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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
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当たり前のこと

 灰村家から出ると、ケイさんと僕は北地区の寂しい町並みを歩いていた。


 ほとんど廃屋か空き地しかない……やはり、灰村家だけが異質な存在に思えた。


「……やっぱ、おかしいわよね」


 と、ケイさんが不意にそんなことを呟いた。


「そ、そうだよね……八十神語りの全貌がそんなものだったなんて……信じられないよ……」


 僕は反射的にそう言ってしまう。


「え? ああ、まぁ、それもそうなんだけどね」


 しかし、ケイさんの反応は予想外のものだった。


「え……ケイさんはおかしいと思わないの?」


「え? いや、それはおかしいと思うわよ。だけど、言ったでしょ。さっきの家」


「え……ああ、灰村家のことか」


 正直、僕はあまり理解できなかった。


 確かに北地区にある時点で異様なではあるけれども……そこまで気にかかるようなことではなかった。


「うん……言ったでしょ。あの家、ヤバイって」


「そうだけど……別に灰村も、青柳さんも普通に暮らしてたよ?」


「だから……あそこで暮らしてるアイツらがヤバイんだって。そもそも……あの爺さん、おかしいでしょ」


 ケイさんは眉間に皺を寄せてそう言った。


「え……何が?」


「だって、イロガミ様ってのは要は生贄担当の一族だったんでしょ? それを選んだのは灰村家……いくらあの灰村が直接ではないにしろ、その一族に仕えるって……可笑しくない?」


 ケイさんのいうことは……確かにそうだった。


 青柳老人は淡々と語っていたが……考えてみればおかしな話だ。


 それに、老人の話ではそもそも灰村家は村人全員に憎まれていたのだ。


 そんな一族の末裔に仕えるのはどういう心境なのだろうか……


「第一ね、黒須君。ここらへん、もう一度見てみなよ」


 そういって、ケイさんは辺りを見回す。僕も同様にそうしてみた。


 割れた窓ガラス……打ち捨てられたような廃墟……


「普通の人間だったら……周囲がこんな環境だったら、いくら電気や水道を通しているからって、住まないよ」


 ケイさんに至極当たり前の事を言われて、自分が今までおかしな場所にいたことを、僕はようやく理解したのだった。

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