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新しい知識

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 午後からは実亜の居た国の話――ソフィアが色々と教えてくれと言うので、今日はコンビニエンスストアの説明をしていた。

「一日中開いている店……そんなに急いで買うものといえば薬か?」

 実亜が「一日中休みなく開いている店が沢山あります」と言った時のソフィアの顔は、謎だらけの表情だった。今も少し不思議そうに、実亜のクイズを考えている。

 ソフィアの思い付いた答えは薬――確かに、夜中にあるとありがたい商品だし、実際に医薬品を扱うコンビニエンスストアもある。

「一つ正解です。わりと最近売られるようになりました。お薬を売るのには厳しい許可が必要なんです」

 だから、まだ薬を売っている店は少ない――実亜はソフィアに説明をしていた。

「成程、素人が薬を自由に使っては危険だからな。しかし、その他に急いで買うもの? 難しいな……夜中に必要になるものか……」

 かなり難しいぞ――ソフィアは考え込む時の仕草を――親指を顎に当てている。どうもこれがソフィアの癖みたいだ。

「夜食とかお菓子とか、夜中でもすぐ食べられるものが多いです。温め直してもらえますし」

 実亜はそんなソフィアを少しだけ楽しんで、大体のコンビニエンスストアで売られている品物をあげる。実際、売り上げのほとんどは食品なのだ。

「――夜中でも料理人が居るのか?」

「作っておいた料理を売るんです。温め直すのも簡単に出来るようになってます」

 実亜は器ごと温め直す機械があると、解説をする。機械というものはリスフォールにもあるから、なんとか意味は通じる。ただ、電子レンジの説明は難しいなと思った。

「コメを炊く機械があるとはミアが前に言ってたな。温める機械もあるのか。しかし、味が落ちてしまわないか?」

 食べ物のほとんどは出来たてが一番美味しいとソフィアが首を傾げている。

 確かに、出来たての料理は美味しい。それは実亜も同じ意見だった。

「そこで、味が落ちにくいように専門の研究家が居るんですよ」

 研究家というか商品開発だけど、似たようなものだから実亜はそこをちょっとだけ端折る。

 以前に料理の研究家が居ると話していたこともソフィアは覚えていて「成程」と、深く深く頷いていた。

「しかし、いくら人を雇っているとはいえ、一日中店を開けているのは大変だな。騎士団でも自警団でも寝ずの番を担当する者は居るが、朝に帰って寝て起きたら夕方で何も出来ないと――」

 ソフィアがそう言いながら、ハッと(ひらめ)いている。

「まさか、そういう見張りの番をする者たちのための店か?」

 その閃きは正解だった。リスフォールで一晩中起きているのは見張り番をする人たちだから。

「あっ、そういう面もあります。警察官――自警団みたいな街を守る人とか、夜通し荷物を運ぶ人とかが食事の買い物をしたり、休憩したりもしてます」

「……ミアの国には忙しい人が沢山居るのだな……ミアもその店を使っていたのか?」

「ほとんど毎日……おむすびとか買ってました」

 安くてお腹に溜まる食事がおむすびとかだった――実亜は苦笑いで答える。

「ふむ……あのオムスビが買えるのは羨ましいが、大変だったなとしか言葉をかけてやれない」

 ソフィアは実亜の頭を撫でて、凄く優しい顔をしている。

 あの時――近くにソフィアが居てくれたら、少しは辛くなかったのかもしれない。そんなのは無理なことだけど、実亜は少しだけ過去を振り返ってしまう。

「でも、今はソフィアさんのおかげで本当に穏やかに過ごせてます」

 過去は過去で、もう戻れないから実亜は前を向く。それが出来るようになったのは温かい人たちのおかげだと思う。きっと、それだけ生きるための力が蓄えられてきたのだ。

「そうか――それならいい。ありがとう、今日も勉強になった。世界は広いのだな」

 ソフィアは実亜の身体をギュッと抱きしめて、背中を軽く(さす)ってくれる。

 その温度はソフィアの確かな愛情を、しっかりと実亜に伝えてくれていた。

「はい。私もいい勉強になりました。またお返しにリスフォールのこと教えてください」

 実亜はソフィアの服を少しだけ掴んで、少しだけ勇気を出す。

 頼って、甘える勇気――自分とはあまり縁がなかったから、勇気を出さないと言えないのはおかしなことだと思うのだけど。

「そうだな――冬の間だけ現れる、雪で出来た家の話なんてどうだ?」

 ソフィアは実亜の手を取って「了承した」と、手の甲にキスをする。カジュアルに交わされるけれど、騎士の誓いはいつも実亜の心がときめく仕草だ。

「雪で出来た家……凄く気になります……」

「それなら、明日の夜のお楽しみにしよう。予報士たちの話だと明日の夜は吹雪が来るかもしれないそうだ」

 そういう時は寝床で休むしかない――ソフィアは少し悪戯っ子のように笑う。

 予報士はそのまま気象予報士のような存在で、ばあやのように長命族の人たちが多いらしい。

「はい――楽しみに待ってます」

「吹雪が楽しみなのか?」

 外には出られないし、風はうるさいし、わりと大変だぞ? ソフィアがまた笑う。

「違います。ソフィアさんのお話が楽しみなんです」

「わかっている。ミアは可愛いな」

 ソフィアは実亜にキスをすると、もう一度しっかりと抱きしめてくれていた。

ソフィアはおむすびを気に入ってます。

最初の投稿で「おにぎり」と書いていたのですが、確認したら「おむすび」だったので表記を統一しました。

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