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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第1エター テンプレ異世界物語
15/43

第15話 中層魔獣掃討作戦

「輸送第3部隊到着であります!」

「ご苦労。倉庫に入れて今夜は休め」

「はっ!」


 びしっと敬礼を決めているのは、輸送第3部隊のボリス隊長だ

 短く刈り上げられた黒髪と鍛え上げられた肉体。

 まさに軍人の鏡とも言うべき人だな。

 敬礼をする姿は本当に様になっている。


「運べ!」


 俺達に命令する様もね。


 中層魔獣殲滅作戦。

 エインヘルアル史上最大規模の作戦は、クロード率いる『金狼』の指示のもと、約1ヶ月前に開始された。

 俺は輸送第3部隊に配属されて、この1ヶ月の間に中層と神殿を何回も往復している。

 運ぶ物は主に食料だ。

 魔獣は肉を残さず消滅してしまうので、食料の補充はかかせない。

 武具も運んだりするけどね。


「よっこらせっと! いや~疲れた。第3拠点までは地形が厳しくて堪えるぜ」

「マティアスの言う通りだね。第1拠点や第2拠点の方がずっと運びやすいよ」

「やっぱりリィヴもそう思うよな。おい、フランク! しっかり運べよ!」

「はぁはぁ、ふ、2人ともちょっと手伝ってよ~」

「馬鹿言うな。自分の分は自分でちゃんと運べよ。この働きで中級魔石1個もらえるんだからな」


 ボリス隊長を含め第3輸送部隊として配属されているエインヘルアルは10人。

 隊長を除いた9人は、さらに3人1組のチームに分けられている。

 俺と同じチームになったのはマティアスとフランクという男で、2人は浅瀬で一緒に魔石狩りをしているそうだ。

 ミズガルズに来てまだ1年ちょっとらしい。


 マティアスは真っ黒な肌に天然パーマの真っ黒な髪の毛だ。

 明るく陽気な性格でムードメーカー的存在である。

 歳は22歳で、身長は俺より高くて体格もいい。

 使用武器は槍だ。


 フランクは色白な肌にサラサラヘアーの青い髪の毛。

 ちょっと気弱な感じで、いつもおどおどしている。

 歳は20歳で、身長は俺より低くて身体の線も細く体力もない。

 ちょっと女の子みたいな奴だ。

 使用武器は短剣である。


 この第3拠点に物資を輸送したのは今回が初めてだ。

 というのも、この拠点は最近作られたからである。


 作戦の第1段階では『道』を作った。

 もちろん本当の道を整備したわけではなく、カリーンから中層までのルートを決めて、下層以降は一定間隔で簡易な拠点を設けていったのだ。

 その際、立ちふさがる魔獣は金狼に瞬殺されていったそうだ。


 俺は直接見ることが出来なかったが、輸送部隊に配属されている者で金狼の戦いぶりを見た奴から話を聞いたところ、もはや何が起きたのか理解できないほど強さの次元が違うらしい。

 もともと上層で狩りをしている金狼にとって、下層の魔獣など相手にならないのは当然で、中層の魔獣であってもよほど馬鹿をしなければ無傷で勝てる相手なのだ。

 この道を作る作業の中で、金狼は多くのエインヘルアルから人気を得ることになった。

 金狼の姿は神殿で見ることは出来ても、実際に戦う姿を見ることは今までなかったわけで、その圧倒的な強さを目の当たりにして、信者はさらに増えていったわけだ。


 道が出来ると作戦は第2段階に入る。

 中層に『拠点』を築くことだ。

 まず中層のど真ん中に位置する場所に第1拠点を築く。

 拠点といってもここは聖樹の森の中だ。

 しかも中層ともなれば、下層以上に険しい地形が多い。

 柵やら小屋やら建てるわけじゃない。

 逆に下層と最下層の境界地点には、なぜか大層な拠点を作っているから不思議だ。


 中層の拠点は寝泊まりできるテントに物資を保管する簡易倉庫。

 そして最も大事なのが魔獣をおびき寄せるための餌となる魔石保管庫だ。


 金狼があらかじめ上級魔石を何個か持ってきていた。

 そしてそれを餌に次々と中層の魔獣をおびき寄せていく。

 倒した魔獣の魔石も保管して、それは新たな餌とする。


 クロードは金狼のメンバー数人と一緒に上級魔石を持って、中層をひたすら歩き回り魔獣を狩り続けているらしい。

 特殊輸送部隊と名付けられた輸送部隊がいるのだが、そいつらはクロード達が倒した魔獣の魔石を回収して、後ろをついて回っているそうだ。

 最も危険な輸送部隊だけど、クロードが一緒なら逆に最も安全な場所なのかもしれない。


 第1拠点が完成すると、そこから南に離れた場所に第2拠点を築く。

 同じく第2拠点が完成すると、第1拠点から北に離れた場所に第3拠点を築いた。

 その第3拠点が築かれたのが2日前で、俺達は今日初めてこの第3拠点に物資を輸送してきたわけだ。


 物資を拠点に運ぶのは疲れるけど安全だ。

 俺達は魔石を持っているわけじゃないから、魔獣に襲われるリスクはほとんどない。

 常に魔獣の襲撃に備えなくてはならないのは、魔石保管庫のある拠点である。


「あ~疲れた~。もう背中が痛くてたまらないよ」

「お前は本当にやわだな~。まじで半分女の子なんじゃないか?」

「失礼な! 僕は女の子大好きな健全な男の子さ!」

「ああ、間違いなくフランクは男だ。マティアスなんか目じゃないほどのド変態な男だ」

「リィヴ間違っているぞ。童貞ド変態だ」

「あ、そうだったな」

「この~~~! ちょっと経験があるからって!」


 輸送部隊が泊まるテントは、魔石保管庫から離れた場所に設置されている。

 あまりよいテントじゃない。

 贅沢を言うつもりはないけど、なんで戦闘部隊とか隊長クラスとテントのランクに差をつけたのだろうか。

 そんなケチくさいことしないで、みんな同じテントでいいじゃないか。


 寝袋が3つも入ればそれで埋まってしまうテントの中で、俺達は明日に備えて休んでいる。

 マティアスとフランクはどちらも気の良い奴だけど、話すとやはりどこか神殿に染まっているのが分かる。

 自分達は特別である、という意識があるんだよね。


 でもそれを責めることは出来ない。

 ミズガルズを、ユグドラシルを助けるために死を乗り越えて戦い続ける勇者。

 自分達がこの世界にもたらすものは、永遠の幸福であり繁栄である。

 だからこそ、自分達は特別な存在であるのだと思ってしまう。


 そもそもこの世界に転移させられたのは、オーディンの都合だ。

 中にはオーディンやミズガルズを恨んでいるエインヘルアルだっている。

 この世界で何十年、何百年と生きて戦い続けなければならないなんて、それは拷問とも言える。

 生き返るからといって死が怖くないわけじゃない。痛みがないわけじゃない。

 それほどまでの苦痛に耐えて戦い続ける自分達が特別だと、思うことがいけないと言えるほど、俺は自分を偉く思っていない。


 ミズガルズの人達とエインヘルアルの仲は微妙だ。

 ケビンさんのように、エインヘルアルの権力を利用したり頼ったりする貴族達は別だけど、多くの人達はあまり良く思っていない。

 もちろんそれを露骨に態度に出すことは稀だけど。

 マリアさんのように、こっそり浅瀬でエインヘルアルを超遠距離から撃つような人は早々いない。

 いや、本当にしていたのか不明だけどね。


 今までサンディさん達の中にいて、ミズガルズ側から神殿を見てきた。

 確かにエインヘルアルや神殿は、自分達は特別であるとして大きな権力を持ち偉そうにしている。

 浅瀬で魔石狩りをしているエインヘルアルの中にクズ共のような奴らがいるのも事実だ。

 過去にはエインヘルアルが罪もないミズガルズの人達を殺した事件もあったそうだ。


 程度の問題なのだと思う。

 最初はミズガルズの人達も、神玉を集めるために死を乗り越えて戦うエインヘルアルを支援して仲も良かったはずだ。

 でも少しずつ、歯車がかみ合わなくなるように何かが壊れていった。

 それをコントロールするのはあまりに難しいだろう。

 最も下の部分ではいざこざが、最も上の部分では権力争いが、そして大多数の中の部分にいる者は流されるまま。

 やはり上に立つ者同士が上手く話し合ってルールを決めるべきなんだけど、そこで権力争いがあるから難しい。


 クロードの登場でその状況が少しずつ変わっていけばいいんだけどな。

 最上層に到達できず、神玉を集めるという目に見えた成果を上げられていないのも、ミズガルズの人達が抱くエインヘルアルに対する不満の1つである。

 そんな中現れたクロードと金狼は、神玉を集めてくれるのではないかと期待されているそうだ。


「あ~どこかに可愛い女の子いないかな~」

「それにしても、女性のエインヘルアルがこんなに少ないなんてね」

「まさかのソロプレイヤーのリィヴもびっくりか。ま、ソロなんてしているから情報に疎いんだけどな」

「あはは、本当にね」

「この作戦が終わったらさ、リィヴはうちのパーティーに入らない? リィヴとならバランス良いと思うんだよね」

「お、童貞ド変態野郎もたまには良いこと言うな。まじでどうだ? リィヴの戦いぶりを見て、俺達に足りないものを持っていると俺も感じていたんだよ」


 何度か魔獣と戦闘になった。

 積極的にエインヘルアルを襲ってくる魔獣も少数ながらいるからね。

 俺は進化した大盾で魔獣の動きを防いで抑えてみせた。

 すると、その隙にマティアスが槍で突いて、フランクが短剣で切り裂いた。

 見事に魔獣を倒してみせたのである。


 俺の槌や盾、それに防具が下級戦闘魔道具であることをマティアスやフランクは分かっていない。

 2人ともまだヴァルキューレから最初にもらった最下級戦闘魔道具を使っている。

 他の戦闘魔道具は見たことがあるぐらいで、実戦で使われているのを見たことなんてないのだろう。

 ボリス隊長は気付いているかな。

 他の輸送メンバーがどう思っているのかは知らない。


「誘ってくれてありがとう。でもまだソロでやっていたいんだ」

「何かこだわりでもあるのか? 神玉を集めるのはエインヘルアル全員で達成すればいいんだぜ。ソロで集めるわけじゃないんだから」

「まぁそうなんだけどね。でも、実際神玉を集めるのなんて、俺達には無理じゃん? マティアスもフランクも、金狼様達が集めてくれるって思っているんだろ?」

「そりゃそうさ。僕達が強くなる頃には、クロード様が全ての神玉を集めて下さっているよ。だからこそ! 僕達は適当な強さを身に付けて可愛い女の子を漁るべきなんだよ!」

「黙れ童貞ド変態野郎」


 2人には申し訳ないけど、俺には可愛い弟分の相棒であるニニがいるんだよね。

 そしてフランクには本当に申し訳ないけど、プチハーレムを形成してしまっているし!


「エインヘルアルの女子は圧倒的に少ない。かといってテラの色町の女の子達は完全にお仕事のお付き合いなんだよな~。こう燃えるような恋とか愛とかしたいよ!」

「フランクの場合、その変態的な性癖をどうにかしないと、絶対に無理だと思うよ」

「同意」


 いつものオチが着いたところで、明日に備えてそろそろ寝ようかという雰囲気が流れる。

 狭いテントの中を静寂が包む。

 このまますっと夢の中へ落ちていく……そう思っていた時だ。


「クロード様だ! おい! クロード様がいらっしゃってるぞ!」


 テントの外から興奮したように、誰かが叫んでいる。

 クロードがきている?


「おい、聞いたか」

「うん。クロード様だって! 僕、見に行きたいな!」

「行こうぜ。リィヴも行くだろ?」

「ん……そうだな」


 見るだけなら神殿で何度か見たことある。

 別に本当はどうでもよかったけど、何となくマティアス達に合わせてしまった。

 テントの外に出ると、みんながある方向に騒いで走っていっている。

 第3拠点の隊長のテントの方角だ。

 魔石保管庫の近くでもある。

 野次馬達に混じって俺達も隊長のテントに向かっていった。



「いや~、夜遅くに悪いね。今夜は魔獣の引きが特に良くて、ついつい熱中しちゃったんだ」

「クロード様をお迎え出来て光栄であります。いつでもいらして下さい」

「まったく、クロードはいつもこうよ。時間配分とか関係なしなんだから」

「まぁまぁ、エレーナもそんなこと言いながら結局クロードに付き合うんだろ」

「あはは、エレーナいつもありがとうね」



 クロード達はテントの中ではなく、テント前にある聖樹の根に腰を降ろして談笑していた。

 クロード達の前に立っているのは、第3拠点の隊長だ。

 クロードの両隣りに座っている男女は金狼のメンバーか。

 たった3人で中層の魔獣を狩り回っているのかよ。


 金髪イケメンのクロードは終始爽やかな笑顔を浮かべている。

 夜でもマーニの光りだけで輝く金ピカ鎧が眩しい。

 しかも剣まで金ピカときたもんだ。

 剣は両手用の大きな剣だ。


 クロードの右に座っているのは女性だ。

 エレーナって呼ばれていたな。

 整った容姿で美人だと思う。

 武器は何も持っていないように見えるが……。

 防具は金ピカのローブを着ているから、魔法石で戦うタイプかもしれない。


 そしてクロードの左に座っているのは、ひげを生やしたおっさんだ。

 名前は……。


「マティアス、あの左にいるひげのおっさんの名前知ってる?」

「知らないのかよ。金狼のブラスコ様だ。クロード様の右腕と言われている御方だぞ」

「ふ~ん」


 ブラスコね。

 強面のおっさんは、禍々しい感じを受ける巨大な両手斧が武器のようだ。

 金ピカ防具はわりと軽装だな。


 クロードは24歳と聞いている。

 エレーナは見た目クロードと同じぐらいで、ブラスコは30代だろう。

 ただ精神年齢がどうなのかは知らん。

 クロードは俺と同時期にミズガルズに来ているから、見た目まんまだろうけど、他の2人の精神年齢は何百歳かもしれないし。



「それで明日からどうするんだ?」

「う~ん、困ったね。どうしよう」

「誰でもいいから補充したらいいんじゃない」


 補充?

 他にも金狼のメンバーがいたのか?


「何かお困りですか?」


 第3拠点の隊長が聞く。

 彼も金狼のメンバーのはずだけど、上下関係があるようでかなり畏まった口調だ。


「いや~俺達と一緒に来てくれていた特殊輸送部隊の人達なんだけど、どんどん脱落しちゃってね。誰もいなくなっちゃったんだ」

「まったく! 自分達の身も守れないなんて……」

「戻ってこられないのは、ヴァルキューレの魔力が尽きてしまったのだろう」


 特殊輸送部隊。

 回収した魔石を持ちながらクロード達についていく。

 魔獣からすれば、狙うのはクロード達ではなく特殊輸送部隊か。

 中層の魔獣は俺も何度か見たことがある。

 下層の大猿なんか目じゃない恐ろしい魔獣だったよ。

 いくらクロード達と一緒でも、一瞬の隙に殺されてしまうのか。


「誰でもいいけど、しっかりついてこれる人がいいわ。魔獣に殺されたのって疲れて私達との距離が離れてしまった時じゃない。体力ないのよね~」

「まぁまぁ、俺達の速度についてこれるなんて、それこそ金狼のメンバーじゃないと無理だろうよ」

「とりあえず3名ほど補充したいかな」

「少なくない?」

「明日はここからさらに北に行くつもりなんだ。あそこは険しいからね~。出来れば少人数がいいかな~ってね」

「いいと思うぞ」

「分かりました。では明日の出発までに特殊輸送部隊に入れる3名を選んでおきます」

「悪いね、余計な手間取らせちゃって。でもお願いね」



 クロードがこれほど喋っているのは初めて見た。

 何ていうか……気さくな兄ちゃんみたいだな。

 悪い感じはしない。

 まぁそれはほぼ全員に言えることなんだけど。

 あのクズ共のようなエインヘルアルはそこまで多くない。

 中にはあのクズ共並みに嫌な奴らもいるにはいるけどね。


 クロードはエインヘルアル達の希望の星だ。

 神玉を集めて元の世界に戻れるかもしれないのだから。

 同じチート魔道具持ちの俺はこっそりコツコツやっているけど、それは事情が違うから。

 俺の魔法袋はクロードの指輪と違って、奪われたらお終いだ。

 いや、他のみんなが知ったら魔法袋をクロード様に差し出すべきだろ! って怒るんだろうけど、魔法袋はオーディンが俺に与えたものだ。

 どう使うかは俺が決める。


 でも死神の件が片付いて、この作戦の間にクロードや金狼のことを知ることが出来たら、神玉集めの際には本当にクロードに魔法袋を渡してしまってもいいかもしれない。

 それが元の世界に戻るための一番の近道だと思える。


 ふむ、クロードのことを知るのは重要だ。

 彼に全てを託していいのかどうか見極める必要がある。

 これはチャンスじゃないか。

 俺はマティアスをけしかけることにした。


「なぁマティアス。クロード様が人員を募集しているらしいぞ。立候補したらどうだ?」

「ええ!? お、俺なんか足手まといに決まっているだろ」

「でもマティアス体力あるじゃん。なんか体力ある奴を募集しているっぽいぞ」

「そうは言っても……って俺だけ立候補なんておかしいだろ。リィヴも一緒に行ってくれるのかよ」

「マティアスが行くなら当然だろ。な? フランク」

「ええ!? 僕も!?」

「エレーナさんとお近づきになるチャンスだぞ」

「え~~確かに美人だけど……あの人めっちゃ怖いって噂なんだよな~。それにクロード様にべったりらしいし」


 ちっ、フランクをエレーナで釣るのは無理か。

 まぁいい。

 マティアスの背中を押してやるか。


「マティアスはクロード様に憧れているんだろ? 俺は付き合うぜ。ボリス隊長に言ってこいよ」

「マジか。リィヴって意外に熱い男なんだな。よし! ちょっと隊長のところ行ってこようぜ!」

「え~~~、本気なの? 僕嫌だよ~~~」


 心の中でしめしめと思いながら、俺達はボリス隊長を探した。





 ボリス隊長はクロードを見に来ていた野次馬の中に紛れていた。

 最初、隊長のテントまで行ったら中は空っぽだったのだ。


「隊長! クロード様が特殊輸送部隊を3名募集すると言っておられました! 是非とも俺達を行かせて下さい!」


 マティアスが荷物運びの時には見せない真剣な表情でボリス隊長に願い出ている。

 俺もマティアスの後ろで真剣な表情を作っている。

 フランクはちょっと嫌そうな顔だけど、まぁ大丈夫だろう。


「やめておけ。お前達では無理だ」


 しかしボリス隊長の口からは無情な言葉が発せられた。


「特殊輸送部隊に配属されていたのは、最低でも最下層に入っていたエインヘルアルだ。浅瀬を抜け出せないお前らではクロード様に迷惑がかかってしまう。推薦することは出来ない」

「そ、そうですか」

「気持ちは評価する。お前達はお前達が出来る役割を果たせ。日が昇ればすぐにカリーンに向けて出発する。いいな」

「了解であります……」


 マティアスが落ち込んだ声で返事をした。

 やっぱハードル高いな。

 浅瀬のエインヘルアルなんて連れて行かないか。

 しかしこれは困ったぞ。


「ボリス隊長」


 俺達の後ろから誰かの声がした。


「これはヘンリック隊長。どうされました」


 振り返ると、第3拠点隊長であるヘンリックがいた。

 さっきまでクロードの前に立っていた男だ。


「実はちょっと相談があってね。クロード様が特殊輸送部隊の補充に3名ほど人員をご希望だ。ボリス隊長の第3輸送部隊の中で、下層に入っているエインヘルアルはいたかね?」

「そうでしたか。ですが申し訳ありません。私の部隊にはおりません。最下層に入っていた者なら1名おります」

「そうか。いや、実はいま第3拠点にいる輸送部隊は、ボリス隊長の第3部隊とフランキー隊長の第7部隊だけでね。ここ第3拠点は出来て間もなく防衛に不安があるから、出来れば防衛部隊や戦闘部隊から人員を出したくない。フランキー隊長のところにも下層に入っているエインヘルアルが1人もいなかったのだよ」

「では最下層に入っている1名を……」


 そこまで言ってボリス隊長は俺達を見た。

 その視線にマティアスが期待の表情を浮かべる。

 目はらんらんと輝き、顔をこくこくと頷いている。

 まさに俺達を選んでくれと無言で訴えているのだ。


「あ~……ヘンリック隊長。実はいまここに集まっている3名は……さきほどのクロード様達の会話を聞いて、是非とも特殊輸送部隊に入りたいと志願してきた者達なのです。ですが、まだミズガルズに来て1年ほどの新米でして浅瀬で活動しています」

「ほ~、良い心意気を持った者達だな」

「気持ちだけで務まるわけではありません。クロード様達に迷惑をかけてしまうと思い、たったいま諭したところでございます……が、気持ちは汲んでやりたい」

「確かに」

「ですので、最下層に入っている1名とこの3人でどうでしょうか? 3人で2人分として数えればどうにかなるかなと。クロード様のご希望の人数より1名多いことになってしまいますが」

「なるほど……」


 今度はヘンリック隊長が俺達をじっと凝視してきた。

 俺達は背筋を伸ばしてびしっと立っている。


「君らの想像を絶する任務になるだろう。クロード様達の進む速度についていくことすら難しいかもしれない。それでもやってみるか?」

「はい! やらせて下さい!」


 マティアスがはっきりと大きな声で答えた。

 良い返事だ。

 ボリス隊長もヘンリック隊長も、マティアスの答えに満足そうだ。


「君達はどうかね?」

「是非やらして下さい」

「お、お願いします」


 フランクも腹を括ったのか、俺に続いて返事をした。

 決まりだな。


「ではボリス隊長。彼らと最下層に入ったことのある1名を特殊輸送部隊に配属させる。予定より1名増えてしまうことは、私からクロード様に伝えておこう」

「かしこまりました。そのように手配します」

「頼む。あ~それと、特殊輸送部隊に配属されると作戦終了時の報酬として中級魔石が1個加算されることになっている。その分しっかり働くんだぞ。どんなに辛くても途中で根を上げるなよ!」

「了解であります!」


 おお! 中級魔石1個加算か!

 これで中級魔石2個もらえることになるから、溜まっている下級魔石と合わせて中級魔石4個になる。

 戻ったらシーラに会いにいけるぞ。


「お前達と一緒に行くのはモーリスだ。今夜のうちにブラスコ様と会って話を聞いておくのがいいだろう。クロード様達がどのように行動されているのか俺にも分からんからな。……マティアスとフランク。モーリスを探してここに連れてこい」

「りょ、了解です!」

「はい!」


 あれ? 俺は?

 俺だけ残されて、マティアスとフランクはモーリスを探しに向かった。


「リィヴ」

「はい」

「モーリスは最下層経験者だがまだ弱い。マティアスとフランクに至っては見ての通りだ。お前が3人をフォローしてやれ」

「え? 俺がですか?」

「ああ、お前がだ。活動範囲に浅瀬と書かれてあったが、本当は下層だろ? ま、それをどうこう言うつもりはない。誰だって危険な任務は嫌だからな」

「は、はぁ」

「しっかりやれよ。中級魔石1個分の働きはしてこい。マティアス達がついていけない場合は、最悪お前だけでもクロード様についていけ」


 ボリス隊長は俺が下層で活動しているエインヘルアルだと思っていたのか。

 活動範囲を浅瀬と書けば、配属される先はほぼ間違いなく輸送部隊だ。

 ここ中層では、浅瀬のエインヘルアルは戦うことも守ることも出来ないのだから。

 そうして危険の少ない輸送部隊をこなせば、中級魔石が1個手に入る。

 なるほど美味しい仕事だな。

 実は違うけど、当たっている点もあるので話に乗っておいた。


「善処します」

「ああ、頼む」



 すぐにモーリスはやってきた。

 マティアスと同い年ぐらいの茶髪の剣士だ。

 いきなり特殊輸送部隊に配属される話を聞いたせいか、不安そうな顔をしている。


 俺達はボリス隊長に連れられて、ブラスコに会いに行った。

 クロードとエレーナはテントの中で休んでいるらしい……まったく2人で何をしているか分かったもんじゃないな!

 ブラスコからこれまでのクロード達の戦いぶりや行動を聞いた。

 聞いた話を簡単にまとめると『常軌を逸している』である。

 とにかく進むスピードも速ければ、魔獣を倒すスピードも速い。

 次々と消滅する魔獣の後に残された魔石をひたすら拾い、それを担ぎながら必死でクロード達を追うことになるそうだ。

 クロード達と距離が離れすぎると、魔獣の奇襲で殺されることになる。

 ちなみに距離が離れすぎるラインは100m以内ならクロードが助けてくれるので問題なく、100mを超えて離れ始めると危ないらしい。


 話を聞き終えると、テントに戻りすぐに寝ることにした。

 クロード達は朝一番に出発するらしい。

 その前に起きて、準備を済ませておかないといけないのだ。

 でも、マティアスは特殊輸送部隊に入れたことに興奮しているのかなかなか眠れないでいた。

 フランクは逆に辛い任務が今さら嫌になったのか、ぶつぶつと文句を言って寝ていない。

 そして俺もまた……明日からクロードと一緒に行動すると思うと心が落ち着かなくて、なかなか眠れなかった。




 翌朝。

 ソールの輝きが空を奇妙な色に染めている。

 朝焼けって何か神秘的だよな。


 俺達は既に準備を終えている。

 出発前にヘンリック隊長とボリス隊長が、俺達を紹介してくれた。


「こちらの4名が特殊輸送部隊の補充人員です。最下層経験者のモーリスと、浅瀬活動のマティアス、フランク、リィヴです」

「よろしく! 急に悪いね~。でも俺達の後をついてきて魔石拾うだけだから。距離が離れすぎなければ俺が絶対助けるからさ! 頑張ろう!」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 一応俺達の中では一番格上? になるモーリスが返事をする。

 しかしクロードは本当に気さくな兄ちゃんって感じだな。


「ちょっと~。浅瀬の3名ってどういうことなのよ。もっとちゃんとしたのいないの?」

「こらこら。第3拠点は出来たばかりだ。防衛の数を減らすわけにもいかないだろ」


 エレーナは実に不機嫌そうだ。

 そんなエレーナをブラスコが宥めている。

 クロードは笑顔でそれを見ている。


「今日はここから北に向かうよ。ちょ~っと地形が厳しいけど、頑張ってついてきてね」

「はい!」

「いつまでその元気が持つことかしら」

「それじゃ~出発!」


 クロード達がどんな戦いを見せてくれるのか、俺もわくわくしている。

 それは俺が目指すべき強さなのだろうから。


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