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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第6章 監獄惑星編

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第68話 死の瞳

「急げ!メインブリッジまであと1キロだ!」


 俺、クロウ・フォン・フライハイトの檄が、無機質な白い回廊に響き渡った。


 特別収監エリアを脱出した俺たち一行は、惑星アイリスの最深部、中枢ブロックを目指して疾走していた。


「はぁ、はぁ……!くっ……!」


 隣を走るクロエの呼吸は荒く、足取りも重い。


 彼女だけではない。


 後ろに続くレジスタンスのメンバーたちも、顔面は蒼白で、今にも倒れそうになりながら必死に足を動かしていた。


 彼らは長年にわたる帝国からの過酷な逃亡生活により、体力は限界ギリギリまで削られていたのだ。


 本来なら走ることさえままならない身体を引きずり、ただ「自由」への渇望と気力だけで食らいついている。


「ペースを落とすな!止まったら死ぬぞ!」


 俺は彼らを鼓舞しつつも、内心では焦燥に駆られていた。


 ガイスト司令たちを始末したとはいえ、定期連絡が途絶えれば異変はすぐに露見する。


 時間との勝負だ。


「敵反応、前方3、後方2。……処理します」


 先頭を走るシズが、無感情な声を上げた。


 次の瞬間、彼女の姿が霞む。


 ザシュッ!ズドンッ!


 曲がり角から飛び出してきたアインザッツ家の私兵『特別行動部隊』の兵士たちが、認識する間もなく鉄屑へと変わる。


 シズは立ち止まることすらしない。


 走り抜けざまに首を飛ばし、心臓部を貫き、あるいはワイヤーで切断する。


 悲鳴を上げる暇も、通信機に手を伸ばす隙も与えない。


「……相変わらずデタラメな強さだな」


 俺は感嘆しながら、転がる残骸を飛び越えた。


 彼女の圧倒的な制圧力のおかげで、敵の増援を呼ばれることなく、俺たちは驚異的なスピードで中枢へと迫っていた。


「見えてきたぞ!あれだ!」


 長い通路の突き当たりに、城門のように巨大で重厚な扉が現れた。


 高さ10メートル、厚さは数メートルにも及ぶであろう超硬化合金製の隔壁。


 この奥こそが、監獄惑星アイリスを制御する『メインブリッジ』だ。


「ロックされています。通常手段での解除には30分を要します」


 シズが瞬時に解析する。


「30分も待てるか。シズ、こじ開けろ」


「御意」


 シズはスカートの裾を払い、扉の前に立った。


 彼女の指先が、超硬化合金製の装甲に突き刺さる。


 まるで豆腐に指を入れるかのように、ズブリとめり込んだ。


「出力最大。……開門します」


 ギギギギギギギギギギッ!!!!


 耳をつんざくような金属の悲鳴が轟いた。


 戦艦の装甲すら凌駕する扉が、シズの怪力によって無理やりねじ曲げられ、左右へと押し広げられていく。


 ***


 一方、メインブリッジ内部。


 そこには数十名のオペレーターと、艦長席に座る高級将校がいた。


 彼らは突如として鳴り響いた破壊音に戦慄していた。


「な、何だ!?扉が……外部からこじ開けられているだと!?」


 艦長が叫ぶ。


 ここは要塞の心臓部だ。


 核攻撃にも耐えうる隔壁が、人力で破壊されるなどあり得ない。


「モニター出せ!外で何が起きている!」


 メインスクリーンに、ドア前の映像が映し出される。


 そこには、ひしゃげた扉の隙間から侵入してくる集団の姿があった。


「今日護送されてきたレジスタンス共……それに、あのメイドはなんだ!?素手で装甲を引き裂いているぞ!」


 そして、その集団の中央で不敵な笑みを浮かべている男の顔を見て、艦長は血の気が引くのを感じた。


「あ、あれは……フライハイト勇爵!?なぜ彼がここに!?」


 勇爵はガイスト司令と共に特別収監エリアへ行ったはずだ。


 それがなぜ、武器を持ったレジスタンスと共に、ブリッジを襲撃しているのか。


 艦長の脳裏に、最悪の推論が走る。


「まさか……勇爵がレジスタンスに加担しているだと!?最初から、この要塞を乗っ取るつもりで……!」


 とんでもない事態だ。


 帝国の英雄と謳われる男が、実は反逆者だったなど。


「至急応援を呼ぶのだ!超光速通信で近隣の帝国軍基地、およびアインザッツ閣下へ連絡せよ!『フライハイト勇爵の謀反』と伝えろ!」


「は、はいッ!」


 通信士がコンソールを叩く。


 だが、次の瞬間、絶望的な報告が返ってきた。


「ダ、ダメです!全回線不通!強力な広域ジャミングが展開されています!」


「ジャミングだと!?」


「原因は……あの勇爵が乗ってきた戦艦です!衛星軌道上に待機している『フェンリル』から、凄まじい出力の妨害電波が放射されています!」


「おのれ、用意周到な……!」


 艦長は歯ぎしりした。


 外部との連絡が絶たれれば、孤立無援だ。


 だが、ここで座して死ぬわけにはいかない。


「なら、連絡船を全て出すんだ!一隻でも包囲網を抜ければ、事実は伝わる!全連絡船、緊急発進!」


 さらに、彼は吼えた。


「それと、防衛システムを全て起動しろ!目標は上空の戦艦フェンリルだ!あの船を墜とせばジャミングは消える!惑星中の砲台を使え!撃ち落とせェェェッ!」


 ***


 場所は変わり、アイリスの衛星軌道上。


 白銀の戦艦フェンリルのブリッジでは、グレイ・ヴォルフ大佐が退屈そうに欠伸を噛み殺していた。


 彼は鋭い眼光を放ち、獲物を探す獣のような雰囲気を纏っている。


「あーあ、閣下の護衛だったら、俺も中で暴れられたのによぉ」


 彼はコンソールに足を乗せ、部下たちがモニターを監視する様子を眺めていた。


 その時、戦術オペレーターが鋭い声を上げた。


「大佐!惑星地表にて高エネルギー反応!無数の砲台が起動しています!照準、本艦に向けられています!」


「あぁん?」


 ヴォルフはニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、足を下ろした。


「おいお前ら、どうやら中で閣下がやり始めたらしいぜ!ようやく俺らも仕事の時間だ!」


 直後、惑星アイリスの表面が光った。


 数百、いや数千にも及ぶ大出力レーザー砲が一斉に火を噴いたのだ。


 漆黒の宇宙を裂く光の雨。


 一発でも直撃すれば、通常の戦艦なら轟沈する威力の熱線が、フェンリルめがけて殺到する。


「来るぞッ!回避ィィッ!」


 ヴォルフの号令一下、フェンリルという巨体が信じられない機動を見せた。


 全長3000メートルの巨艦が、まるで戦闘機のように鋭角に回頭し、スラスターを全開にして光の網をすり抜けていく。


 ジュワッ!カッ!


 数本のレーザーが、フェンリルのエネルギーシールドを掠める。


 空間が歪み、光が散る。


「へっ、ぬるいぬるい!」


 ヴォルフは吠えた。


 彼はかつて、帝国軍において「狂犬」と恐れられた艦隊司令官だ。


 数多の死線をくぐり抜け、クロウに拾われてからは、その才能をさらに開花させていた。


 この程度の弾幕を避けることなど、彼と、彼に鍛え上げられた5万の精鋭部下にとっては朝飯前だ。


「この攻撃を避け続けろ!俺らがやられたら、ジャミングが解けちまう!閣下の顔に泥を塗るんじゃねえぞ!」


「イエッサー!!」


「あと、反撃しようとするなよ!エネルギーの無駄遣いだ。フェンリルの武装は温存しろ。動力炉の出力は全てシールドジェネレーターとスラスターに回せ!」


 華麗なる操船さばき。


 フェンリルは光の雨の中を優雅に舞い、一発の直撃弾も許さない。


 圧倒的な帝国一の実力を見せつけていた。


 その時、レーダー手が報告した。


「大佐!惑星のドックから多数の艦影!小型の連絡船です!数は30……いや50!散開してジャミング圏外へ逃げるつもりです!」


「チッ、ネズミどもが。湧いてきやがったか」


 ヴォルフの目が、狩人のそれになった。


 連絡船を一隻でも逃せば、クロウの計画が露見し、帝国の大艦隊が押し寄せてくる。


 それは絶対に阻止せねばならない。


「機銃座、及び副砲、照準合わせろ。……ハエ叩きの時間だ」


 ヴォルフは舌なめずりをした。


「一隻残らず撃ち落とせ。この空域からは、悲鳴一つ外には漏らさねえ!」


 ダダダダダダダッ!!


 ドキュゥゥゥン!!


 フェンリルの対空機銃と副砲が火を噴く。


 逃げ惑う連絡船が次々と火球に変わり、宇宙の塵となって消えていった。


 ***


 場面は戻って、アイリスのメインブリッジ。


 分厚い扉がついに限界を迎え、弾け飛んだ。


「お邪魔するぞ」


 土煙の中、クロウが悠然と姿を現す。


 その前には、死神の如きメイド、シズ。


 そして後ろには、肩で息をしながらも、復讐の炎を目に宿したレジスタンスたちが雪崩れ込んだ。


「ひ、ひぃぃッ!来るな!撃て、撃てぇ!」


 艦長が護身用のビームライフルを乱射するが、シズはそれを素手で弾き落とす。


「制圧します」


 シズが駆け出した。


 それは戦闘というより、一方的な蹂躙だった。


 警備兵たちが次々と宙を舞い、オペレーターたちが無力化されていく。


 わずか数十秒で、ブリッジ内の抵抗勢力はほぼ壊滅した。


「が、はっ……!」


 床に伏せった艦長が、血を吐きながら俺を見上げた。


「き、貴様……帝国の貴族でありながら……なぜだ……」


「貴族だからさ。欲しいものは奪う。それがこの星だったというだけだ」


 俺は冷ややかに見下ろした。


 勝負あった。


 そう誰もが思った瞬間だった。


 ブリッジの隅、コンソールの陰に隠れていた一人の乗組員が、血まみれの手で這いずっていた。


 彼の目は狂気に満ちていた。


「ゆ、勇爵……!ただでは……死なんぞ……!」


 彼は最後の力を振り絞り、コンソールの奥にある、厳重にプロテクトされた赤いボタンを拳で叩き込んだ。


「最後だ……これを、撃ってやる……道連れだァァッ!!」


 カチリ。


 その音が響いた瞬間。


 ズズズズズズズズズズ…………!!


 惑星全体が、腹の底に響くような轟音と振動に包まれた。


「な、なんだ!?」


 クロエが体勢を崩し、疲労した身体を壁に預けた。


 ブリッジ内の照明が赤一色に変わり、非常用のアナウンスが鳴り響いた。


『警告。警告。戦略兵器起動シークエンスを確認』


『超弩級レーザー砲『アイリス・カノン』、発射準備』


『エネルギー充填率120%。強制冷却システム、パージ』


「超弩級レーザー砲だと……!?」


 俺は戦慄した。


 設計図に載っていた、惑星破壊兵器。


 それをこのタイミングで起動したというのか。


『目標ロックオン……衛星軌道上、敵戦闘艦』


『発射まで30秒……29……28……』


 狙いは、ヴォルフの乗っているフェンリルだ!


 至近距離からの惑星破壊攻撃。


 いくらフェンリルのシールドでも、まともに食らえば蒸発する。


「シズ!停止コードは!?」


「間に合いません!ハードウェアレベルで回路が直結されています!」


「くそっ!」


 俺は通信機を掴み、絶叫した。


「緊急事態だ!ヴォルフ!聞こえるか!!」


『あ?どうしたんです閣下、今ちょうど最後のハエを叩き落としたとこで――』


「逃げろッ!!」


 俺の声に、ヴォルフの余裕が消える。


「お前の乗っているフェンリルが、この要塞の惑星破壊兵器にロックオンされた!緊急離脱だ!影響範囲はおそらく、周囲10万キロレベルだぞ!」


『じゅ、10万キロ!?マジかよ!?』


「通常エンジンの最大戦速じゃ間に合わない!急いで超光速航行(ハイパードライブ)で逃げるんだ!今すぐにだッ!!」


 ***


 フェンリルのブリッジで、ヴォルフは戦慄した。


 彼の視線の先、惑星アイリスの地表。


 巨大なクレーターのような窪みが、ギギギギ……と音を立てて変形し始めていた。


 まるでカメラのレンズの絞り機構のように、巨大な装甲板が回転しながら開き、その中心から、太陽よりも眩しい光が溢れ出してくる。


「おいおい……『アイリス(虹彩)』って名前は、これが由来かよ……」


 ヴォルフは冷や汗を流しながら、その美しくも恐ろしい「死の瞳」を見つめた。


 エネルギーの奔流が渦を巻き、宇宙空間そのものを歪ませている。


『発射まで10秒……9……』


「総員、衝撃に備えろォォォッ!!」


 ヴォルフは操舵輪を握りしめ、叫んだ。


「超光速航行へ移行!航路計算は省略だ!どこの星系に飛ぶか分からんが、ここで蒸発するよりマシだ!」


「し、しかし座標入力なしでのワープは、恒星や小惑星に衝突する危険が!」


「うるせえ!神に祈れ!途中で小惑星にぶつからないことをなッ!!」


『5……4……3……』


「飛べぇぇぇぇッ!!」


 ヴォルフがレバーを叩き込んだ。


 フェンリルの船体が光に包まれ、空間が引き伸ばされる。


『2……1……発射』


 フェンリルが超光速の彼方へ消えた、コンマ1秒後。


 カッ!!!!!!!!!!


 宇宙が、白一色に染まった。


 音のない宇宙空間で、視覚情報としての「轟音」が世界を塗り潰す。


 惑星アイリスの「瞳」から放たれた極太の光帯は、直径数千キロにも及び、一直線に宇宙を貫いた。


 フェンリルがいた座標を飲み込み、その背後にあった小惑星帯へ突き刺さる。


 数億の岩塊が、一瞬にして蒸発し、プラズマの霧となって消滅した。


 その余波だけで衝撃波が発生し、10万キロ圏内にあったあらゆるデブリが吹き飛ぶ。


 それはまるで、局地的な超新星爆発だった。


 美しく、残酷で、圧倒的な破壊の光景。


「…………」


 メインブリッジのモニター越しにそれを見ていた俺たちは、言葉を失って立ち尽くしていた。


 あと一瞬遅ければ、フェンリルは……そしてヴォルフと5万の部下たちは、あの光の中で原子分解されていただろう。


「……ヴォルフ」


 俺は震える手で通信機を握りしめた。


 ノイズだけが返ってくる。


 ジャミングが解けたからではない。爆発の影響で通信波が乱れているのだ。


「無事でいてくれよ……狂犬」


 モニターには、抉り取られたような宇宙の傷跡と、薄れゆく光の粒子だけが漂っていた。


 この惑星を手に入れるための代償は、あまりにも大きく、そして際どい賭けだった。

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