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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
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理由

「わかって……やった……?」


 僕は思わず声に出して言ってしまった。


 すると、それを聞いた灰村はニンマリと笑みを浮かべる。


「ええ。そうですよ。分かっていました。そして、現在その通りになっている。お爺ちゃんの言う通りです」


「……なぜ、そのようなことをしたのですか?」


 番田さんが訊ねる。


 灰村はむしろ、なんでそんなことを訊ねるのか、といった調子で番田さんを見る。


「なぜ? 簡単ですよ。見てみたかったんです。八十神語りが起こるとどうなるのか」


「見てみたかった……では、アナタは白神さんや黒田琥珀のことも……」


「いえ。それは知りませんよ」


 と、予想外の答えに番田さんは面食らってしまった。僕もケイさんも同様だった。


「……知らない? だったら、なぜ……」


「だから、見てみたかったんです。八十神語りがもう一度行なわれるようになったらどうなるか。もちろん、お爺ちゃんからは、八十神語りには絶対に関わってはいけないって教わっていましたからね。私自身は今の白神神社に行ったこともないですけど」


「つまり……アナタは、単純に八十神語りが起こるとその周辺で何が起こるか……それを知りたかっただけということですか」


「ええ。実際、アナタのような部外者がやってきた……こんなクソみたいな何もない場所に。私はそれだけで満足ですよ」


 ……信じられなかった。この灰村という女は……最低だ。


 自分の好奇心のためだけに、八十神語りを復活させたのだ。


 そして、僕や黒田さんを巻き込んだ……全てはこの女のせいなのだ。


「……ふざけるな」


 思わず僕はそう言ってしまった。隣にいたケイさんが僕のことを見ている。


「もちろん。白神さんに選ばれてしまったアナタには、私にそんな罵声を浴びせかける権利がありますね。ガキとはいえど、さすがに白神さんに選ばれたらどうなるか、私も知っていますから」


「……違う! お前のせいで……黒田さんは……」


「黒田……ああ。白神神社の。仕方ないですよ。あの一族は、八十神語りの犠牲になるための一族なのです。むしろ、感謝してほしいくらいです。私が、本来の使命を与えてあげたのですから」


 今すぐにでもこの女をどうにかしてやりたかった……だが、この女をどうにかしたところで、どうにもならないことは、僕が一番理解していた。


「……ですが、おかしいですね」


 と、番田さんがそう言った。灰村は今度は番田さんの方に顔を向ける。


「はい? 何がですか?」


「……八十神語りに関わってはいけないという教えを守ってきたのに、なぜ今更、我々に接触してきたのです?」


 番田さんの疑問は最もだ。そして、どうやら、灰村もそのことを聞かれることを理解していたようだった。


「ああ、そのことですか。その理由なら、私の家でお話しますよ。さぁ」


 そういって、灰村は再び歩き出した。未だに落ち着かない気持ちをなんとか抑えつけながら、僕、そして、ケイさんと番田さんは歩き出した。

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