な泣き真似をしたあと、メモを抱えてギルドの外へと出ていった。

 ロロはその後ろ姿を見送って苦笑する。


「……あれで本当に錬金術の腕はたしかなんだよね。抜けてるところがなければ完璧なんだけど」


「まあ……完璧になったらミュルニアじゃないからな。あれぐらいで丁度いいだろ」


「それもそうか。あの子、あれで結構人気あるしね。ああいうところも魅力の一つなのかも」


 そう言って俺たちは二人で笑う。

 なんだかんだミュルニアは憎めない性格なのもあって、ギルドの中でも慕われていたのだった。

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