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武闘と舞踏

(36)

「お疲れ様でした」

 実亜はブランケットを手に、訓練を終えたソフィアに近付く。

 三時間くらいの訓練を終えたソフィアは、身体が熱くなったのかノースリーブのちょっとしたスポーツウェアのような上着だったから、身体を冷やすのは良くないとブランケットを手渡す。

「ありがとう。訓練くらいなら疲れはしない。それより、ずっと見ていて楽しかったのか?」

 ブランケットを肩にかけて、ソフィアが優しく笑う。その笑顔に実亜は今更ながら見惚れてしまう。

「はい。なんとなくダンス――えっと、舞い踊るような感じで綺麗でした」

「ふむ。一応幼少の頃から舞踏は嗜んでいたが、それが剣にも役立っているのかもしれない」

 ソフィアは木剣を壁に戻して、汗を拭いていた。

 そして、上着を拾ってブランケットと入れ違いに羽織る。

「舞踏……騎士様には舞踏会みたいなのもあるんですか?」

 実亜はソフィアがドレスを着て踊る姿を空想するのだが、あまり上手くいかない。

 綺麗は綺麗だと思うのだけど、どちらかと言うと今の騎士の制服のような姿が似合う――何故だろう。実亜が見慣れている姿だからなのだろうか。

「ああ、首都だと頻繁に開催されているな。わりと楽しいが、訓練より疲れる」

「そんなに疲れるんですか?」

 華やかな場所で、華やかなダンスで、社交が活発な場所――確かに疲れそうだと実亜は思った。

「次から次に手合わせを申し込まれる……」

 手合わせということは、この世界にも社交ダンスのように二人で踊るものがある――そして、ソフィアは引く手数多(あまた)の人らしい。

「それは……ソフィアさんの人気があるからじゃないんですか?」

 ソフィアは水分補給をしているソフィアに疑問顔で答える。

 社交の場でお近づきになりたいのだとしたら、そういう舞踏会なんかが一番良いのだろうし。

「私の舞踏の技を確かめたいのではないのか?」

 申し込んできた相手は全員緊張していたぞ――ソフィアも疑問顔だ。

「多分……一緒に踊りたいとか、お近づきになりたいとか、お話ししたいとかだと思います」

「成程。舞踏も難しいものだな? 興味があるなら、今度舞踏会に行こうか」

「え、私、踊れませんし、そんな華やかな場所は……」

 実亜は慌てて首を振って、ソフィアの誘いを遠慮していた。

「舞踏なら教える。それに首都よりはもっと気楽な舞踏会だ。正装もしなくて良い」

 どうだ? ソフィアは物凄く素敵な笑顔で実亜を見る。実亜には断ることが出来なかった。


「そう、手は相手の腰よりも少し上の辺りに――もう片方の手は軽く握る感じだな」

 帰宅してから夕食までの間、ソフィアが早速ダンスを手取り足取り教えてくれていた。

 まずは基本の構えから――二人で向かい合って、軽く抱きしめる感じで、ソフィアはゆっくりと手の位置を指示してくれる。

「こう……ですか?」

 実亜はソフィアの腰の辺りに触れて、背中にそっと手を這わせていた。

「そのまま、こちらが足を引いたところに、間合いを詰めて自分の向かい合う足を静かに踏み込む」

 ソフィアが右足を軽く引く、実亜はそこに左足をそっと踏み込む

「お、良いぞ。そのまま、続けて踏み込んで攻撃――ではなく、調子を合わせて次々に連撃……何か少し違うな」

 教え方の例えが舞踏ではなくて武闘なのがソフィアらしいけど、言っていることはなんとなく実亜にもわかるので、そのまま続けて短いステップを踏んでいた。

 今まで踊ったこともなかったけど、ソフィアに導かれるようにリードされて、足を踏むこともなく良い感じで踊れる――ソフィアの教え方が上手いからだろう。

 ソフィアが口ずさむ「一、二、三、一、二、三」というリズムに乗って、実亜はソフィアに身体を委ねてダンスを楽しんでいた。

「ミア、上手いじゃないか」

 ソフィアは一連の流れを教え終えて、実亜を褒めてくれる。

「え、教え方が上手なんですよ」

「いや、しかしあれでは戦いの心得のようなものだった気がする……」

 間合いとか攻撃とか――ソフィアにも多少自覚はあったらしい。

「戦いもタイミング……間合いとか、調子? ですよ、多分ですけど」

 今日の訓練でもソフィアはしっかりと相手との間合いを見ていたし、攻撃も流れるようだったから、本当に実亜の思う多分なのだけど。

「ふむ。確かに敵との間合いは大事だな」

 ダンスの練習が済んだのに、ソフィアはまだ実亜の身体を軽く抱きしめたままだ。

「ですから、きっと舞踏を教えるのもお上手なんですよ」

 実亜はソフィアに甘えて、しばらくそのままでいた。

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