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触れ合う二人

(46)

「ミア、最近コンディをしっかり使ってるか?」

 風呂上がりの実亜を見て、ソフィアが少し心配そうに、まだ少し濡れている髪にそっと触れていた。

「はい。一応、使わせてもらってます」

 ソフィアの言うコンディはヘアオイルみたいな液体で、風呂上がりに使うと髪がサラサラになるのだけど――どのくらいの値段がするのかわからないから、実亜は使う量を出来るだけ最小限にしていた。

 いっそ使わないという選択肢もあったのだけど、石鹸で洗っただけでは髪があまりにもゴワゴワして絡みやすくなるので、本当に少量だけ。それでも毎日のものだからわりと減っているはずだ。

「ふむ、一回の量はどれくらいだ?」

 ソフィアは実亜の髪にキスをしてから、コンディの瓶を持って来た。こういうさりげない仕草が素敵――実亜は大事にされている実感を味わう。

「えっと、手の平に馴染ませるくらいのを髪に伸ばしてます」

 実亜はいつも自分が使っている量よりちょっと多めに申告をする。

「それでは少ない。折角の綺麗な髪なのだから、もっと遠慮なく使ってくれ――そうだな、これくらいだ」

 ソフィアは瓶の蓋を開けて、手の平のくぼみに少し溜まるくらいのコンディを取り出していた。

 銀貨二枚分くらい――違う、五百円玉二枚分くらい――瞬時に銀貨の大きさに換算出来たのはリスフォールに馴染んできた証拠だろうか。だったら、それでいいのかもしれないと実亜は思う。

 丁度いい、おいで――ソフィアは実亜を呼び寄せると、コンディを丁寧に髪に馴染ませてくれていた。ふわっとほのかに甘い柑橘系の香りは、いつも心が落ち着く。

「ミアの髪は(あで)やかだな――」

 ソフィアはついでに、と軽く頭皮のマッサージまでしてくれる。コンディは肌にも良いらしく、指先で軽く指圧のようにケアをしてくれていた。

「そんな、ソフィアさんの髪だっていつもサラサラ――綺麗です」

 ソフィアの髪は元からの髪質もあるのだろうけど、細くてなめらかだ。それなりにロングなのに、絡まる要素が見付からないくらいサラサラとしている。

「綺麗はキラキラではなかったか? 他にも言い方があるのか?」

 ソフィアは興味深そうに「まあ、綺麗にも美しいとか麗しいとかあるからな」と付け足して、実亜の髪のケアを終えていた。

「あ、えっと『サラサラ』は手触りがいい感じのものを言う時に使います」

 実亜は「ありがとうございました」と、ソフィアにお辞儀をする。この癖はなかなか抜けなくて、ソフィアはいつも少し楽しそうに真似して返してくれる。

「ふむ――では、ミアはサラサラだな」

 ソフィアが実亜のお辞儀にお辞儀で返して、実亜をしばらく見つめるとそっと頬に触れていた。そして、抱きしめて実亜の息遣いを確認するように唇を近付ける。

 キスの手前――それはいつも甘い誘いだ。

「あまり……人そのものにはサラサラとは言わないですよ」

 髪とかになら使いますけど――実亜はソフィアに答えて、少しだけ目を伏せていた。

「しかし、手触りがいいだろう?」

 ソフィアは実亜の頬を何度もそっと撫でて確認すると、その手で首筋に軽く触れる。ふわっとした刺激がくすぐったくて、実亜は思わず小さな声を漏らしていた。

「そ、それなら、ソフィアさんだってサラサラでキラキラです」

 実亜は抱きしめられながら、ソフィアに返す。ソフィアだって触り心地はいいし、いつもキラキラしていて、とても綺麗な人だから。

「手触りが良くて、綺麗――ふむ、言われて意味を紐解くと照れるな……」

 親密なふれあいをする仲でないとサラサラというものはわからない――ソフィアはそう言いながら実亜の腰に手を回して、自分の言葉の意味するところを実践している。

「――可愛いには、何か似たような言い方はあるのか?」

 ソフィアが実亜の首筋にキスをして、そのまま耳元に囁くように訊いていた。

「え、えっと……可愛くてキュンとするとか」

「キュンとする。キュンキュンとする?」

 ソフィアは擬音語を繰り返して使っている。今までの擬音語は繰り返す言葉が多かったし、そうなるだろう。

「繰り返しても使います」

 実亜はソフィアの吐息を耳に受けながら、丁寧に解説する。

「成程、勉強になった。ミアはキュンキュンとする」

「ちょっと違います。可愛いものを見ていると、見ている人がキュンとする。みたいな感じです」

 心が騒ぐような感じで――実亜は「キュンとする」の詳しい説明をしていた。この状態では、説明している実亜がキュンとしているのだけど。

「ふむ。可愛いミアを見ている私がキュンとするのか?」

 ソフィアは難しいものだなと笑って実亜の髪を指先で()く。実亜の髪はさっきコンディを丁寧に塗ってもらったから、凄くサラサラになっていた。

「……恥ずかしいですけど、それで合ってます」

 実亜の擬音語のレクチャーがなんとか終わると、ソフィアが「そうか」と、ふわっと笑う。

 その笑顔は凄く綺麗で、優しくて――求めている温もりだ。

「私、今……ソフィアさんにキュンキュンしてます」

 実亜はソフィアの腕の中で、そんな告白をする。今更だけどソフィアは綺麗で格好良くて可愛い――全部の要素を持っている人だと思う。

「む……私は、可愛いのか?」

「はい」

「そうか、それは照れるな……」

 ソフィアは少し頬を赤くして、照れ笑いを浮かべていた。そんなところもキュンキュンするポイントだった。

「ミア――くちづけをしても?」

「……はい」

 ずっと待ってます――実亜は少し恥ずかしい告白をする。

「今夜は、くちづけだけで止まれそうにないが、構わないか?」

 どうも自制が出来ない――ソフィアは自分で「何故だろう」と言いながら実亜の髪を指先で遊んで、そのまま、もっと強く実亜を抱きしめていた。

「え、えっと――はい、止めないで大丈夫です」

 そんなストレートに求められるなんて、不思議だけど嬉しい。求めているのは自分だけではなくて、お互いに相手を必要としている証明だから。

「ミア――永遠の誓いを、何度でも貴女に」

 ソフィアは甘く囁くと、実亜にそっとキスをしていた。

キュンキュンしている二人。

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