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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第6章 監獄惑星編

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第69話 被害者

「エネルギー充填完了。超光速航行(ハイパードライブ)エンジン、スタンバイ。……いつでも行けるわよ、勇爵」


 監獄惑星アイリスのメインブリッジ。


 制圧された司令室で、クロエが震える声で告げた。


 5000億人の命を乗せた巨大な鳥籠が、今まさに自由の空へと飛び立とうとしている。


「ああ、上出来だ。クロエ、後は任せたぞ」


 俺、クロウ・フォン・フライハイトは、満足げに頷いた。


「目的地は『惑星エンド』の衛星軌道上。あそこには俺の工場と防衛システムがある。到着さえすれば、帝国軍も手出しはできない」


「……本当に、行っちゃうのね」


 クロエが振り返る。


 その瞳には、不安と、それ以上の深い感謝の色が宿っていた。


「あんたも一緒に来ればいいのに。あんたがリーダーになれば、私たちは……」


「よせ。俺はあくまで帝国の貴族、フライハイト勇爵だ」


 俺はニヤリと笑い、マントを翻した。


「それに、ここからは『被害者』を演じなきゃならないんでな。……さあ、時間だ。俺という人質をゴミのように捨ててくれ」


「……ふふ、分かったわ。最高の悪党に、最大の感謝を」


 クロエは敬礼した。


 レジスタンス式の、拳を胸に当てるポーズだ。


 俺とシズはそれに背を向け、ブリッジ脇にある脱出ポッドの発射口へと向かった。


 ***


 プシュゥゥ……。


 気密ハッチが閉まり、俺とシズは狭い脱出ポッドの中に収まった。


 ポッドと言っても、要人用の豪華なものではない。緊急時に脱出するための簡素なものだ。


「……おいおい、またポッドに詰められて宇宙に捨てられる運命かよ」


 シートベルトを締めながら、俺は自嘲気味に呟いた。


 脳裏に蘇るのは、数年前の屈辱的な記憶だ。


 場所は、華やかなる帝国首都星(セントラル)


 当時、無実の罪を着せられた俺は、今は亡き宿敵グライム・フォン・ローゼンバーグ公爵の手によって、今回と同じような狭苦しい「処刑ポッド」に無理やり押し込められた。


 そして、ゴミ捨て場である惑星エンドへと、文字通り「廃棄処分」として射出されたのだ。


「あの時は、絶望しか無かったがな」


 だが今は違う。


 俺は自分の意志で、勝つためにこのポッドに乗っている。


 かつて俺を捨てたローゼンバーグ家は、俺の手で滅ぼした。


 そして今、俺は銀河最強の生産者として、再び宇宙へと飛び出すのだ。


「当時のポッドよりは、空調が効いているだけマシなのでは?」


 隣に座るシズが、相変わらずの無表情で淡々と言う。


「違いない。それに、今回は隣に美人がいるしな」


 ズドンッ!!


 鈍い衝撃と共に、ポッドが射出された。


 窓の外、凄まじい速度で遠ざかっていく「アイリス」の巨体が見える。


 そして数秒後。


 カッ!!!!


 空間が歪み、光が弾けた。


 直径10000キロメートルの巨大質量が、物理法則を無視して消滅する。


 監獄惑星アイリスは、5000億人の囚人と共に、遥か彼方の惑星エンドへと旅立ったのだ。


 後に残されたのは、静寂に包まれた暗黒の宇宙と、ポツンと浮かぶ俺たちのポッドだけ。


 そして、周囲に漂う「アイリス・カノン」の爪痕――砕け散った小惑星の残骸だけだった。


「……行ったか」


 俺は小さく息を吐いた。


 作戦は成功だ。


 だが、問題はここからだ。


「フェンリルは無事でしょうか」


 シズが呟く。


 あの超弩級レーザーの直撃寸前、ヴォルフたちは緊急ワープを行った。


 座標計算なしのデタラメな跳躍だ。


 無事に生き延びている保証はない。


「ヴォルフなら大丈夫だ。あの悪運の強さは異常だからな」


 俺はそう信じて、救難信号を発信し続けた。


 ***


 それから、数時間が経過した。


 暗黒の宇宙空間。


 俺はポッドの狭い窓から、代わり映えのしない星空を眺めながら、大きな欠伸を噛み殺していた。


「……退屈だな」


「酸素濃度、気温共に正常。閉塞感によるストレス反応も見られませんね、マスター」


「当たり前だ。この狭い棺桶の中で何週間も過ごしたんだぞ?食料も水もギリギリで、毎日死へのカウントダウンを数えていたあの地獄に比べれば、たった数時間の待機なんざ、まばたきするような時間だ」


 そう、俺にとってポッド生活は手慣れたものだ。


 孤独も、狭さも、今更苦痛にはならない。


 唯一の問題があるとすれば……。


「ただ、暇だ。窓から見えるこの宇宙の景色にも、そろそろ見飽きてきた」


 俺がぼやいた、その時だった。


 センサーが反応した。


 ピピピッ。


「マスター、接近する艦影あり」


「やっとか。待ちくたびれたぞ」


 俺が身を乗り出して窓の外を見る。


 漆黒の闇の中から、傷だらけの、しかし威風堂々たる白銀の巨体が姿を現した。


 戦艦フェンリル。


 自慢の流体金属装甲は剥がれ落ちているが、その航行に揺るぎはない。


「待ってたぞ、フェンリル」


 俺は通信機のスイッチを入れた。


 ノイズ混じりのスピーカーから、聞き慣れた野太い声が響いた。


『……こちらフェンリル。回収班を向かわせる』


 そして、少しだけ声を震わせて続けた。


『……閣下、迎えに来たぜ』


「ああ、遅いぞヴォルフ。退屈で寝るところだった」


 俺は安堵と共に、深くシートに体を預けた。


 ***


 フェンリルの格納庫にポッドが収容されると、俺たちは待ち構えていたクルーたちから万雷の拍手で迎えられた。


 その中心を割って、包帯を巻いたヴォルフが歩み寄ってくる。


「ご無事で!いやはや、生きた心地がしませんでしたぜ!」


 ヴォルフは豪快に笑ったが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「お前こそ、よくあの状況から生還したな。どこに飛んだんだ?」


「座標入力なしで適当に飛んだら、運良く近くのガス星雲の中に放り出されましてね。シールドも焼き切れて、流体金属装甲も全損しましたが、なんとかなりました」


「さすがは元帝国一の狂犬だな」


「へっ、褒め言葉として受け取っておきますよ」


 俺たちは固く握手を交わした。


 これで、役者は揃った。


 アイリス強奪という大犯罪を成し遂げ、全員が生還した。


 だが、まだ終わりではない。


 むしろ、ここからが「表の戦い」の始まりだ。


「さて、ヴォルフ。進路をセットしろ」


 俺はマントを翻し、艦橋へと向かいながら命じた。


「目的地は?」


帝国首都星(セントラル)だ」


 俺の言葉に、周囲のクルーたちがざわめく。


「この一件を、元老院へ報告しに行く。俺たちは『レジスタンスに拉致され、監獄惑星ごと誘拐されかけたが、命からがら脱出して生還した悲劇の英雄』だ」


 俺はニヤリと悪党の笑みを浮かべた。


「アインザッツ議長に泣きついてやろうじゃないか。『あなたの管理不足のせいで死ぬところでしたよ』とな」


「クックック……性格が悪すぎて反吐が出るな、最高だぜ閣下」


 ヴォルフも凶悪な笑みを返した。


 シズが静かに紅茶を差し出す。


「では、私は服を少し破いて、激戦をくぐり抜けた演出をしておきましょうか」


「ああ、頼む。俺も少し顔を汚しておくか」


 満身創痍の戦艦フェンリルは、大きく舵を切った。


 目指すは銀河の中心、帝国首都星(セントラル)


 5000億人を盗み出した大怪盗は、今度は被害者の仮面を被り、政治という名の戦場へと乗り込んでいくのだった。

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