第八十二話 亡者の声
「あんたのそれ死霊術だろ? それはね私らじゃ外法って呼んでるよ」
追い込みをかけるシェランさん、ちょっと言葉を控えて欲しいように感じてきた。
あの人、顔が凄いことになっている。
目は充血し、明らかに殺意を含んでいる。
姿が揺めき、歪んで見えるのは炎に当てられただけではなさそうだ。
しかも、肩の部分から薄暗い何かが溢れているように見える。
(あれは………)
「これは驚いた。最近のお貴族は瘴気も着飾るとはね」
やっぱりそうだ。
身体から瘴気が出てるって、ほとんど魔物の部類になっている、正気を保っているのが信じられない。
「下衆なおのれらに貴族とはどういうものかを教えてやろう」
「正気ですか? 身体から瘴気を出しているものが、正気なことをおっしゃるとは思えませんぜ! お貴族!」
お姉さま、ごもっともですが、これ以上逆撫でさせて本当に正気を失ったら、何をするかわかりません。
洒落もほどほどにして欲しいです。
私は心の中で言えても、表に出せないでいる。
だってあの人、顔面の血管が浮き出すぎて恐ろしいことになっているんだもん。
とても……… 人間とは思えない。
「まずいのぅ。あれは悪意で魔を取り込みすぎておる」
ダレフさんの言葉にシェランさんはうなずくと、それを合図にシェランさんの周囲の小石がビルツめがけて飛んでいく。
ストーンバレットと言われる魔法だ。
水に火に土魔法を使うシェランさん。
得意じゃないなど言っているがとんでもない、3属性の魔法を操るなど、普通じゃないですお姉さま。
だけど、そのストーンバレットで放出された石はグール騎士により遮られてしまう。
「無駄だと言っておろう下賤な者よ」
その声はもう別人となっていた。
地の底から這い出てきたような、低い声。
地獄の亡者の声はたぶんこんな感じなのだろう。
その声を聞いた、こちらの気が滅入る。
「やり過ぎた感はあるけど、頃合いだね。みんな行くよ」
シェランさんの声を合図にダレフさんはアックスを、リュトはナイフを、私は符術の護符を構える。
「無駄だと言っておろうに!」
ビルツの前にグール騎士が立ち、再び火球を作り出した。
そしてまた騎士の吐く息を吸い込み、火球が膨れ上がってくる。
「岩石砕きは、そこの騎士だけのものではないことを見せねばな。オォリャアァ!」
「ストーンバレット!」
ダレフさんが足元の岩石の塊をアックスで打ち砕き、同時にシェランさんの魔法によって大量の石礫がすさまじい速度で敵に向かっていく。
石礫と言っても硬い鉱石を含んでいる。
それは金属同士がぶつかるような音を引き起こし、敵を土煙に埋めていく。
ーーだが、土煙が引くと。
グール騎士の鎧を前に、ビルツの姿は傷ひとつなく立っていた。
禍々しく輝く火球を背後に抱えて。




