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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第2エター 異世界で中途半端な魔族始めました
18/43

第1話

終電帰りのサラリーマンが、異世界で中途半端な魔族を始める物語です。

「お先に失礼します」

「おぅ、お疲れ~」


 最後に残っている先輩に挨拶して会社を出る。

 携帯を見れば、日付はもう変わっていた。

 先輩はこのまま徹夜コースかな。

 駅までは歩いて5分。

 終電には十分間に合うだろう。


 大学卒業後、今の会社に就職して3年目の僕は、新人という名の庇護から抜け出し始めると、途端に仕事量が増えて残業の日々が始まった。

 おかげで大学の頃から付き合っていた彼女との時間は取れなくなり、先月見事に振られることに。

 こうなったら仕事に邁進するしかないと、さらに仕事量を増やした結果が、終電の日々の始まりであった。


 季節は夏から秋へと移り変わっていく。

 日中は太陽の日差しがあるとまだ暑いけど、深夜の風は少し肌寒いくらいだ。

 そろそろ冬物の準備をしておいた方がいいかもしれない。


「ん?」


 駅の明かりが見えた時、近くにある小さな公園から物音がした。

 ふと見ると、誰かが倒れている。

 ホームレス……にしては様子がおかしい。

 暗くてよく見えないけど、身体が痙攣しているように見えた。


「×××××」


 心配になって近寄ってみると、日本語では無い何語か分からない言葉で何かを呟いている。

 これは本当に危ない状態か?


「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょうか?」


 声をかけてみた。

 すると、その人が振り向いた。

 ものすごく青白い顔をしていた。

 顔が青白いって言うけど、表現としてではなく、本当に青白い顔だ。

 これはもう救急車を呼んだ方がいいだろう。


「いますぐ救急車を呼びますね」


 携帯電話を取り出すも「119」と「110」どっちだっけ? と迷ってしまう。

 焦るな、落ち着くんだ。

 救急車は119だ。110は警察のはずだ。

 119を押すと、柔らかい声の男性が出てくれた。

 

 僕は駅近くの公園に男性が倒れている、顔が青白くて危ない状態かもしれないと次々に状況を伝えていった。

 僕が携帯電話で救急車を呼んでいる間も、その青白い顔をした男性は意味不明な言葉を呟き続けている。

 男性はマントを羽織っていた。

 何だか傷だらけのマントだな~と思っていると、マントの中からすっと手を伸ばしてきた。


「え?」


 その手も青白かった。

 でも僕が驚いたのは別の理由だ。

 男性の手の指から、とても長い爪が伸びていたのだ。

 指と同じぐらいの長さの爪だ。


「×××××」


 倒れている男性がまた意味不明な言葉を呟いた。

 携帯電話からは柔らかい男性の声が響いていた。無言になってしまった僕に対して『もしもし? もしもし?』と声をかけていたのだ。


 でも僕は何も答えない。

 なぜならこの長い爪の先に『黒い何か』が現れ、それに意識を奪われていたから。

 爪の先には、暗い夜の闇よりもさらに濃い闇が集まっていく。

 それはまるで黒く光り輝いているように見えた。


「×××××!」


 男性が大きな声で叫ぶと、爪から闇が解放される。

 その闇は僕を包み込んでいき……僕は意識を失った。




♦♦♦♦♦♦




 意識が戻った時、僕は森の中にいた。

 土と植物の自然の香りで満たされた森の中は、リフレッシュに訪れた旅行先だとしたら素敵だっただろう。

 でも違う。

 どこかも分からない森の中で、しかも真夜中である。


 真夜中なのに、なぜか辺りがよく見える。

 暗闇に目が慣れたから? でも意識が戻った瞬間から辺りをよく見ることが出来ていた。

 月明かりだけで、これだけ暗い森の中をはっきりと見ることは本来なら不可能だろう。


 そして次に気になったのは僕の服装だ。

 スーツを着ていたはずである。2着目無料のスーツで、その2着目のスーツを着ていた。

 でも今は……あの倒れていた男性が羽織っていたぼろぼろのマントを僕が羽織っている。

 そしてマントの中は、見たこともない布の服を着ていた。

 どこかの民族衣装なのか分からないが、格好良いデザインだ。

 靴も服と同じ布製の靴だけど、この布はかなり丈夫なのか大地を踏んでも痛くない。


「さてと、ここはどこなんだ……」


 自分の身なりを確認したところで、こんな言葉が口から出てしまった。

 でも本当にここはどこなんだろう。

 答えてくれる人がいなくとも、言ってみたくなってしまう。


 耳をすますと、水の流れる音が聞こえてくる。

 一緒に不気味な動物の鳴き声らしきものも聞こえてくるけど、近くに川があるようだ。

 川を下っていけば、どこかに辿り着くかもしれない。

 意味不明なこの状況から、とにかく誰かに会って、ここがどこなのか確認しないと。


 水の流れる音を頼りに歩いていく。

 辺りから聞こえてくる不気味な声は怖いけど、朝までじっとしているのもまた怖い。

 それに気温も寒い。凍死するほどじゃないけど、早く身体を温めたい。


 不安と恐怖を押し込めて、ついに川に辿りついた。

 歩いてほんの5分ぐらいだった。

 でも5分も歩く距離が離れていたのに、よく僕は水の流れる音が聞こえたな。

 澄んだ空気の森の中だと、音がよく遠くまで聞こえてくるのかな?


 川の水が流れていくのと同じように、川を下り始めた。

 暗闇の中でもなぜかよく見える目を頼りに、どこかでキャンプを張っている人がいないか、コテージやテントがどこかに見えないか、明かりがどこかに見えないか、人がどこかにいないか、と探していった。


 そうして川を下り始めて1時間ぐらい経っただろうか。

 それまで聞こえてきた不気味な動物の鳴き声とは違う、まったく異質な鳴き声が聞こえた。

 それは動物の鳴き声というより、人が発する声に思えた。


 僕は足を止める。

 その声がした方を凝視する。

 森の中で何かが動いている? 人か? 猛獣か? それともお化けか?


 ガサガサと大地から生える草を踏みつけて現れたのは……残念ながらお化けだった。


「ひぃっ!」


 情けない声と共に、自然と後ろに逃げ腰となる。

 でもこれは仕方ないよ。

 誰だって、こんなお化けに遭遇したら、逃げ腰になるさ。


 現れたのは、人間とは思えない醜い顔に全身の肌が緑色のお化けだった。

 布を1枚腰巻にしているだけで、他の肌は全部露出している。

 真夜中の森の中で、露出の趣味を楽しんでいる変態にも見える。


 身長は低い。子供ぐらいの身長だ。

 150cmは間違いなく無い。140か、130cmぐらいだろう。


「ゴブッ!」


 お化けも僕を認識したようだ。

 お化けは『ゴブッ』と声を発したように聞こえた。

 ゴブッてどういう鳴き声だよ……。


 醜い顔はさらに醜悪な笑みを浮かべた顔に変わっていた。

 僕のことを殺すつもりなんだ。

 こんな恐ろしいお化けに僕は殺されるのか……。


「ひぃっっ!」


 再び情けない声。そしてまた1歩後ろに後退。

 今度も仕方ない。

 誰でもこうなるはずだ。


「な、なんだよ、それ」


 お化けから、さらにお化けが出てきた。

 どうなっているんだ?

 緑のお化けから、同じく緑のお化けが出てきたのだ。

 でも出てきた緑のお化けはちょっと半透明に見える。


 半透明の緑のお化けは、その手に棍棒のような物を持っていた。

 あれで叩かれたら痛い。いや、痛いなんかじゃ済まされない。

 このお化けはやっぱり僕を殺そうとしているんだ!


「ゴブッ!」


 お化けは僕に向かって近づいてくる。

 ゆっくりと1歩1歩近づいてくる。

 僕のところまであと10歩ほどの距離に来ると、お化けは歩みを止めた。

 しかし、今度は半透明のお化けだけが、僕に向かって近づいてきた。


 僕は腰を抜かして動くことが出来ない。

 棒立ちである。

 ああ、このままこの半透明な緑のお化けに殺されてしまうんだ。

 あの棍棒で頭を叩かれて、ぐちゃぐちゃにされちゃうんだ。


 くそっ! 何なんだよ! 何でこんなことに!?

 何でこんなお化けに遭遇するんだよ!

 こいつは何なんだよ!?



ゴブリン 魔2



 半透明のお化けの頭の上に、突然文字が浮かび上がった。

 それは『ゴブリン 魔2』という文字。

 意味が分からん。


 半透明の後ろにいるお化けの頭の上にも、同じく『ゴブリン 魔2』という文字が浮かび上がっていた。

 このお化けはゴブリンなのか?

 ゲームとかファンタジー小説とかに登場する、あのゴブリンなのか?


「ゴブッ!」


 確かに鳴き声も『ゴブッ』だし、やはりゴブリンなのか。

 鳴き声=名前って何か安易だけどな。


 しかしお化けがゴブリンだと分かったところで、何の解決にもならない。

 半透明なゴブリンは、棍棒を持ちながら僕の前まできてしまった。

 そして、棍棒を高く持ち上げると、僕の頭に向かって振り下ろそうとする。


 ああ、だめだ。

 やっぱり僕は死んじゃうんだ。

 でも死にたくない。

 生きたい。

 誰か……誰か助けて。

 お願い……誰か! 僕を助けて!!


 振り下ろされた棍棒を見るのが怖くて、僕は目を瞑っていた。

 死にたくないと。誰か助けて欲しいと願いながら。


 いつまで経っても棍棒の衝撃がこないので、僕は薄っすらと目を開けた。

 すると、そこには見知らぬ人が立っていた。

 誰?


 その人はゴブリンの棍棒を素手で受け止めていた。

 両手でがっちりと棍棒を掴んで離さない。

 ゴブリンは棍棒を引き抜こうと力を入れているようだ。


 助かった。

 誰かが助けにきてくれたんだ。

 でも本当に誰なんだろう?

 そう疑問に思った瞬間、僕を守ってくれた人の背中に文字が浮かんできた。



魔体:半魔人

属性:無

魔神の加護:1

生命力:50

筋力:20

体力:20

俊敏:20

魔力:20

器用:20

装備:

技能:



 文字は宙に浮かんでいた。

 目の前の人の背中に書かれていたわけではなかった。

 しかしこの文字から得られる情報は、まるでゲームだな。


 魔体:半魔人


 魔体という文字から推測できるのは、魔力で作られた体か。

 もしかして僕を守ってくれる存在なのではないだろうか。

 それに、よくよく見ると、魔体は半透明のゴブリンと同じく、身体が半透明に見える。

 そして格好がいま現在の僕の格好とよく似ている。

 違う点といえば、僕のマントはぼろぼろだけど、魔体のマントは新品のように綺麗だ。

 顔はどんな顔をしているのだろうか。


 そう考えたら、魔体が振り向いた。

 両手はゴブリンの棍棒をがっちりと掴みながら、顔をこっちに向けてくれたのだ。

 その顔は僕の顔に似ていた。

 顔に妙な模様のようなものが刻まれているけど、顔そのものは僕に良く似ている。


 半魔人という文字から推測できるのは、半分は人で、半分は魔ってことか。

 魔ってなんだ? 悪魔? 魔族? いろいろ考えられるけど、とにかくハーフってことか。


 属性は無だから何もない。

 魔神の加護は1。数字が高いのが良いのなら、一番弱い加護ってことか。

 そこから下はまさにゲームのステータスそのものだ。

 装備と技能は空白だから、何もないってことなのだろう。

 装備が何もないのに、僕と同じような格好をしているのは何でだ?


 とりあえず、得られる情報からこの魔体は僕を守ってくれる存在だと判断する。

 そして目の前の半透明のゴブリンは、後ろにいるゴブリンの魔体なのだろう。


「ゴブッ!」


 ゴブリンの声と共に、棍棒を引き抜こうと力を目一杯入れてきた。

 その動きに合わせるように、僕の魔体は棍棒をするりと離した。

 ゴブリンは盛大に後ろにこけていった。


 魔体は自分で考えて動いているのか?

 僕は棍棒を離すなんて指示していないし。

 僕の指示は……助けてくれか。


 なら次の指示を出してみよう。

 この異常な状況を生き抜くためにも、僕は理解していかないといけない。

 自分がいったいどうなってしまったのか。

 そして自分に何が出来るのかを。


 ゴブリンを倒せ!


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