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デート大作戦(2)

(129)

「アステリアとクロエの二人で『でえと?』どういうものなの?」

 屋敷での昼食の時間に、母親のローナがアステリアたちの話を楽しそうに聞いていた。

 若い人たちは新しい言葉を作るものよね、と興味深そうにしている。

「二人で街中に出て買い物をしたり、食事をしたり、観劇をするものらしいんです」

 ファウナも楽しそうに説明している。というか、こちらではデートというものがないのか、クレリー家の人たちが立場上そういったことをしないのだろうか――実亜は話を聞きながら考えていた。

「街に遊びに行くわけね、いいじゃない。アステリアも街に慣れるほうがいい年頃ですからね」

 いつでも行ってらっしゃいな――ローナは物凄く理解のある母親だった。

「では、ミアにデートの秘訣を詳しく訊かなくてはならないな。妹たちのために一仕事お願い出来るか?」

 ソフィアも理解のあるお姉様だから、妹たちの希望を叶えるために張り切っているようだ。

「まあ、『でえと』はミアさんの国の風習なのね? それは更に興味深いわ?」

 ローナは更に楽しそうに目を輝かせている。

 食卓に居る全員の視線が実亜に一気に注がれていた。

「えっ、風習と言うか……お互いを理解するために、二人で出かけるような感じでして、私はデートの経験はないんです」

「何を言う。ミアは私と何度もデートをしているではないか」

 実亜の言葉にソフィアが笑顔で「ミアとのデートはいつも楽しい」と、答えてくれている。

「ソフィアさん……」

 実亜はソフィアの笑顔に照れ笑いで返していた。

 若干「デート」という言葉の意味が違って伝わっている気がするけれど、実亜にとってソフィアの言葉は嬉しいものだった。

「それならソフィアお姉様もデートの達人だから、お二人に教えていただくの」

 アステリアが可愛くそんなことを言う。

「成程。達人と共に居ることで、私も少しは教えることが出来る程度には習得しているのか……」

 ソフィアが不思議な納得をしている。そもそも実亜自身が達人ではないのだけど、その辺りはわりと大雑把な判定らしい。

「心強いお姉様たちね。私も後学のために教えていただくわ」

 ファウナが「私だってまだ諦めてないのよ」と言う。

「このお母様にも詳しくお聞かせ願えるかしら?」

 ローナもノリが良くて、目をキラキラさせていた。

 クレリー家の人たちは好奇心が旺盛とでも言うのだろうか、新しいことをどんどん取り入れるための努力が凄い。

 伝統のある公爵家だからといっても、厳しく「伝統」というものを守り続けているわけでもないらしい。

「はい、あの、えっと……絶対の正解ではないのですけど、私の知ってるデートは――」

 実亜は持てる知識をフル活動させて、「デート」というものの説明を始めていた。


「なるほどね、『でえと』では気に入った店をそのまま買ってはいけないのね……」

 ローナがかなり豪快な納得をしている。

 アステリアもクロエも、まだクレリー家の事業に深く関わってはいないから、多分、店を丸ごと買うなんて事態は起きないだろうけど、クレリー家は時々「まさか」みたいな大胆さがあるから、実亜としても納得してもらえて良かった部分だ。

「はい。デートはお仕事ではないので、二人で過ごす時は一旦お仕事を忘れて二人の時間を過ごすほうが……」

 実亜は意外とワーカーホリックなローナに答えていた。大きな公爵家を維持するとなると、プライベートでも仕事のことを考えてしまうだろう――大きな家ではないけれど実亜にも「家計」というものが知らない間に伸し掛かっていたし、不思議な共通点を見付けたような気分になる。

「二人の時間を過ごすのなら、劇場は貸し切ったほうがいいの?」

 貸し切りだと私のお小遣いでは足りないかも――アステリアが首を傾げて実亜に訊く。

 劇場を貸し切ったり、劇団を呼ぶ発想はソフィアもファウナも言っていたことだから、流石姉妹で似ている――そのわりに「お小遣い」という単語がミスマッチで、不思議な面白さがあった。

「いえ、観客の皆さんで盛り上がる楽しさもあるので、それはお勧め出来ません」

 皆さんで拍手をしたり音楽に手拍子をしたり、楽しい場面で笑ったりするのも「雰囲気」という大事な要素です――実亜は大胆すぎるクレリー家の姉妹に答えていた。

「ミアお姉様、食事は何がお勧め?」

 帝都は美味しいものが沢山あるから迷うかも――ファウナが言う。

「あまり豪華なものではなくて、少し気軽に食べられるようなお食事のほうが、最初のデートにはお勧めだと思います」

 実亜は少し考えてから、アステリアとクロエの二人に合うプランを答えていた。

 もう少し大人のデートだったり、特別な日のデートなら豪華な食事のほうが好まれる話は沢山聞くけど、この二人はそういうことじゃないと思うから。

「ふむ、デネルだと気軽すぎるから、もう少し……」

 ソフィアが言う「デネル」はサンドイッチのようなもの――リスフォールでも帝都でも定番の軽食だった。

「それなら、最近流行の一皿定食はどうかしら?」

 ローナが楽しそうにデートでの食事のメニューを提案してくれる。

 一皿で定食というところから、ワンプレートランチとかそういう感じのものだと実亜にはピンと来ていた。

「一皿定食? お母様、詳しく教えて?」

 アステリアが「お母様もお姉様も美味しいものを沢山知ってるの」と、呟いている。

「大きめの一皿に肉と野菜と果物が綺麗に盛り付けられているの。気軽に頼めるのだけど、本格的な味なのよ」

 ローナはもう少し流行して、定番になりそうな気配があるのだと言う。

「成程、流行の美味しいものを二人で楽しむのもデートというものだな」

 ソフィアが何度も頷いている。ついでに「ミア、今度食べに行こう」と、サラッとお誘いをしてくれていた。

 そして、デートの作戦会議は続くのだった。

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