表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/26

23

 麗花はただ黙秘を続けていただけだった。仲間の事を守るため、決して口を割ってはいけないと頑なに心を閉ざしていた。ただそれだけなのに時間が経つにつれ警察内部に明らかに動揺が見て取れた。

 そしてある日突然こう言われた。


「音無結花。釈放だ」


 意味が分からなかった。なぜ突然釈放なのか、そしてなぜ自分が結花なのか。ただ時間が経つにつれ分かってきたのは、自分が結花と間違われている事だ。

 そして結花ならば罪状はないのだから釈放は当然だった。


 警察署を出た時、久しぶりに感じたまぶしい日の光に思わず目を細めた。娘が釈放されたというのに両親ともに迎えに来なかった。可憐のいうとおり仮面夫婦、冷え切った家族なのかもしれない。

 私は家族という物に少し幻想を抱きすぎていた事を自覚した。家族といえど他人、そう思って自分の力で世界を生きぬくしかない。

 俯きながら歩き出したその時だった。


「音無さん」


 顔をあげて声の方を向くとそこには結城海斗がいた。


「よかった。無事釈放されて心配してたんだよ」


 笑顔でそう言いながら駆け寄る。その姿は嬉しかったが、この男は自分を結花だと思い込んでいるだけだ。そう思うと少しだけ結花に嫉妬した。


「迎えに来てくれたの? ありがとう」

「うん行こう」


 間近に接近した時に海斗が、他の人間に聞こえないようにこっそりと言った。


「音無さんが待ってる」


 その言葉だけで彼が自分が麗花だと分かっている事に気づいた。そして自分を待っていてくれる姉の存在が嬉しかった。

 彼女がここに来るわけにはいかない。なにせ自分が結花なら、姉は犯罪者の麗花になっていなければいけないのだから。

 警察署なんかに来るわけには行かないだろう。その代わりに海斗を寄越した。その気遣いが嬉しくて少しだけくすぐったい。


 Rhapsody in Blueについた時、帰って来たという実感がした。ホームを家だと思った事は無かった。結花の家も隠れ潜むように潜り込んでいただけだ。

 でもここには姉がいる、仲間がいる。自分を待っていてくれる人がいる。期待に胸を膨らませて扉を開いた。


「麗花出所おめでとう」


 笑顔で出迎えたのは私だった。


「え?」


 髪型も服装も表情も私そのものの、まるでドッペルゲンガーの様な存在がそこにいた。


「驚いてるな麗花。俺も驚いてるぜ。まさかコイツが本物の麗花じゃなかったなんてな」


 鏡弥の言葉にもう一度私そっくりの相手を見る。じっくり観察してそっくりな顔立ちにまさかと気づいた。


「結花……なの?」

「そうだよ。お姉ちゃんだよ」


 言いながらいきなり可憐は私に抱きついてきた。初めて会った時俯いて暗い表情だったあの姉が、いつもびくびくおどおどして目もあわせなかったあの姉が、まさかこんなに変わるなんて。

 確かに最後に会ったあの晩の姉は、少し明るくて優しかった。でもまさか自分を助けるほどの行動力を持ってるなんて思わなかった。


「ありがとう。お姉ちゃん」


 自然と涙とともに言葉がこぼれ落ちた。結花の体を抱きしめ返す。温かい。これが家族なんだ。

 私は今まで結花を利用する道具とどこかで思っていた。でも世界でただ一人の家族なんだ。そのことにやっと気がついた。


「おかえり麗花」

「ただいま」


 それは家族の始まりの言葉であり、二人の共同作戦の始まりでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ