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安心と心配と

(18)

 あれから穏やかに数日が過ぎていた。朝と夜の冷え込みは一層厳しくなっていて、ソフィアの話ではもうすぐ降る雪が根雪になって積もる頃らしい。

 ソフィアは「積もる時は一晩だ」とも言っていた。

 今日も実亜はソフィアを仕事に送り出して、手伝いとして家事をこなす。

 この数日でかなり感覚が掴めてきて、リスフォールの料理も作れるようになった。

 買い物も一人で行けるようになったし――出来るだけソフィアが一緒に来てくれるけど。


「ミア、今夜辺り雪が積もりそうだ」

 夕方――リューンの小屋から戻ってきたソフィアがマントを外して嬉しそうにしていた。

 ソフィアは雪が好きなのだろうか、いつも雪が降りそうな時は楽しそうだ。

「わかるんですか?」

 実亜はまた、初雪の時と同じことを訊いていた。

 空の様子とか、冷え込みの様子で総合して判断しているのだとは思うけれど。

「ふむ、初雪の時間は少し外したが、雪が積もる夜はわかるぞ?」

 ソフィアはそう言いながら実亜の入れた温かい牛乳を受け取っていた。

 一口飲んで「ありがとう、温かい」と優しく笑う。

「何か決まりがあるとかですか?」

「山狼の遠吠えが聞こえた」

 ソフィアによると、それが決まりみたいなものらしい。

「遠吠え……山には狼もいるんですか?」

 魔物もいて、狼もいて、一年の四分の一は雪が積もっていて、結構大変な環境だと実亜は思う。

 そういった自然とは遠い街に居たからそう思うだけだろうけど。

「ああ、魔物よりはリスフォールの近くに住んでいるが、出くわすと可愛いものだぞ」

「狼が可愛いんですか?」

 テーブルに向かい合って座って、実亜はソフィアにまた訊いていた。

「干し肉の欠片をやると尾を振って腹を見せる。人に慣れているし道案内もしてくれるから、仲間みたいなものだな」

 たまに親子連れで挨拶に来ることもある――ソフィアは楽しそうに山狼のことを話している。

 それは犬なのではないだろうか――でも犬は元は狼だし、実亜には少し謎だった。


「そろそろ寝る時間――!」

 ソフィアが言いかけた時、街に鐘が鳴り響いていた。ソフィアは急いで立ち上がり、鎧を身に着けている。その表情からは、さっきの柔らかさが消えていた。

「魔物が出た、ミアは家から出るな。帰りは夜明けになる」

 ソフィアは短く告げると剣の柄を握って、装備の最終確認をしている。

「え、あの……お気を付けて……」

 緊急事態――それはソフィアの表情からも実亜にわかった。

「――ありがとう、心配しなくて良い」

 ソフィアはふわっと笑うと、実亜の頭を撫でる。

 普段はしない、二人の時間だけに許された仕草だ。

「はい。お待ちしてます」

「無理せずに寝ていて良いぞ?」

「……はい」

 実亜はリューンに乗って駆け出すソフィアを見送っていた。

 きっと疲れて帰ってくるだろうから、何か温かいものを作って待っておこう――

 それが、今の実亜に出来ることだから。

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