第七十一話 容体
「いいよ、始めておくれ」
私から少し離れた場所で岩陰に身を寄せ、周囲をうかがいながら、シェランさんは言った。
シェランさんの言葉を合図に、ダレフさんがリュトの頭部に手をやり、傷口を見る。
「深いのぅ、これではすぐさま傷口が開いてしまうわい」
「ダレフさん……… あの……… リュトは」
リュトの傷口をまともに見れない私は、視線を落としてリュトの怪我の具合を聞く。
「傷口は深いが、骨に異常はなさそうじゃ。だが、だいぶ血が流れたみたいでの、これ以上はまずい、傷口を閉じねばならん」
布で傷口を抑えているぶん、出血は少ないが止まってはいない。
「針はワシが持っておるんじゃが、糸が無くてのぅ。あの時のジャイアントスパイダーの糸でもあればよかったんじゃが、仕方がない布で抑えて冷やすしかなかろう」
糸、糸、いと………
私は持ち物の中にないか思いを張り巡らせ、そして手に入れるための手段を思案した。
(もう一度、私だけでもジャイアントスパイダーのところに戻って………)
「ダメだよ」
私が一つの方法を思い浮かべたとき、シェランさんが私に向かって言う。
「あのジャイアントスパイダーのところに行こうって顔だね。許さないよ、わざわざ化け物のいる場所に行こうってのは」
「ーーでも」
「ダメだ、グールからは逃れられても他の化け物や魔獣が出るかもしれない。それにお嬢ちゃん、あんたずっとリュトの背にいたんだろ。道を覚えているのかい?」
腹正しいがシェランさんの言うことはわかる、わかるけどこのままじゃリュトが………
「まずは落ち着きなよお嬢ちゃん。リュトが助からないって決まったわけじゃないんだ」
もどかしい!
私は何もできない!
手に拳を作り力を込める。
そうして耐えなければ叫んでしまいそうだ。
シェランさんはそんな私の横を通り抜け、袖口から一つの小瓶を取り出しダレフさんと喋りだす。
「ポーションはそれだけだ。それで塞がらなければ諦めるしかないだろう」
信じられない言葉がシェランさんの口から発せられる。
私は私の耳をうたがった。
だけど、間違いなくそう言った。
「諦めるしかないだろう」と………
私は思わず詰め寄り、シェランさんの腕を掴む。
その時に初めて気づいた。
ーーシェランさんもまた腕に力を込め、硬直させていた。
顔を見上げて彼女を見る。
彼女は私と視線は合わさず、何も喋らない。
そのときになって、私は気づいたんだ。
この女性も耐えているのだと………
背後から絶望の言葉が忍び寄って来ているようで、泣き出しそうな気持ちになってくる。
ーーそんなとき、一筋の光りが私の前に現れる。
それは精霊さんだった。
そしてその手(?)には一本の白い輝く糸が握りしめられている。
「(使って)」
その言葉が頭の中で浮かぶ。
「これは………」
自分で書いてても………
文章が短くて、読んでてヤキモキする。w




