本質
「巻き込まれた……黒田さんの……お母さんが?」
僕がそう言うとケイさんは小さく頷いた。番田さんの方に顔を向ける。
「……そう考えるのが、妥当だな」
番田さんも同意見のようだった。
「え……じゃあ、旧白神神社の火災は……」
「……おそらく、八十神語りの厄災の結果なのだろう。黒田真白は八十神語りを途中放棄したか、あるいは……すべて完遂したのか」
「え……完遂した、って……」
僕がそう言うと番田さんは重々しい視線で僕を見る。その視線は、まるで僕を哀れんでいるかのようなものだった。
「……十年前の火災では2人の焼死体が発見された。一つが黒田真白のものだと仮定する。だとすると、もう一人は誰だ?」
「え……そ、それは……」
「旦那でしょ。その人の」
ケイさんはそっけなくそう言った。番田さんは苦々しい顔でケイさんのことを見る。
しかし、ケイさんはむしろジト目で番田さんのことを見る。
「せんせー。はっきり言いなよ。黒須君。このままだとどう転んだって危ないんだ、って」
「……ふっ。まったく、君には敵わないな」
番田さんがそう小さくため息をついて、今一度僕のことを見る。
「え……どういうことですか?」
「黒須君。私は八十神語りについて今まで様々な仮説を立ててきた。そして、そのどれもが間違ってはいないが当たってはいない……そんな感じがしていた。だが、私が黒田真白の存在に気づいてから、八十神語りの本質がようやくはっきりとしたものに感じてきたんだ」
「え……番田さん。その……八十神語りの本質って……」
番田さんは少し躊躇ったようで、一瞬下を向いた。しかし、むしろ黙っていることが僕にとって悪いと思ったのか、すぐにその続きをはっきりと言った。
「黒須君。八十神語りは……白神さんに、生贄を捧げるための儀式だ」




