表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる  作者: 廣瀬誠人
第5章 内政編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/70

第52話 嵐の前の静けさ

 帝国首都星(セントラル)、第一区画、超大型艦専用ドック。


 数週間に及ぶ地獄の事務手続き――帝国紋章院との全面戦争――を終え、晴れて帝国貴族「男爵」となった1万5000人の男女は、今、人生で最も大きな衝撃を受けていた。


 彼らの目の前に鎮座する、白銀の巨体。


 勇爵クロウ・フォン・フライハイトの座乗艦、戦艦フェンリル。


 全長3000メートル。


 通常の戦艦の数倍という規格外のサイズもさることながら、流体金属装甲で鏡のように周囲の宇宙港の灯りを美しく反射している。


「こ、これが……我々の主君の船……」


「ニュース映像では見たことがあったが、実物はまるで神話の怪物だ……」


 元商人であり、巨大輸送船や巨大構造物には目が肥えているはずの彼らでさえ、その圧倒的な質量と美しさには言葉を失っていた。


 ただ大きいだけではない。


 その船体から発せられるプレッシャーは、これまで彼らが見上げてきたどんな貴族の威光よりも重く、鋭かった。


 これから自分たちは、この強大な力の庇護下に入り、そしてその尖兵となるのだ。


 武者震いが、1万5000人の背筋を駆け抜けた。


「ぼさっとしているな!乗艦しろ!」


 タラップの上から響く号令に、新米男爵たちは我に返り、慌てて足を動かした。


 目指すは、主君の本拠地、フライハイト領ノルド・ステーションである。


 ***


 フェンリル艦内、大会議場。


 数万人が収容可能なこの巨大ホールに、1万5000人の男爵たちが整列していた。


 彼らの指には、真新しい「男爵」の貴族指輪が輝いている。


 壇上には、クロウ・フォン・フライハイト勇爵。


 そしてその傍らには、銀髪のメイド、シズが控えている。


 クロウは集まった「寄子」たちを見下ろし、満足げに頷いた。


「よく集まった。帝国紋章院での手続き戦争、見事な戦いぶりだったぞ」


 会場から小さな笑いが漏れる。


 彼らは戦友としての連帯感を持っていた。


「さて、これより本題に入る。我々はこれより、俺の本拠地であるノルド・ステーションに向かう。そこで、お前たちがこれから赴任する領地……旧ローゼンバーグ貴族連合の所領を統治するための『力』を受け取ってもらう」


 クロウは指をパチンと鳴らした。


 背後の巨大スクリーンに、銀河地図が表示される。


 赤く塗られた広大な宙域。それが彼らの任地だ。


「お前らには、それぞれ星系単位での統治を任せる。一人当たりが統治する領民の数は、およそ66億人だ」


 66億。


 元々は大商会の主として数万、数十万の従業員を束ねていた彼らだが、億単位の人間を統治するとなれば話は別だ。


 緊張が走る彼らに、クロウはニヤリと笑った。


「ビビるな。丸腰で行けとは言わん。むしろ、過剰なまでのお土産を用意した」


「ノルド・ステーションにて、領地防衛および治安維持のための『ドロイド軍』を引き渡す。この数週間の間に、俺の会社『マター・ドロイド・インダストリー』の生産ラインをフル稼働させ、すでに生産は完了している」


 クロウは一呼吸置き、その数字を口にした。


「総数、1兆体」


 会場が凍りついた。


 聞き間違いかと思った。


 1万でも、1億でもない。


 1兆。


「い、1兆……!?戦闘用ドロイドがですか!?」


「帝国の正規軍全軍を合わせても、そんな数にはなりませんぞ!?」


 どよめきが爆発する。


 だが、彼らの主君は「万能物質(マター)」を生み出す錬金術師だ。


 材料費ゼロ、製造時間ほぼゼロ。常識は通用しない。


「単純計算で、お前ら一人当たりに配備されるのは『6600万体』のドロイド軍だ」


 クロウは淡々と続けた。


「領民66億人に対し、ドロイド6600万体。つまり、領民100人につき1体の武装ドロイドが目を光らせることになる。これだけの戦力があれば、どんな暴動も、どんな外敵も、そしてどんな『反乱分子』も、物理的に圧殺できる」


 そして、クロウの視線が鋭くなる。


「いいか、よく聞け。お前らが赴任する土地は、腐っている。旧ローゼンバーグ貴族連合……あの連中は、先の戦いで俺に敗れ、領地を没収された。だが、現地にはまだ、奴らに連なる薄汚い貴族の残党や、その腰巾着だった文官どもが隠れ潜んでいるだろう」


 男爵たちの顔に、嫌悪と怒りが浮かぶ。


 彼らは全員、元商人だ。


 商売の現場で、腐敗した役人や貴族に理不尽な賄賂を要求され、煮え湯を飲まされてきた経験を持つ。


「領地に残っている文官共は、奴らの下で甘い汁を吸い、汚職を繰り返してきたクズ共だ。更生など期待するな。お前らの最初の仕事は、そのゴミを粛清することだ」


 粛清。


 6600万のドロイド軍があれば、それは容易い。


 だが、文官を全員殺してしまえば、誰が実務を行うのか?


 そんな不安を抱いた彼らに、クロウはさらなる提案をした。


「当然、実務をこなす手足が必要になるだろう。そこでだ。お前らが以前経営していた商会の従業員を、そのまま文官として雇用しても良い。好きにしろ」


 その言葉に、男爵たちは顔を輝かせた。


「お、おお……!かつての部下たちを!」


「あいつらなら、数字には強いし、何より信頼できます!」


「そうだ。お前らの手足となって働いてきた優秀な番頭や手代たちだ。腐った貴族上がりの文官より、よほど役に立つだろう。全員呼び寄せろ。給金は領地の税収から弾んでやれ」


 クロウは両手を広げた。


「信頼できる仲間と、最強の軍隊。これだけあれば、出来ないことはないはずだ。最高の仕事を期待している。以上!」


「「「はっ!!御意!!」」」


 1万5000人の敬礼が、轟音となってホールを揺るがした。


 彼らの目に迷いはない。


 かつての仲間と共に、新しい国を作るのだ。


 ***


 数週間後。


 フライハイト領、ノルド・ステーション。


 宇宙港には、視界の限りに埋め尽くされた黒い軍団――1兆体のドロイドが梱包されたコンテナ群が整列していた。


 次々と輸送艦が発進していく。


 ドロイドを満載した艦隊が、それぞれの任地へと散っていく。


 その喧騒の中、クロウは最後の一人を呼び止めた。


 試験で圧倒的な1位を記録した才女、ビアンカだ。


 彼女もまた、かつては大商会を切り盛りしていた傑物である。


「ビアンカ・フォン・ステラ女男爵」


「はっ、閣下」


 ビアンカが優雅に一礼する。


「お前には、旧ローゼンバーグ公爵領の首星、惑星ローゼハイムを中心とした中枢領地を統治してもらう」


 クロウはウィンドウを開き、一つの惑星の映像を表示した。


 宇宙から見ても、その星は異様だった。


 地表の大部分が、鮮烈な「赤」に染まっているのだ。


「惑星ローゼハイム。旧ローゼンバーグ貴族連合の本拠地であり、最も繁栄していた星だ。奴らはこの星を『薔薇の星』と呼び、地表のすべてを美しいバラ畑に改造した」


 画面が拡大される。


 見渡す限りのバラ、バラ、バラ。


 芳醇な香りが宇宙まで届きそうなほどの、圧倒的な花園。


 その合間に、白亜の宮殿や優雅な都市が点在している。


「美しい星ですね。……狂気を感じるほどに」


「そうだ。だが、この星に住むことが許されているのは、2等市民と3等市民だけだ。つまり、貴族階級と、裕福な上級市民のみ。貧しい4等民や5等民は、この楽園には足を踏み入れることすら許されない」


 クロウの声が、低く冷たく響く。


「だが、お前も商人なら分かるだろう?これだけの規模の農園を維持するには、膨大な労働力と『肥料』が必要だと」


 ビアンカの眉がぴくりと動いた。


「噂を聞いたことがあります。ローゼハイムのバラが、なぜあれほどまでに赤く、美しく咲き誇るのか」


「ああ」


 クロウは吐き捨てるように言った。


「噂では、過酷な労働で死んだ5等民の屍を砕き、肥料にしているらしい。あの美しい大地の下には、悍ましいほどの死体が眠っているんだ」


 優雅な貴族たちが、バラの香りに包まれてお茶会を楽しんでいるその足元には、数え切れないほどの搾取された者たちの骨が埋まっている。


 文字通り、彼らは民衆の血を吸って咲く花を愛でているのだ。


「美しい花園の地下には、死体と汚泥が詰まっている。それがローゼハイムだ」


 クロウは彼女の目を真っ直ぐに見つめた。


「ビアンカ。お前には、その欺瞞に満ちた楽園を統治してもらう。腐った根を断ち切り、隠された死体の上に胡座をかく連中を引きずり下ろせ」


 それは、並大抵の代官に務まる仕事ではない。


 だが、ビアンカは不敵な笑みを浮かべた。


 その笑顔は、かつてクロウが彼女に見出した「強かな商人」の顔であり、同時に「慈悲深き統治者」の顔でもあった。


「お任せください、閣下。死体を肥料にするなど、経営資源の無駄遣いも甚だしい。人は生かして働かせてこそ、価値を生むものです」


 彼女の言葉は合理的で、それゆえに頼もしかった。


「必ずや、敵を粛清し、膿を出し切り……そして、血の匂いではなく、本当の豊かさの香りがする領地に変えてみせます」


「いい返事だ。行ってこい!」


 ビアンカが乗船した戦艦が、青白いスラスターの光を残して出港していく。


 彼女には、特別に多めの1億体のドロイドが与えられている。


 血塗られたバラの星で、今、大粛清の嵐が吹き荒れようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ