第26話
暴走したリリスとヴァンパイアの戦い。
魔体を魔装化させるという謎の能力を発揮したリリスが襲いかかる。
「アアアア!!!!」
ダークプリーストと一体化したリリスの口に黒い何かが集まっていく。
まるで周囲の闇を取り込んでいるかのようだ。
そして口に溜まった黒い球体を、一気に解き放った。
魔力の塊か!?
「ふん!」
球体はものすごいスピードで飛んでいった。
しかしヴァンパイアは球体を片手で軽く弾いてみせる。
弾かれた球体が木にぶつかると爆発する。
後には無残に砕け折れた木が残された。
なんちゅ~破壊力だよ!
そしてそれを片手で弾くなんて!
「ガイア君がそんなに大切なら、私から取り返して御覧なさい。早くしないとガイア君の唇を奪っちゃおうかしら?」
「キサマァァァアアアアア!」
リリスはものすごい速さでヴァンパイアとの間合いを詰めてみせた。
足に魔力を宿して加速したんだ。
あんな使い方が出来るのか。
ヴァンパイアに接近したリリスは、連続で拳を放っていく。
リリスは体術に秀でているわけじゃない。
それでも高速で放たれる拳は、まるで達人のように見えた。
しかしその全てをヴァンパイアは回避してしまう。
「遅い」
リリスの動きがはっきりと見えているのだろう。
繰り出された右蹴りの脚を掴むと、そのままヴァンパイの拳がリリスの顔面を捉えた。
その一発でリリスはふっ飛ばされてしまった。
「そんな不安定な魔装化では本来の力も発揮できないでしょうね……あら? 治癒能力? そういえば、あのゴブリンの魔物と戦っている時にガイア君の魔体の傷を癒していたわね」
一発で腫れたリリスの顔面は、すぐに治癒能力で癒されていく。
まずいダークプリーストの魔力は残り少なかったはずだ。
あれ? でもいまはリリスなのか? あの治癒魔法はリリスの魔力で使っているのか?
どちらにしても、リリスの魔力はすぐに尽きてしまうだろう。
「アアアア――――!!!!」
地面に倒れたリリスは、そのまま両手を地面につけたまま四つん這いになると、口を大きく開けて叫んだ。
これが魔音? ヴァンパイアが耳に魔力の膜を張ってくれているから何ともないけど、叫び声とは違う何かを感じる音だ。
「む!?」
ヴァンパイアが片手を横に振る。
すると、前方の空間でいくつもの爆発が起きた。
「魔音を使いこなすか。小賢しい!」
リリスの口から魔力が空気中に散布されているのか。
触れると爆発する魔力のようだ。
でもヴァンパイアはどうやってそれを爆発させたんだ?
同じように魔力を散布した?
「ガイア様カラ、ハナレロォォォォオオオオ!」
「離してみな!」
再びヴァンパイアに向かっていくリリス。
鎖をつけた拳をヴァンパイアに放つ。
あきらかに届かない距離から放ったその拳の手の平を広げると、いつの間にか握り込んでいた黒い球体を、至近距離から放つ。
「無駄よ」
裏をかいたかと思ったが、ヴァンパイアは至近距離からでも片手で軽く弾いてしまった。
そして再び近づいたリリスのお腹に、ヴァンパイアの蹴りが思いっきり炸裂した。
ふっ飛んだリリスは地面に何度も身体を打ちつけて倒れる。
もういい。起き上がるな。そのまま……。
「グ……ググ……アアアアアア!!!!!!」
「また治癒能力。でもちょっと危険ね。魔力が今にも切れそうなのに、ま~だ戦おうとしているわ。私は構わないんだけど、本当に死んじゃうかもしれないわね」
「な!? リ、リリス! もういいんだ! 起き上がるな! 僕は大丈夫だから! 僕達が勝てる相手じゃない! 言うことを聞くんだ!」
「アアアア!!! ガイア様ヲ、ガイア様ヲ、タスケ……ワタシヲ、スクッテクレタ、ガイア様ヲ……ォォォォォオオオオオオオオ!!!!!」
「残念。ガイア君の声も届いていないわね。暴走は止まらないわ」
「そんな……た、助けて下さい! お願いします! リリスを助けて下さい!」
「どうしようかしらね~。私としては、ガイア君だけでもいいんだけど」
「な、何でもします! 貴方の下僕として! いえ、奴隷として何でもします! だから、リリスを! リリスを助けて下さい!」
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
リリスを失うなんて考えられない。
リリスを助けるためなら土下座だって何だってする。
ヴァンパイアの奴隷になっても構わない。
だから生きて欲しい。
リリスに生きて欲しい。
でも僕の声はリリスに届かない。
暴走したリリスは止まらず、再びヴァンパイアに襲いかかる。
リリスが……死んでしまう。
「仕方ないわね~」
消えた。
ヴァンパイアが消えた。
動きがあまりに速すぎて僕の目では追えないのか?
いや、それとは違う気がする。
文字通り、本当に消えたのだ。
「ハァハァ……ハァハァ……」
僕の隣から消えたヴァンパイア。
そのヴァンパイアに襲いかかったリリスも、目標を失って止まる。
土下座していた僕の目の前にリリスがいる。
あの優しくて可愛いリリスが……こ、こんな、こんなひどい姿に。
「愛しいガイア君の隣は譲ってあげたわよ」
後ろ?
後ろからヴァンパイアの声が聞こえた。
振り返るとそこに立っている。
やっぱり移動しただけなのか?
「ハァハァ……ハァハァ……ァァ、ァァァァ、ァァァァアアアアア!!!」
「まさに死力を振り絞っての最後の攻撃ね。受けてあげるわ」
リリスの口と両手に黒く輝く闇が集まる。
今にも倒れそうなその細い身体のどこにこんな力が……。
リリスを支えているのは、ただただ僕のためだけに捧げられる愛情と忠誠なのか。
赤紫色の美しい髪の毛が逆立つ。
振り絞る最後の力に肉体が耐えられないかのように震えている。
壊れそうな身体を奮い立たせ、リリスの両手から闇の球体が放たれた。
2つの球体は意思を持っているかの如く、高速でヴァンパイアの周りを回り始める。
ヴァンパイアは微動だにしない。
余裕の笑みを浮かべて楽しんでいるようにすら見える。
ヴァンパイアの周りを回っていた球体は、いつの間にかヴァンパイアの周りに黒いカーテンのような幕を作りだしていた。
逃げられないように囲っている?
見えないけど上の部分も塞いでいるのか。
球体は闇のカーテンを作りだすと、徐々に小さくなっていく。
そしてヴァンパイアを完全に囲い込んだ。
「ググ、グァァ……ァァァ……」
リリスの口の中からは、今にも闇が零れ落ちそうだ。
苦悶の声を唸りあげながら、それでもさらに闇を集めていく。
まだ足りない、まだ足りない、とリリスの心の声が聞こえてきそうだ。
「やめろ……リリスやめるんだ……それ以上は……リリス!!!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
闇のカーテンに向かって、リリスの口から漆黒の闇が放たれた。
それが闇のカーテンに着弾する瞬間、カーテンが開いたのが見えた。
中にいたヴァンパイアに直撃だ。
同時に闇のカーテンも大爆発を起こした。
逃げられないように囲っていただけじゃない。あの闇のカーテンも爆発する仕掛けだったのか。
視界を遮る爆煙が起こるも、それはすぐに消えていった。
爆煙が消えた場所にヴァンパイアの姿はない。
リリスの攻撃は強力だったけど、あれで倒せる相手とも思えない。
無傷だったとしても驚かないぐらいだ。
「ハァハァ……はぁはぁ……ガイア様……に、にげて……逃げてくださ……」
リリスの声が猛獣のような声から、あの優しい声に変わっていく。
「リリス……」
ああ、リリス。なんて、なんて姿なんだ。
僕のためになんて苦しい思いを。
持てる魔力を全て使い果たしたのだろう。
美しい肌はシワシワになっている。
ヴァンパイアの言っていた魔装化状態は続いていて、ダークプリーストとは一体化したままのようだ。
千切れた鎖をつけた腕が痛々しい。
虚ろな瞳に僕は映っていない。
それでも僕を想って、僕に逃げろと……。
「リリス……リリス! なっ!?」
リリスを抱きしめようと、立ち上がった。
その瞬間、リリスの背中に『何か』が突き刺さった。
立ち上がり手を伸ばした僕は、そのまま固まっていた。
あれは……心臓の部分じゃないのか?
何が……手? 手だ……誰かの手。
視線を動かすと、そこにいたのはヴァンパイアだ。
ヴァンパイアがリリスの背中を手刀で突いている。
その姿はさきほどまでの姿と何も変わりない。
あのリリスの最後の攻撃で本当に無傷なのか。
マントにすら傷一つついていない。
「最後のは面白かったわ。なかなかのものだと褒めてあげる。相手が私でなければ、上位魔族にも傷を負わせることぐらいは出来ると思うわよ」
ヴァンパイアはゆっくりと、その手をリリスの背中から引き抜く。
僕はリリスが殺されたと思っていた。
ヴァンパイアの引き抜かれる手には、リリスの心臓が握られていると思った。
でも違った。
引き抜いたその手は、リリスの身体からダークプリーストを引きずり出した。
魔装化という謎の状態を解除させたんだ。
よく見ると、リリスの背中に突き刺さっていた手は、ヴァンパイアの手そのものではなく、ヴァンパイアに重なるように現れていた魔体の手だった。
はっきりとその姿を見ることは出来なかったけど、間違いない。
ダークプリーストの魔装化を解かれたリリスは、そのまま地面に倒れた。
僕はすぐに抱きしめた。
「リリス! リリス!」
「ぁぁ……ぁぁ……ぁぁ……」
「リリス! しっかりしろ! どうすれば……そうだ、魔力魔石! 魔力魔石を!」
「無駄よ。そんなの吸収する時間は残されていないわ。1分もしないうちに枯れて死んでしまうでしょうね」
「そんな……ああ……リリス……あああああああああああ!」
今度は僕の頭の中が狂い始めてしまった。
リリスが死ぬ。
その現実に耐えられなくて、心が崩れていく。
この世界でリリスだけが僕の心の拠り所になっていたんだ。
それは僕の都合の良い想いだったかもしれない。
僕を慕ってくれるリリスに、勝手な想いを向けていただけかもしれない。
僕の全てを受け入れてくれるリリスに……。
「あああ……リリス、リリス、リリス、リリス!」
目から涙がこぼれ、嗚咽が止まらなくなる。
抱きしめたリリスの頬を僕の涙が濡らしても、彼女の乾いて枯れていく肌を潤してはあげられない。
「ぁぁ……ガ、ガイ、ガイアさ……ま……」
リリスの温かくて柔らかくて優しい声。
僕の心を満たして穏やかにしてくれる声。
その声で僕の名前を呼んでくれた。
「はぁ……本当に仕方ないわね。ガイア君に嫌われたら困るから……助けてあげるわ」
ヴァンパイアの、助けてあげる、という声に顔をあげた。
助かる?
リリスは助かるのか?
ヴァンパイアはゆっくりとリリスに近づく。
リリスを抱きしめる僕の手にも期待から力が入る。
その期待に応えるように……ヴァンパイアは……リリスの首に……噛みついた?
「ぁぁ……ぁぁあ……ぁぁあああああああああああ!」
「ちょ、ちょっと! 何を!」
ヴァンパイアに血を吸われたら、逆に死んでしまうんじゃ!?
焦る僕を余所に、ヴァンパイアは構わずリリスの血を吸い続ける。
リリスは大きな絶叫を上げた後は、びくびくと震え続けている。
「ぁぁ……ぁぁ……ぁぁ……ぁぁ……」
「ちゅ~~~~~~~~~~~~~~」
あれ? 何だかリリスの血色が良くなっている?
乾いた肌が潤っていく?
なんだ……どうなっているんだ?
「ふぅ……これでよしと。とりあえずこれで死ぬことはないでしょうね」
「え? え? こ、これは、なにが……」
ヴァンパイアは立ち上がると、マントをふわりと靡かせて肩にかけた。
初めてヴァンパイアの服が見える。
リボンのついた白いブラウスからは、はちきれそうな大きな胸が存在感を示している。
胸のブラウスを露出させる形で肩から腰、そして脚まで包み込む一体型のドレス調の衣装は黒と赤を基調としていてミニスカートだ。
胸のブラウスが露出されているのは、胸が大きすぎるせいか?
ミニスカートからは美しい脚が見え、そしてその美しい脚を包み込む黒いストッキングがまたセクシーである。
全体的に貴族の衣装のような印象を受けるデザインだ。
「感謝して頂戴ね。ガイア君の大事な大事なリリスちゃんのために、私の血を与えてあげたのだから」
「血を……与えた……」
「ヴァンパイアの、しかもこの始祖ヴァンパイアであるアーシュ・ドラキュラの血を与えてもらえるなんて、魔族としてこれほど名誉あることはないのよ?
ま、それに今後のことも考えて上下関係をはっきりさせておく意味でも良かったのだけれど」
始祖ヴァンパイアの血を与えられたリリス。
確かに静かな呼吸が聞こえてくる。
助かった……リリスは助かったんだ。
ああ……良かった、本当に良かった。
「あ、ありがとう……ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」
名前:リリス 年齢:16歳 性別:女 種族:サキュバスヴァンパイア
主:アーシュ・ドラキュラ
魔体:ダークプリースト
特殊技能
半人化
魔石結晶化
能力増加:月光
能力減少:太陽光
名前:リリス 年齢:16歳 性別:女 種族:人族(半人)
魔体:
特殊技能
半人化




