二人の時間
(56)
「わかった――ミアの言葉の秘密がわかったぞ!」
沢山ナデナデされたあとの夕食で、ソフィアが野菜スープ――煮込みを食べながら、閃いていた。今日の夕食は野菜の煮込みと、鶏肉をカレー粉っぽいスパイスで絡めて焼いたタンドリーチキンのようなものだった。
ソフィアは美味しいと嬉しそうに食べてくれている。
「え、何ですか?」
実亜は野菜の煮込みを食べながら、今度は魚のカレーを作ってみようかと計画していた。ソフィアは魚が好きだし、市場の干し魚の中には鯖もあったし――なんて。
「撫でることを二回繰り返して『ナデナデ』だろう? それなら今は『タベタベ』をしているんじゃないか?」
「食べる」を繰り返して「タベタベ」だ――ソフィアは自信たっぷりに実亜の言葉を解き明かそうとしてくれている。
「あんまり言いませんけど、でも聞いたことはありますから、そんな感じです」
タベタベ――何処かの方言にあったような記憶が実亜にはあるから、ソフィアにそう答えていた。
「そうか、また一つミアを知ることが出来た……嬉しいものだな」
ソフィアは嬉しそうにタンドリーチキンを食べて笑っている。こういうのも楽しいものだなと実亜にも鶏肉を取り分けてくれたりしていた。
「あの、ご飯を食べる時は『もぐもぐ』とかも言います。正解はないんです」
「そういえば、以前に言っていたな……そうなると難しいものだ。しかし、『もぐもぐ』……可愛いな」
ミアはいつも可愛い――ソフィアは甘く囁いて、さっきの「ナデナデ」の時も可愛かったと目を閉じてじっくりと噛みしめている。
「『タベタベ』も可愛いですよ」
「ふむ――可愛いか。照れるな……」
自分が褒められるとソフィアは物凄く恥ずかしがる。そんなところが実亜にとっては更に可愛くて、時々抱きしめたくなるくらい愛おしいのだ。
「ソフィアさん、格好いいのに時々凄く可愛いです……そういうところも、優しいところも、好きです」
実亜はソフィアに沢山の好きを伝えていた。言いたいことはちゃんと伝えたいから。この気持ちも、ちゃんと伝わって欲しいから――
「む……あ、ありがとう。その、言われ慣れてないが、ミアに言われると嬉しい」
ソフィアはフォークで鶏肉を何度も突いて、照れていた。
どちらかというと、さっき照れるようなナデナデを積極的にされていたのは実亜のほうだったのだけど――
「そろそろ風呂か――たまには一緒に入ろうか」
夕食の食器を片付けて、ソフィアが笑顔で実亜を誘う。
「ええっ!」
実亜は驚いて、飲みかけていたお茶のカップを取り落としそうになった。そんな大胆なお誘い、今日のソフィアはどうしたのだろうと思うくらい――のような気がしたけど、ソフィアは元々スキンシップ多めの人だし、あまり不思議ではない。
「そんなに驚くことではないぞ?」
ソフィアは驚いている実亜の頬と腰をマイペースに撫でている。
「リスフォールでは大浴場以外では一緒にお風呂に入らないって言ってたので……」
「それは寝床での作法と同じことだ」
リスフィールに限らず、ルヴィック帝国では夫婦や恋人しか同じ寝床――ベッドには寝ない。多少の例外はあっても、基本的に歓迎はされないから、風呂も同じことになる。
つまり――
「……えっと、つまり、誓い合う仲なら一緒でもいいっていうことですか?」
実亜はソフィアに確認をしていた。風呂は二人が入っても余裕のある広さだから、問題はないけれど――恥ずかしいとかを抜きにすれば。
「そういうことだな。ミアの身体をもっと沢山ナデナデもしたい」
「……あの、本音? が漏れてますよ?」
実亜はソフィアにやんわりとツッコミを入れていた。リスフォールにツッコミとかの感覚があるのかはまだ知らないのだけど。
「む、そうか? いや、しかし本心だしな」
困った――ソフィアはそう言いながら実亜の身体を何度も優しく抱きしめる。
「……一緒に、入ります」
「そうか、ありがとう」
ソフィアは嬉しそうに、風呂に入るのは「フロフロ」か? と首を傾げていた。
なんだろう、ちょっとぼんやり可愛いと実亜は思った。
ソフィアはわりと天然かもしれないです。




