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31 雑用騎士 VS 不死貴族

 不死貴族(リッチ)が再び詠唱を開始し、火球が現れる。

 放たれた炎を俺は剣で絡め取った。


「よし、慣れて来た! ……ミュルニア!」


「はいよもういっちょ! アイシクルエーッジ!」


 氷の槍が手近なグールを突き刺し、足が止まったところを狙って炎の剣で切り伏せる。

 いい命中精度だ。


 後ろを見れば、ロロはユアルたちの周囲のグールをあらかた倒していた。

 グールも攻めあぐねているようで、遠巻きに囲うばかりだ。

 ――こちらが押している!


 あと数体のグールを倒せば、リッチへの道が開ける。

 親玉を倒せば、少なくともグールを指揮する者はいなくなるはずだ。


 そう思った瞬間、リッチは杖で地面を叩いた。

 何かの詠唱と共に、紫の魔力光が発せられる。

 魔力は部屋全体に広がって、辺りを照らした。


「なんだ……!?」


「お兄さん、倒れたグールが!」


 ミュルニアの言葉に倒したグールに視線を向けると、ロロが切り伏せたグールの傷口が蠢きだしていた。

 まるでウジが湧いたかのようにぐちゅぐちゅと動いたあと、細い触手が伸びる。

 その触手は近くの別のグールの死体に絡まり、引き寄せ合った。


「アンデッドの回復呪文……!? いや、死体同士が喰らい合ってるんだ……!」


 ミュルニアがそう漏らす。

 見れば何体もの歪なグールが起き上がっていた。

 中には腕の代わりに足がついたグールや、頭が二つくっついたグールもいる。


「ははは、悪夢の方がまだマシだ……」


 炎に焼かれたグールには効果がないらしいし、食い合った結果全体の数は減っている。

 だがそれでも、十体以上のグールが蘇ったのだった。


「最悪の持久戦だな……!」


 俺は吐き捨てるようにそう言った。

 いくらロロが強く、俺には魔法の剣があるとはいえ、生身である以上は体力に限界がある。

 アンデッドたちと耐久合戦なんてしようものなら、敗北は目に見えていた。


「くそ、どうする……!」


 しかし囲まれた状況では逃げることもできず、かといってリッチに近付くにはグールたちが邪魔だった。

 俺は考えを巡らせる。

 ならどうする、それなら――!


 そのとき、意外な人物が声をあげた。


「――お願い」


 俺は視線を彼女に向ける。

 そこには膝をついて祈るように手を組んだ、ユアルの姿があった。


「……来て!」


 彼女が目を見開く。

 その目は赤い魔力が宿っていた。


 彼女の呼びかけに応えるように、声がする。


「――グゥォォオオ――!」


 それは天井に空いた穴の向こうから聞こえてきた。

 規則的な足音と共に、唸るような声が遺跡の中に響き渡る。


「――ガァァァア!」


 それは穴から飛び降りてくると、その巨体と爪でグールを斬り裂いた。

 そして手近なグールに噛みつくと、その”ソードタイガー”の名の由縁たる大きな牙で引きちぎる。


「マフ!?」


 洞窟を駆け抜けてやってきたのは、外で待機させていたはずのソードタイガー、マフだった。

 主人のピンチに駆けつけてくれた――にしてはタイミングが良すぎる。

 おそらくは――。


 俺が視線を戻すと、赤い瞳のままのユアルが立ち上がっていた。

 マフがゆっくりと彼女の元へと歩み寄る。


「いい子」


 ユアルがそう言ってマフの頬を撫でると、マフは頭を垂れるようにしゃがんだ。

 ユアルがその背中に乗り込む。


「行こう」


 短くそう言ったユアルの言葉に呼応して、マフは吠えた。

 グールを噛み千切り、押しのけ、そして蹴散らしていく。


 ――それはユアルの力なのだろうか。

 だとして、遠くにいるマフを呼び寄せることができる力っていったいなんなんだ……?

 ……いや、今はそんなこと考えている暇はない!


 一連の出来事に呆気にとられていたが、俺は我に返ってロロに声をかける。


「チャンスだ!」


 同じく放心していたロロも、俺の言葉に気づいて瞬時に地面を蹴った。


 ユアルがマフに守られ、そして周囲のグールが倒された状態。

 ……つまりそれは、ロロの手が空いた状態!


「――駆けろ剣閃、貫け刃――!」


 それは魔術と同じく、詠唱による精神統一。

 ロロの持つ刀身に彼女の魔力が宿る。


「――奥義! ポステリタス・ウィクトリア!」


 一閃。


 放たれたロロの渾身の一撃は空を斬る。


 そして同時に、その正面にいた六体のグールが斬り裂かれた。

 魔力による不可視の多段遠距離斬撃。

 いったいどれほどの修練を積めば放てる技なのかわからないが、端から見ればそれは魔術の領域の剣技だった。


 しかしそれで、道を阻む障害はなくなった。


「――あいにくと俺はただの雑用なんで、必殺技みたいなものはないが!」


 俺はロロが斬り拓いた道を駆け抜ける。

 邪魔をする者は既にいない。

 そして相手の親玉に向かって、剣を振りかぶる。


「チェックメイトだ!」


 切り崩した陣形の隙を突き、リッチを切りつけた。


 ――しかし。


「……ぐっ!」


 その骨の腕に、がっしりと刃を掴まれる。

 おそらくそれは魔力のシールドを纏った手。


 ――俺じゃあこいつに届かないのか……!


 リッチはもう片方の手で、杖を振り上げる。

 その先端に炎が宿った。


 剣は掴まれており、このままでは魔法を吸収することもできない。


 ――俺の負けか――!


 そう思った瞬間。


「――アイシクルエッジ!」


 ミュルニアの声がした。

 背後から降りかかった氷の魔術は、精密な曲線の軌道を描いて俺の握る剣の刀身へ直撃する。


 そして剣は、その氷の魔力を宿らせた。

 俺の手の中で完成する、氷の魔剣――!


「――うおおおぉぉ!」


 力を込める。

 ミュルニアの魔法を吸収した魔法剣が、リッチの骨に食い込んでいく。

 リッチは焦った様子を見せ、逃げようとするがもう遅い。


 氷の剣は辺りに霜を振りまきながら、リッチの骨の体を両断した。

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