おまじないと恋話
(66)
「恋人同士がギュッとして、ナデナデして、ベタベタすることをイチャイチャと言う……?」
アルナが不思議そうに実亜の言った言葉を繰り返している。
ソフィアが魔物討伐の野営に行った翌日、実亜は定期報告を聞くために自警団の詰所に行き、出くわしたアルナとお茶をしていた。
そこで実亜がたまに話す――というか、自然に出てしまう擬音語を少し解説していたのだ。以前に実亜が少し話していたのを不思議に思っていたらしい。
案の定、アルナは何度も復唱してどういう意味かを推理している。答えは少し待ってと、推理モードだ。
「ごめんなさい。わかりにくいですよね……?」
実亜はもう少し感覚的にわかりやすいものから解説するべきだったと心の中で反省する。でもギュッとだったら力を込めるとかの意味もあるし、広く使えるかもしれないとも思ったのだ。
「わかりにくいどころか、太古の呪文かなって? でも、言うといいことがありそうな気がするから、素敵かも。意味は全然わからないんだけど、恋人同士のおまじないみたいなもの?」
アルナはそれでも実亜の言葉を解読しようとしてくれている。でも早々に「答え教えて」と、笑っていた。
「ちょっと違ってて、少し力を込めて抱きしめることをギュッて言ったり、ナデナデとベタベタは撫でたり、触れあったりする感じ?」
でも、言われてみれば恋人同士にしか出来ないこと――実亜はアルナに答えを教えて説明していた。これはなんとなく惚気というものだろうか、なんて思いながら。
「あ、撫でるからナデナデ? そう言われたらわかるかも。イチャイチャは? 一夜を共に……だったら言うのは相当照れちゃいますね?」
アルナが自分でそう言いながら「ミアさん、思ってたより大胆なんだから」と照れている。
「詳しくはないんですけど、恋人同士が抱きしめたりナデナデしたりをまとめてイチャイチャ? あんまり大きな声で言うと駄目な場合もあるんですけど」
実亜は「でも、悪い言葉じゃないですよ」と、アルナに更に説明をする。
「じゃあ、やっぱり恋人同士のおまじないだ。リスフォールのおまじないって大きな声でしちゃ駄目って言い伝えがあるの」
アルナはリスフォールの恋人同士がよくやるおまじないを一つ教えてくれた。
銀貨をお互いの手の間に挟んで、指を組んだまま、願い事を小さく囁いてくちづけをする――それで、その銀貨をお守りにすると言うのだ。一度につき銀貨と願い事は一つだから、二人分だと二度くちづけをしないといけないので、必然的に何度も恋人同士の甘い時間が過ごせるらしい。
「素敵……」
おまじないという理由を付けて二回キスするのがいかにも恋人同士のおまじないだし、何処の世界でもこういった可愛くて素敵なものがあるのだと思うと安心感もある。
「ミアさんもソフィアさんとおまじないしてみれば?」
アルナがちょっと悪戯っ子のように笑いながら、皿に一つ残ったお菓子を半分に割って、実亜に渡してくれた。此処でも何個かあるお菓子などの最後の一個が皿に残る現象はあるみたいだ。
そして、それを分けてくれるのが、リスフォールの人たちの優しさでもあると実亜は思った。
「でも、そんな……お願いするのは恥ずかしいです」
「ミアさん大胆なのに……ソフィアさん、凄く喜ぶと思うけどなー?」
アルナはまだちょっと面白そうに笑って、実亜を盛り立てている。
「えー……喜んでくれるのかな……」
「絶対大丈夫。ソフィアさん、時々ティークに嬉しそうにミアさんの可愛いところを話してるって」
ティークはアルナの大事な人――恋人同士なのかどうかは詳しくはわからないけど、ソフィアとのそんなプライベートな話を伝えているのだから、かなり親しい仲だ。
「ええ……失敗談とかだったら恥ずかしいかも。アルナさんは、その……ティークさんとおまじないしてます?」
「それは秘密です。言っちゃったらおまじないの力がなくなりますから?」
アルナはそんな言葉で優雅にお茶を飲んでいる。
「おまじないの力……それって、もうおまじないしてるって言ってません?」
してなかったら効力を気にすることもない――実亜はアルナに返していた。
「本当だ……まあ、ミアさんになら話してもいいか」
アルナは慣れないことはするものじゃないと笑っている。
ちょっと恥ずかしいけど、ちょっと心地良い。そんなアルナとの恋話だった。
大事な人を待ってる二人のガールズトーク。




