第六十八話 漢らしい
精霊さんが照らす坑道を、私たちは進む。
いまは走ることはしていない、道が入り組んで見通しが悪く、突然魔獣が現れても対応が出来ないことと、私の息が上がってしまって走っているのか歩いているのか、分からなくなってきたからだ。
その……… だからといって、歩けないんじゃ無いけど………
私はリュトにおんぶされている………
「ごめんなさい……… その……… 重くて」
人におぶってもらうなんて、記憶にないくらい昔の話だ。
顔から火が出そう………
「い! いや、全然! 全然軽いよ!」
リュトの声もうわずっている。
それを聞いて、心臓の鼓動がまた早くなった気がする………
聞かれたらどうしよう………
そんな私たちを、シェランさんがニヤニヤした顔で見ている……… 精霊さんも。
気のせいじゃないと思う、鼻の下を伸ばした感じがするもん。
先行するダレフさんが、指先を振って合図をする。
何か問題があったわけでなく、休憩をするようだ。
リュトは私を降ろすと、耳を地面に着け周囲を探る。
「周囲に動くようなものはいない」
起き上がってそう言うと、ダレフさんは手にしたアックスを岩肌に掛けて、腰を落とした。
シェランさんも魔物よけだろうか? 小瓶から水のようなものを、円を描くように周囲に撒く。
それが終わるとリュトに近づき話しかけてきた。
「なぁなぁ、リュト。どうだった?」
「なっ、何がだよ………」
ちょっと私の位置からは、よくは分からないけど、シェランさんの顔はニヤニヤしてるんじゃないだろうか……… 声がそんな感じだ。
「何って、決まってるだろ。オッパイだよ、オッパイ、感触どうだった。良かっただろ〜」
「ん、んなもん無ぇよ」
こっちに背を向けて、私に気をつかっている素振りのシェランさんだけど、しっかり聞こえているんですけど………
っていうか、な、何を言っているんだか、リュトも無いってどっちの意味のことよ!
「本当かなぁ〜、お姉さんは知りたいなぁ〜」
「う、うるせぇんだよ」
どう見ても、シェランさんがオッサンにしか見えない。
それに、精霊さんも覗き込むのをやめて欲しい。
なんとなく鼻を伸ばしてる感じがわかる。
そのときダレフさんはため息をつくと、シェランさんに顔を向け話を切り出す。
「ところでお前さんは、ここを無事に出られたとしてどうするんじゃ?」
(お姉さんのとどっちが良い〜)などと言いながら、リュトを羽交い締めにする感じで、ふざけていたシェランさんだったが、顔をあげるとリュトと向き合った。
そして二人はダレフさんに顔を向ける。
「ああ、そういえば言ってなかったな」
シェランさんはリュトを羽交い締めにしたまま喋り出す。
「まだ、私がここにいることをビルツの連中にはバレていないと思うが、万が一の場合がある。私もしばらく街を抜けるよ」
「ええ! 姐御! 本当か!」
それを聞いて声を上げるリュト。
私も驚き、同時に申し訳なく思う。
「バレたらギルドとしても犯罪者を匿ったことになっちまうからな、名目上すでに私はギルドを辞めた」
「ま、マジかよ姐御。ギルド辞めちまうなんて」
リュトがシェランさんの羽交い締めから抜け出し、シェランさんに向き合い正座をする。
そして申し訳なさで声を震わせながら言った。
そんなリュトにシェランさんは苦笑しながら言う。
「何言ってるんだい。アンタと同じになるだけなんだよ」
「けど………」
「ハン! 冒険者ってのはギルドに入っていないと名乗れないわけじゃ無いんだよ。逆さ、規則などに縛られること無く、生きていけるヤツが冒険者って言うのさ! 覚えときな!」
いまにも泣き出しそうなリュトに対して、シェランさんは対照的に不敵な笑みを浮かべ豪語した。
私はそれを見て、一つの思いに駆られる。
ーー漢らしいですシェランさん。
そのとき、ダレフさんがまた一つ、ため息を吐くと、ゆっくりと立て掛けてあるアックスに手を掛ける。
そしてその腕に力を込めて、暗い坑道の一点を見据え、アックスを構えた。
「まあ、ここを無事に抜けてからの話じゃな」
入院中にリハビリの一環として書いた、入院に関したエッセイを清書して投稿しようと思い。ちょっと次回の投稿は遅れるかも知れません。
キリのいいとこまではエタるつもりはありません。




