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偽物と本物

(125)

「ところでファウナ、言える範囲で良いけど、今回は何の任務だったの?」

 朝食の最後に出された果物を食べながら、ローナがファウナに訊いていた。

 任務と言うからには、ファウナもソフィアと同じように帝国の公的な職業に就いているのだろうけど、服のデザインやローナの訊き方では騎士ではない感じだ。

「ミスフェアに女神様が現れたという噂を確かめに行ってました」

 ファウナは答えて、果物をおかわりしている。食事前にお菓子を食べていたし、食事も二人分より少し多いくらいの量を軽く平らげたあとなのにまだ食べられるようで、本当に数日何も食べていなかったらしい。

「ミアお姉様とは違う女神様なの?」

「そうみたい。ミスフェアに現れた女神様は、反りのある剣を持ち、魔物を倒した――」

 アステリアの疑問にファウナが「共に戦った人から聞いたから間違いない」と、言う。

「伝承と共通点が多いですね」

 それでどうなったの? と、ローナはワクワクした目で話の続きを聞きたがっている。

「よかった……本物の女神様が居るんですね」

 実亜は安堵の息をついていた。

 過剰に持ち上げられはしていなかったし、言われてみれば的な感じにしてくれていたけど、なんとなくで「女神様だ」と思われるのも複雑だったので、ようやく少し重荷が取れる感じだったのだ。

「まるで自分が偽物のような口ぶりだが、ミアも女神だろう」

 ソフィアが不思議そうな顔でそんなことを言う。

「そうよね、ミアさんも女神様の伝承にあるように、異国の文化や新しい技術をもたらす者という共通点があります」

 ローナもソフィアと同意見のようで、何度も頷いていた。

「ミスフェアの女神様は戦いの女神様で、ミアお姉様は守りの女神様?」

 アステリアもそんなことを言いながら、ファウナの話に真剣に聞き入っている。

「いえ、きっと……そのミスフェアに現れたのが本当の女神様ですよ」

「むしろ『私が女神様です』なんて、簡単に宣言されても信用出来ないんじゃない?」

 実亜の言葉に、ファウナが軽くそんなことを言う。尊重してくれているのは嬉しいのだけど、自分では「女神様」という存在で居るのは明らかに力不足――と、実亜は思っていた。

「ファウナの言う通りだ。ミアも女神、ミスフェアに現れた女神も女神ということだな」

 ソフィアは「不思議な人であることは間違いないのだから」と、続けて笑っている。

「それで、ミスフェアに現れたのは五人――」

 ファウナはやっと落ち着いたのか、話を続けながら食後のお茶を優雅に飲んでいる。

「そんなに……?」

 実亜は思わず呟く。女神様のような存在がそんなに居たら、混乱をしないのだろうか。

「随分盛況なのね。賑やかでいいことだわ」

 落ち着いてるローナを見て、実亜はもしかしてこの世界では女神はもっと身近な存在なのかもとぼんやり思う。

 珍しい人を「女神様」と呼ぶ的な感覚なら、自分がそう呼ばれるのも少し納得感も出て来るかもしれない。

「皆同じ服を着ていて、伝承にあるように黒髪で剣を持った人は二人――これが似姿(にすがた)

 ファウナは服の内ポケットから人物が描かれた紙を取り出している。

 絵にはブレザーとプリーツスカート姿の五人――いわゆる女子高校生みたいな人たちが描かれていた。みたいと言うか、このデザインなら確実に学校の制服だから、女子高校生だと実亜は確信する。

 反りのある剣――多分日本刀――を持っている三人のうち二人が黒髪で一人が金髪、残る二人はマネージャー的な感じで、手にノートを持っていた。上下に開いているから、もしかしたらノートパソコンかもしれない。

 ということは、この世界は実亜が居た世界と何処かで繋がっていて、簡単にではないけど行ったり来たり出来るのだろうか――

「ミアのスーツという服に少し似ているな」

 ソフィアが「寒そうな襟元が特に」と、絵の人物たちを指している。

「あっ……えっと、多分、学校の制服だと思います」

 実亜は絵をじっくり見て俯いていた顔を上げて、ソフィアに答える。一般的な制服だと、こういった感じのものが多いです――と。

「ふむ、剣を学べる学校ということだろうか」

「そういう学校があるのかはわからないですけど、学校の部活――運動とかをする活動みたいな場で剣道をしてる人はわりと居ると思います」

「成程、興味深い」

 ソフィアは「勉強になる」と、頷いている。

「ということは、ミアお姉様とミスフェアの女神様たちは同じ国から来た女神様なのね」

「多分、そういうことね」

 アステリアとファウナの二人が目を輝かせて、実亜を見ていた。

「ええっ、でも……」

 嬉しいのだけど、偽物扱いでも良かったのに――実亜は思う。

 だって、自分が女神様の偽物でも、此処の人たちなら酷い扱いをしない信頼があるから――と。

みんなそれなりにお人好しというか。

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