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実亜の「言葉」

(65)

「え? 明日からなんですか?」

 実亜とソフィアの二人で夕食を食べている時、ソフィアが「明日の昼から魔物討伐の野営に行く」と急に言い出したのだ。

「ああ、今回は三日程度の予定だ」

 実亜には急なことだけど、ソフィアには予定通りのことなので、ソフィアは平然としている。

「わかりました。じゃあ、ご無事のお帰りをお待ちしてます」

 実亜自身、魔物の姿は見たことがないけど、ソフィアたちの魔物討伐自体は野営も含めて数度目になる。だから、大丈夫だと信じて送り出すしかない。勿論、心の隅には心配や不安もあるけれど、この世界で暮らすには慣れないといけない感情だ。

 それが、此処で生きる覚悟のようなものかもしれないと実亜は思っていた。

「ありがとう。ミアのお守りもしっかりと受け取ったから大丈夫だ。勿論、油断はしないが」

 ソフィアは改めて気合いを入れている。珍しく食事のおかわりもしていた。


「準備とかはしなくていいんですか?」

 実亜は夕食の片付けをしながら、長椅子に座っているソフィアをチラッと見る。

 ソフィアはゆっくりとリラックスしている様子で、地図を広げて今度の旅の予定を書き留めているみたいだ。

「いつも用意をしているから、特別に持って行くものも――お守り以外はないな」

 剣の手入れくらいか? ソフィアはいつも傍らに置いている愛用の剣を鞘から抜いていた。

 柄もいれて一メートルくらいの長い剣は鋭い金属の光を湛えて、少しの畏怖を覚えるような重厚さがある。だけど、ソフィアは軽々と手慣れた感じで扱っていて、それが素敵だ。

「どうした? 剣に興味があるのか?」

 ソフィアは実亜に笑いかけながら、剣の切っ先や柄を点検している。

「あ、その……私の国ではこういう武器がなかったので、まだ不思議な感じです」

 実亜は「練習用の剣とはまた違った重厚さがある」とソフィアに返す。

「ふむ、そういえばミアの国では長筒を小型にした武器があると言っていたな。当てるのは難しそうだが、魔物の懐に踏み込まなくていい分、援護が出来そうだ」

 機会があれば見たいものだ――ソフィアは剣を鞘に納めて、点検を終えていた。丁度実亜も食器の片付けを終えて、ソフィアの隣に座る。

「魔物の懐……やっぱり、危険ですよね」

 わかってはいるけど、覚悟もあるけど、やっぱり心配は心配だ。

「こちらは鎧もあるし、大体の弱点もわかっているから、油断はしないがそこまで危険でもない――ミアは心配してくれているのだな、ありがとう」

 ヒヤヒヤだったか? ソフィアは武術大会のあとに実亜が言った言葉を覚えてくれていた。

「あれは間近に危険が迫った時とかに使う感じで……今の気分だと、ハラハラ?」

 言ってはみたけどどっちも同じ感じなのかもしれないと実亜は考えながらソフィアに答える。でも、ヒヤヒヤだと危険を見ている感じで、ハラハラだと見えないけど心配しているような――人によるから正解が出ない問題なのだけど。

「む、難しいな……はらはらだと、何かが舞い落ちる様子だろう?」

 ソフィアが親指を自分の顎に当てて、少し考え込んでいる。確かに、以前実亜は雪が舞い落ちる様子を「はらはら」とか「ひらひら」と言った。

「同じ言葉でも、使う状況で違う意味になるものがあるんです」

 すぐには思い付かないけど、結構沢山あるので帰ってくるまでに探しておきます――実亜はそんな約束をしていた。

「成程、舞い踊る舞踏と戦う武闘みたいなものか。私が言うと、大体戦うほうに誤解されるのだが……」

 ソフィアは実亜の身体を抱き寄せて「またミアの言葉がわかったぞ」と得意気に笑っていた。

「それです。でも私もソフィアさんだと戦うほうに誤解しちゃうかもです……」

 実亜はソフィアの腕の中で、優しい人の温度を感じる。

「はは――仕方ない。騎士とはそういうものだ」

 ソフィアは大笑いで実亜をギュッと強く抱きしめていた。

 そして――

「抱きしめることはなんて言うんだ?」

 と、実亜の言葉をもっと訊いてくれている。

 実亜はソフィアを抱きしめ返して、小さく息を吸っていた。

 ギュッとの説明――上手く出来るだろうか。なんて思いながら。

危機になるフラグとかじゃないです。(言っちゃった)

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