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廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第6章 監獄惑星編

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第65話 要塞開錠

 戦艦『フェンリル』は、漆黒の宇宙空間を音もなく滑るように航行していた。


 目的地は、銀河の東方最果てにある暗礁宙域。


 そこに座すのは、帝国の暗部そのものである『監獄惑星アイリス』だ。


 艦内の司令室には、今回の作戦の中核メンバーが集結していた。


 俺、クロウ・フォン・フライハイト。


 ドロイドのシズ。


 そして、このフェンリルに同乗している精鋭部隊5万名を指揮するグレイ・ヴォルフ大佐。


 さらに、レジスタンスのリーダーであるクロエと、その部下数十名だ。


 彼らは皆、緊張した面持ちでモニターを見つめている。


 あと数時間で、敵の懐に入る。


 その前に、俺にはやっておかねばならない「根回し」があった。


「さて、まずは玄関の鍵を開けてもらうとしようか」


 俺は不敵に笑うと、シズに目配せした。


 シズが手際よく通信回線を開く。


 相手は、帝国の最高権力者の一人、元老院議長ヴァルター・フォン・アインザッツだ。


 以前、向こうから俺に掛けてきたことがあるため、直通の通信コードは知っている。


『……勇爵か。ん?これは直通回線(ホットライン)か?どこでこの番号を知った』


 モニターに、白髪の老人の不機嫌そうな顔が映し出された。


 ヴァルター議長だ。


 相変わらず、人を値踏みするような爬虫類の目をしている。


「ああ、議長。以前連絡をいただいた履歴に残っていたものでね。無作法を許してほしい」


 俺は恭しく、しかし堂々とした態度で答えた。


『フン。で、何のようだ?私は多忙なのだが』


「いい獲物が手に入ったので、報告しようと思いましてね。実は、神聖なる帝国に叛逆するレジスタンスの幹部クラスを、我が領地で一網打尽に捕まえまして」


 俺が言うと、ヴァルターの眉がピクリと動いた。


『レジスタンスだと?』


「ええ。本来なら現地で処刑するところですが、彼らは議長の領地にある『アインザッツ強制収容所』へ収監されるべき大罪人だと判断しました。現在、私が直接フェンリルで護送し、惑星アイリスへ向かっている最中です。事後承諾で申し訳ないが、着陸許可をいただきたい」


 俺の言葉に、ヴァルターは怪訝な顔をした。


『わざわざ卿が自ら運んでいるのか?酔狂なことだ。……しかし、なぜ殺さない?叛逆者など、その場で首を刎ねればよかろう』


 ヴァルターの疑念はもっともだ。


 だが、俺はここぞとばかりに邪悪な笑みを浮かべてみせた。


「何を仰います、議長。即死は『慈悲』ではありませんか」


『……ほう?』


「一瞬で楽に死なせるなど、彼らの罪に対して生温い。死ぬことも許されず、絶望の中で過酷な労働に従事し、生ける屍として搾り取られる……それこそが、帝国が叛逆者に与えるべき『慈悲なき鉄槌』であり、極上のエンターテインメントでしょう?」


 俺は帝国の過激なスローガンを、あえて大袈裟に、芝居がかった口調で言ってみせた。


 ヴァルターのようなサディストは、こういう理屈を好む。


 案の定、画面の向こうの老人は、口元を歪めて満足げに頷いた。


『ククク……確かに、卿の言う通りだ。若いくせに、なかなか分かっているではないか。よかろう、私のとっておきの地獄へ招待してやる』


「感謝します、閣下」


『現地の司令官には私から伝えておく。到着次第、すぐに引き渡すがいい。……たっぷりと可愛がってやるからな』


 通信が切れた。


 俺はふぅ、と息を吐き、ソファに深く座り直した。


「……チョロいもんだな」


「ケッ、悪党の演技が板につきすぎてて、どっちが反乱軍かわかりゃしねえ。さすがは閣下だぜ」


 ヴォルフが感心したように、しかし粗野な口調で笑った。


 クロエたちは呆気にとられていた。


「あんた……よくあんな大物相手に、平然と嘘がつけるわね」


「嘘じゃないさ。俺は本気で『慈悲なき鉄槌』が必要だと思ってる。ただし、その対象がレジスタンスじゃなく、あの狸ジジイだというだけの話だ」


 俺はニヤリと笑い、全員に向き直った。


「さて、第一段階は突破だ。これで正面ゲートは堂々と通れる。次は、中に入ってからのシナリオだ」


 俺は空中に監獄内部のホログラムを表示させた。


「手順を説明する。まず、俺たちは『護送部隊』として最深部の特別収監エリアまで案内されるはずだ。そこまでは大人しく従え」


「了解」


「そして、看守たちの警備が手薄になる、あるいは引き渡しの手続きが行われる瞬間に、合図を出す。そうしたら……」


 俺はクロエを見た。


「手錠を外して、俺の警備ドロイドから武器を奪え。ドロイドたちには抵抗しないようプログラムしておく」


「そこまでは分かったわ。で、その後は?」


「その後、俺を人質に取れ」


「は?」


 クロエが目を丸くした。


「俺の首にナイフを突きつけるなり、銃を向けるなりしろ。『動くな、この勇爵様がどうなってもいいのか!』と叫ぶんだ。そうすれば、看守どもは手出しできなくなる」


 俺の提案に、クロエは青ざめた。


「ちょっと待って!それは危険すぎるわ!」


 彼女はバンと机を叩いた。


「相手はあのアインザッツ議長の私兵、『特別行動部隊』よ!?彼らは冷酷無比な殺戮マシーンだって有名よ。人質なんてお構いなしに、勇爵ごと撃ち抜く可能性だってあるわ!」


「ええ、奴らの思考ルーチンは『殲滅』が最優先。標的と重なった人質を躊躇なく排除する事例も確認されています」


 シズも冷静にリスクを指摘する。


 だが、俺は涼しい顔で懐から小さなデバイスを取り出した。


 ブローチのような形状をした、銀色の機械だ。


「そう来ると思ってな。これを用意しておいた」


「何それ?」


「『超小型シールドジェネレータ』。俺の工場で作った特注品だ」


 俺はそれを胸元に装着した。


「これを起動すれば、俺の周囲5メートルに不可視のシールドが展開される。戦艦の主砲クラスならともかく、歩兵のレーザーライフルや実弾程度なら、何億発撃ち込まれても傷一つ付かない。蚊に刺されるよりマシだ」


「な……!?」


 クロエは絶句した。


 装甲車並みの防御力を、このサイズで実現しているというのか。


「だから、特別行動部隊が人質ごと俺を撃とうとしても無駄だ。弾は全て俺の手前で弾かれる。お前たちは俺の後ろに隠れていれば安全だ」


「……あんた、本当に何者なの?呆れて物も言えないわ」


 クロエは溜息をついたが、その表情には安堵の色が浮かんでいた。


 この男なら、本当にやってのけるかもしれない。


「というわけだ。こんなこと計画してる時点で、一連托生だ。今更だな」


 俺の言葉に、レジスタンスのメンバーたちは驚愕しつつも、深く頷いた。


「ヴォルフ、お前はここで待機だ」


 俺はヴォルフに向き直った。


 彼はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「おうよ、任せときな閣下。俺の役目は『蓋』だろ?」


「そうだ。俺たちが内部で暴れ始めたら、敵は必ず外部に応援を要請する。お前はフェンリルの電子戦装備をフル稼働させて、監獄惑星全域に特大の通信妨害(ジャミング)をかけろ」


「了解だ。救援要請どころか、悲鳴一つ外には漏らさせねえよ」


「そして、もし事態に気づいた連絡船や伝令艦が一隻でも外に出てきたら……」


「叩き潰せばいいんだろ?ハエ一匹逃がしはしねえ。フェンリルの主砲でも使って、片っ端から宇宙の塵にしてやるから安心しな」


 ヴォルフはボキボキと指を鳴らした。


 頼もしい限りだ。


 この男なら、本当に物理的に情報を遮断してくれるだろう。


「よし。俺を人質に取ったあとは、設計図に書かれたメインブリッジへ直行しろ。そしてコントロールを奪う」


「そして……超光速航行(ハイパードライブ)をする前に、あんたを脱出ポッドで射出する、でしょ?」


 クロエが先回りして言った。


「一緒に乗ったままだと、あんたも共犯になっちゃうから。『人質の役目を終えて捨てられた悲劇の貴族』を演じるために」


「覚えがいいな。その通りだ」


 俺は満足げに頷いた。


「了解したわ。……でも、超光速航行(ハイパードライブ)でどこに向かえばいい?5000億人を乗せた巨大惑星よ?帝国軍が追ってこられない場所なんて、この銀河にあるの?」


「あるさ。灯台下暗し、とびきりの隠れ家がな」


 俺はニヤリと笑い、地図の一点を指差した。


「俺の領地、フライハイト領の一番奥地にある『惑星エンド』だ」


「惑星エンド……?」


「ああ。帝国首都星(セントラル)から毎日毎日、大量の産業廃棄物やゴミが捨てられている、銀河のゴミ捨て場だ。あそこなら、誰も来ることはない」


「そんなところへ!?」


「安心しろ。地表は酷いが、衛星軌道上なら安全だ。それに、あそこは俺の『始まりの場所』でもある。俺の秘密工場や防衛設備が整っている」


 俺は言葉を切った。


「帝国貴族どもは、あそこを『汚いゴミ捨て場』としか認識していない。あんな場所に、5000億人が隠れているなんて夢にも思わないだろうさ。追手も寄り付かない、最高の聖域だ」


「……ゴミ捨て場が聖域、ね。ふふ、最高に皮肉が効いてるわ!」


 クロエは楽しげに笑った。


 そう話しているうちに、ブリッジのアラートが鳴り響いた。


「マスター。通常空間へ戻ります。アイリス宙域へ到達しました」


 シズの冷徹な声と共に、窓の外の景色が変わる。


 星々の光の中に、異様な存在感を放つ巨大な影が現れた。


 直径10000キロメートル。


 鈍い光沢を放つ黒い金属装甲に覆われ、無数の砲口が針鼠のように突き出した、人工の悪魔。


 監獄要塞アイリス。


 その威容に、レジスタンスのメンバーが息を呑む気配がした。


「ビビるなよ」


 俺は立ち上がり、マントを翻した。


「あんなデカい鉄屑、俺たちがいただくには丁度いいサイズだ」


 俺はヴォルフに留守を任せ、シズとクロエたちを連れてエアロックへと向かう。


「さあ、行こうか。銀河最大の怪盗劇、開演だ」

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