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二人で食事

(8)

 買い物と少しの街案内を終えて、帰って来た実亜とソフィアは庭で干し魚を焼いていた。

 ソフィアの家にはキッチンがあるけれど、多分魚を直火で焼けるようには出来ていないから、薪を組んで、火を付けて――魚を串刺しにして(あぶ)るように焼いている。

「思ったより煙が出るが、香ばしくて良いな。これは野営の時みたいに豪快に齧り付くのか?」

 野営――確かキャンプを野営と言うはず。それでソフィアの手際が良かったのかもしれない。騎士はそういう訓練もするのだろうか。

 焼いている今もキャンプみたいなものだから、その食べ方でも良いかもしれないけれど、何か騎士の威厳だとかが崩れないだろうかと実亜は心配になった。

「えっと、大体の食事は箸で食べるので身だけを掴んで食べるんですけど……」

 でもこの世界に箸はあるのだろうか――実亜は説明しながら、箸の次の説明を考えていた。

「ハシ……?」

 案の定ソフィアは不思議そうな顔をしている。

 ハシ――橋とか端とか似たような言葉もあることだし。

「細い棒を二本使って、食べ物を挟んで食べるんです」

 実亜は落ちている小枝を拾って、再現してみた。見せたほうがわかりやすいと思ったからだ。

 小枝を箸代わりにして、小石を拾う――案外上手く掴めるものだった。

「成程……難しい。ミアは器用だな」

 ソフィアは実亜の持っていた小枝を受け取って真似をしているが、苦戦している。

 普段何気なくやっていることだけど、人によっては難しくなるものなのだと実亜は思った。


「良い色に焼けた。美味しそうだ」

 干し魚がこんがりと焼けて、皿の上に盛られてテーブルに置かれていた。

 少し豪快に盛り付けているけど、美味しそうだ。

「大根おろし作りますね。あ、ラデでしたっけ」

 実亜は大根――ラデを適度な大きさに切って、準備をする。

「ああ、おろし金はこれだ。使い方は同じか?」

 ソフィアが金属のヤスリみたいなものを渡してきた。でもこれはおろし金だと一目でわかる。

 何処か違っていて、何処か似ているこの街――わりと居心地は良いと実亜は思った。

「はい、私の国のものと少し似てます」

 実亜はおろし金でラデをすりおろし始める。

 こちらのおろし金は食材ではなくておろし金のほうを動かすみたいだ。

 切れ味が良いので調子良くラデがすりおろされる。少し味見をしたが、大根そのものだった。

「ほう……降り始めの頃の雪みたいだ。もうすぐリスフォールにも、また雪が降るな」

 最初の雪は水分が多い(みぞれ)で足が滑りやすいから靴に(びょう)――スパイク的なものを着けるらしい。

「リスフォールは雪が多いんですか?」

「一年の半分は雪が降っている。そのうち半分はずっと積もっている」

 積もれば不思議と冷え込みも収まる――ソフィアはそう言って、実亜の手元を見ていた。

「そんなに……暮らすの大変じゃないですか?」

 基本的には馬での移動だろうから除雪車なんてないだろうし、除雪は手作業だろう。

 馬がメインということは、もしかしたら交通も止まるかもしれない。

 だけど、街は賑わいがあるし生活は止まらないと思う。

「慣れれば案外楽しいものだ。すりおろしてから水気を絞るのか」

「はい、適度にですけど。魚を解しながら、これを少し乗せて食べます」

 実亜は話をしながら出来上がった大根おろしを皿に盛る。

「成程。じゃあ、食べようか」


 ソフィアはナイフとフォークで綺麗に焼いた干し魚を一口大に切り分けている。

 騎士はこういった礼儀作法も教え込まれる――堅苦しくて面倒だが。ということらしい。

 しかし、実亜には使い慣れないナイフとフォークなので、見様見真似で切り分けていた。

 切り分けた干し魚に、ラデのすりおろしたものを少し乗せて、ソフィアが一口食べる。

「む、美味しい。魚と塩の味が引き立つな。香ばしいし、酒に合いそうだ」

 納得出来る味のようで、ソフィアはまた一口、また一口と食べ進めていた。

「お酒と一緒に食べる人も多いですよ」

「ほう――酒は各地で違うと言うが、ミアの国の酒はどんなものなんだ?」

 ソフィアは燕麦の粥を合間に挟みながら魚を食べている。

 箸ではないけど箸休め的に魚とも合うし、ラデを生で食べるのも珍しくて楽しいらしい。

「えっと、色々ありますけど米を使った日本酒が昔からあります」

 蒸して発酵させる――実亜は手短に説明をする。説明も何も酒は大体似たような作り方――

「コメ――多分もう少し南の方の地域の名産品だな。燕麦の親戚のようなものだろう?」

「はい。もっと粒がしっかりしてて、もちもちしてて――もちもちってわかります?」

 実亜はソフィアとの米の認識を確認していた。

 今食べている燕麦も粘りはあるけど、粒があまりないので、同じ穀物だけど別物だから。

「もちもち? 芋を潰して丸めて焼いたものを芋餅と言うが」

 今度作ろう――ソフィアはとことん優しく実亜に笑いかけている。

「あ、多分その餅です。柔らかくて弾力のある感じをもちもちって言います」

「成程――もちもち、面白いな」

 ソフィアは言葉が気に入ったらしく、笑いながら可愛く「もちもち」と繰り返している。

 話し方はぶっきらぼうだけど、優しくて少し可愛い――実亜もつられて笑っていた。

次回、二人で一緒のベッドに寝る? 寝ない? どうしよう? みたいな。

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