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猫かぶり姫と残念な仲間たち  作者: もり


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22/27

20.俺の嫁。


――― 人は見かけによらないって言うけど、ヴィートさんがまさにそうだよね。まあ、第一印象も全然当てにならないってラルフとハロンでも思うけど……。


 隣に座ったヴィートがお茶に四杯目の砂糖を入れてかき混ぜる様子を見ながら、花はぼんやりと考えていた。

 そこにセインのためらいがちな声が耳に入り、顔を上げた。


「ところでヴィート、その……青い鳥は……?」


――― なんだ、やっぱり小鳥が肩にいるのが常態じゃないんだ。


 と、ほんの少しホッとした花や皆が答えを待って見守る中、ヴィートは一口お茶を飲んでから、ゆっくりとカップをソーサーに戻した。

 そして、父であるセインを真っ直ぐに見た。


「嫁です」


 ヴィートのきっぱりとした返答に、ラルフとハロンが激しく咳き込みだし、花は何度か瞬きを繰り返して軽く目をこすった。


「ハナ、目の錯覚ではない。あれは間違いなく鳥だ」


 小鳥に見えるだけで、実は人間なのだろうかと自分の目を疑った花だったが、ルークの冷静な言葉でそうではないと知った。


「そ、そう……。セインも私も、あなたが望むならどんな女性でも歓迎しようと常々思っていたのですけれど……。ええ、どんな方でも……」


 カップを置いて、静かに告げたソフィアの声は微かに震えている。

 セインは眉間を軽く押さえて目を閉じていたが、ソフィアの言葉には無言で頷いた。


――― ええ!? 認めちゃうの!?


 驚いた花は思わず右隣を見上げたが、ルークは諦めの表情で首を振った。

 再び左隣に視線を戻すと、ヴィートは左肩の青い鳥を優しく撫でていた。

 小鳥は気持ち良さそうにウットリしている。


――― ラ、ラブラブですね……。


 それから向かいの面々を見回すと、皆の顔色はまだ悪いが落ち着きを必死に取り戻そうとしているようだった。

 どうやら誰一人として、これが冗談だと受け止めている者はいないらしい。


「紹介が遅くなって申し訳ありません。ちょっと恥ずかしくて。この子はマリアって言います」


「よ、よろしく、マリア。ヴィートの父親のセインだ。挨拶が後回しになってしまって、すまなかったね」


「母親のソフィアよ。座ったままでごめんなさいね。何かお飲みになる?」


 セインとソフィアはどうにか動揺を抑えて挨拶をした。

 応えて、小鳥――マリアがヴィートの肩の上でピピっと鳴いて頭を下げた。……ように見えた。


「いいよ、母さん。マリアが今は大丈夫だって。それで、あっちがすぐ下の弟のラルフ、隣がハロン」


「どうぞよろしく。……ね、義姉さん?」


「弟のハロンです。よろしくお願い致します」


――― ありなんだ……。これってありなんだ……。


 次々と交わされる挨拶を見て、花はただ唖然としていた。

 そして、今度は花の番である。


「で、こちらが念願の僕の可愛い妹のハナ様。隣が憎き義弟のルーク」


「ヴィート!」


 すぐさまセインの厳しい叱責が飛んだが、ヴィートは平然としている。

 ルークも気にするなと言うように手を振ると、花越しにヴィートの左肩に向かって軽く頷いた。


「……花です。よろしくお願い致します」


 花もなんとか挨拶をすると、ヴィートは満足そうに笑って話し始めた。


「僕の一目惚れだったんです。それで次に会うことが出来たら、絶対に逃がさないと決意して、老齢の雄鳥の下に弟子入りして、求愛のダンスを習いました。師匠は厳しくて、時間もかかって大変でしたが、師匠を納得させてからは、網を持ってマリアを捜し続けたんです」


「網って……。兄さん、それは犯罪一歩手前じゃないですか」


 それでここ最近は森近くの集落から苦情がなかったのかと侯爵家の面々は納得しつつも、ラルフは突っ込まずにはいられなかった。

 しかし、ヴィートは気にした様子もなく、再び小鳥を撫でてからルークに不満そうな顔を向けた。


「僕が森でマリアに求愛している間に、まさかルークが可愛い妹を奪うなんて思いも寄りませんでした。全く、なんて酷い男なんだ」


「逆だ、逆。ハナが俺の嫁になったから、お前の義妹になったんだ」


 急に不当な非難を浴びせられたルークは素で反論したが、花はその言葉を聞いて俯き、激しく悶えていた。


――― ふおおお!! 俺の嫁!! ちょっと……ううん、かなり胸キュンです!!


「森でザックから妹のことを聞いた時には驚きましたよ。それで慌てて帰って来ましたが、マリアに妹が幸せなら邪魔をしてはいけないって説得されて……」


 続いたヴィートの話で、今回どこからも被害届がなかった理由がようやく解明され、花以外の誰もが胸を撫で下ろしていた。

 お嫁さんをもらって、ヴィートも少しは落ち着いたらしい。

 当のヴィートは皆の心中には頓着せず、顔を赤くした花をじっと見つめた。


「……幸せ?」


「はい!」


 花は自信を持ってはっきり答えることが出来て誇らしかった。

 この問いは花に向けられているが、本当はルークを心配しているものだと気付いたからだ。

 ヴィートは柔らかく目を細めて感謝の笑みを一瞬浮かべたが、すぐにまたニコニコ顔に戻った。


「そう、良かった。では、僕はもう森へ戻ります。今回はマリアの紹介も兼ねていましたが、マリアは森じゃないと生きていけないんです。別れるのは寂しいけど……また時々は会いに来るから……」


 次第にニコニコ顔が崩れ、涙をポロポロ流しながら花の手を握って、ヴィートは上下にぶんぶん振った。

 肩にのったマリアもピピっと悲しそうに鳴く。

 瞬間、その姿が消えた。


「……あれ?」


「……」


 戸惑う花と、黙り込んだルーク達。

 微妙な沈黙が支配したのはわずかな時間で、すぐにソフィアが気を取り直したように明るい声を上げた。


「まさかヴィートがお嫁さんをもらうとは思っていなかったけれど、まあいいでしょう。でも出来たらあなた達は人間のお嫁さんをもらってね」


――― い、いいんだ……。しかも、ラルフやハロンにも「出来たら」でいいんだ……。


 ヴィートに一時の別れをきちんと言えなかったことを残念に思いながらも、とりあえずソフィアの言葉には突っ込まずにはいられない花だった。

 こうして、花の初里帰りは無事に終わったのだった。




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