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エピローグ

 その後麗花とは鏡弥は元の地区に戻り、残った結花と海斗と優弥は新たな道を歩み始めた。

 それぞれの地区に別れ、違った形ではあったが日本を変える戦いが続く。


 未成年でありながら、実名報道で犯罪者と断言され、誤認逮捕されたのは、問題だと世間の反感をかい、麗花と結花は悲劇の少女として、反双子分割居住法のシンボルとなった。


 麗花は小さなテロ組織を吸収合併し、デモ隊を結成。『双子分割居住法』反対の反政府デモを大々的に行った。その活動はたびたび世間の話題に上り、国民の中にある双子分割居住法への問題意識を高めていった。

 結花は大学を卒業後、弁護士になり、経験を積んで『双子分割居住法』は国民の自由を保障する憲法違反であると糾弾。違憲のため法律廃止のため訴訟を起こした。

 二人は離れていてもたびたび手紙で連絡を取り合い、励まし合い、互いに慰め合いながら、己の舞台で戦い続けた。



 テレビの中で堂々と音無麗花は演説をしていた。未成年時代に犯罪者として報道された麗花もすでに立派な大人となって、貫禄さえ見せ始めている。

 その隣に立つ鏡弥もまた、少年時代の荒っぽさがとれ、力強く凛々しくなっていた。

 Rhapsody in Blueの店内で、それを眺める結花と優弥もまた、柔らかな空気の中に芯の通った強さを感じる風貌になっていた。


「二人とも……どんどん力強くなっていくわね」

「それは結花ちゃんもじゃない? 固い法曹界で若手があれだけ活躍できるのも、凄いと思うけど」

「海斗と優弥の協力があるから」

「僕は……ジャーナリストとして戦ってきた先輩達のおかげで、楽できてると思うよ」

「そう? 情報規制が一番の敵だったから、そこを切り崩せたのは大きかったと思うの」


 マキの紹介でSmoke Gets In Your Eyesの手伝いを始めた優弥は、情報規制をかい潜り、何度となく政府に都合の悪い情報を、拡散しつづけた。

 それは仲間達への大きな援護射撃となる。


「海斗君も凄いよね。まさか警察に入るとは思わなかった」

「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』だって。内部から情報リークしてくれるおかげで、麗花も私も凄い助かってる」


 海斗がテログループと関わりがある事は、仲間以外誰も知らなかった。むしろ姉弟揃ってテロの被害にあった過去は、テログループを憎む役割を演じるのに説得力をだしていた。

 双子分割居住法の廃止を目指す、結花とさえ距離をとった。


「そのせいで……表だって会う事もできないんだけどね」


 結花の寂し気な表情に、優弥は柔らかく微笑んだ。


「スパイがばれたら大変だもんね……。でも、この戦いが終わったら……なんでしょう?」


 揶揄いを含んだ優弥の言葉に、結花は軽く睨んだ。


「皆のおかげで裁判の勝利が見えてきたから。後少し、後少し……よね」


 結花の言葉に優弥も頷いた。

 そんな二人をキッチンから無言で見ているマキの顔には、皺が刻まれている。角の取れた柔らかな顔に、わずかにかつての荒っぽさが滲んでいる。

 テレビの中の光景が眩しいように目を細めた。


「時代は変わるね……ここの空気はちっとも変わらないのに、あのガキもまた……良い男になったね」


 二人に聞こえない程の小さな声で呟いた。


 鏡弥の活躍は、他の仲間達とは違って、表にでてこない。

 綺麗事だけでは戦えない。誰かが危険な汚れ仕事をしないと、そう決意して警察相手に戦い続け、刑務所と表社会を行ったりきたりを繰り返す。

 鏡弥が逮捕される度に、結花が弁護を引き受け、何度となく減刑を勝ち取ってきた。

 そしてやっと今、表舞台に顔をだし、麗花の隣に立つ事ができるようになった。


 かつての仲間達は、長い間、違う立場で協力し戦ってきた。

 どれほど社会が押さえつけようとしても、若い世代の情熱の煙をかき消す事はできない。

 そして皆の願いは実を結ぶ。


『双子分割居住法は違憲であり、国民の基本的人権を著しく損ねる法律である。また昨今の世論の風潮をみるに、この法律をよしとしない国民感情もある事から、この法律は廃止すべきである』


 最高裁の判決を受け、国会で『双子分割居住法』は廃案となった。ここに晴れて双子が共に住む世界が実現した。


 麗花は数十年ぶりに結花の家を訪ねていった。

 手紙や電話で連絡は取り合っていた、でもずっと直接会ってなかった。

 だが、もはや越境などという馬鹿らしい罰は存在しない。堂々と会いにいけるのだ。


 ぴんぽーん。結花の家のチャイムを鳴らし、扉が開くまでのわずかな時間、麗花は長年の想いを噛み締めるように微笑んだ。

 扉が開くと、記憶の中よりずっと年を取った結花がそこにいた。


「おかえり麗花」

「ただいま」


 しばらく無言で見つめ合った後、二人はしっかりと抱きしめ合った。

 何十年ぶりかの姉妹の再開。互いに年を刻み、苦労を重ねた二人の顔は双子なのにちっとも似てないおばさんだ。

 それでも思春期の少女のように、無邪気に再開を喜び合う笑顔だけはそっくりだった。


 二人の少女の変身で、やがて世界は変身した。


『双子分割居住法』 完

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