神の名は
その後、本当に番田さんは、灰村に爺やと呼ばれていた老人に見送られて、帰ってしまった。
残ったのは僕とケイさん、そして、灰村だけとなってしまった。
「さて。まぁ、お茶でもどうぞ」
番田さんを見送る前に、爺やが淹れていったお茶を前に、灰村がそう言う。
僕とケイさんは思わず顔を見合わせてしまったが、とりあえず、僕の方からそれとなく湯のみを手に取り、そのままお茶を口に含んだ。
「……で、アンタ、せんせーに何言ったわけ?」
ケイさんが鋭い目つきでそう言う。灰村は相変わらずの貼り付けたような笑顔でケイさんのことを見る。
「先程言ったとおりです。番田さんにはこれからの八十神語りでどのような話がなされるのかをお話しただけです」
「……せんせー。随分驚いていたみたいだけど……その話、私達にもしてくれるわけ?」
ケイさんが不躾な態度でそう言うと、灰村は小さくため息をつく。
「ええ。そのためにこの家に残ってもらったのですから。なんなら今すぐにでも話しましょうか?」
予想外の展開に、僕は思わず驚いてしまう。ケイさんもさすがに急すぎると思ったのか、僕の方に顔を向けて心配そうな視線をぶつける。
「……え、えっと……本当に今、してくれるんですか?」
僕がそう言うと灰村は小さく頷いた。僕は今一度湯のみに口を付ける。
……どうせ、聞くことになる話なのだ。今からどんな話なのか、聞いておいても問題はない……はずである。
「それじゃあ……話してください。どんな話なのか」
「ええ。まぁ、もちろん、白神さんがどのような話をするのか……具体的なことはわかりません。ただ、どのような神様に関する話なのかは教えられるということです」
「……それは……どんな神様なんですか?」
「イロガミ様……そういう名前の神様です」
イロガミ……いきなりそう言われても僕は理解できなかった。一体どういう神様なのか……
「黒須君……でしたよね?」
と、灰村は今度はガキとは呼ばず、僕の苗字を呼んだ。
「え、ええ……そうですけど」
「アナタはお父様はこの村のご出身ですね。そうでしょう?」
「え、ええ……でも、なんで……?」
「それは私が町役場の人間であるからそういう個人情報を勝手に盗み見している……というのもあるのですが、その苗字でわかるんですよ」
ニヤリと微笑む灰村。苗字……僕の黒須という苗字に何かおかしな所があるのだろうか。
「そ、それって……」
すると、灰村は少し間を置いてから、さも嬉しそうに続きを話した。
「簡単にいうと……イロガミ様というのは、アナタのような苗字を持った村民のことだったのですよ」




