第六十四話 光りのキノコとクモの糸
「光るキノコって、あるんだっけか?」
光り輝くキノコを前に、リュトが私に向かって質問する。
(知らないわよ!?)
答える変わりに、私は無言の笑顔をリュトに向ける。
「光るキノコはあるぞい」
その時、ダレフさんが横あいから、代わりに答えてくれた。
やはりドワーフの知識は本当に幅が広い、光るキノコってあるんだ………
それはともかく、さすが私の精霊さま、光る姿はどことなく神々らしさを感じさせる。
だって精霊さまは月の光りの使徒と言われているもん。
私はゆっくりと近づいて来る、光るキノコ精霊さまを受け止めようと、両手を差し伸べる。
そこにダレフさんがボソリと言った。
「毒キノコじゃがな」
「ええっ!」
今まさに精霊さんが、手の上へ乗ろうとした時、声を上げると同時に思わずその手を思いっきり引っ込めた。
ちょうど浮遊を止めたタイミングだったようで、精霊さんは、そのままボスンと光苔の中に落ちてしまう。
毒キノコなの! 何か毒々しい感じがすると思った!
危ない、危ない! 触るところだった!
「こりゃ! 精霊さまの宿ったキノコが毒を持っているかはわからぬよ。ワシの知っておる光るキノコと色も形も違う。それに毒キノコと言っても食ったりせねば大丈夫じゃろう。お前さんいつも身につけていたでは無いか」
ダレフさんが呆れながら、私にそう言う。
そうだった、髪飾りに化けて頭に付けてたけど、痒くなったりしたことはない。
そう思った次の瞬間、苔の中からキノコが飛び出てくる。
光苔とは別の普通の苔やら、クモの糸やら虫の死骸など、体中に色んなものを巻きつけた精霊さんが迫って、私のちょうど額にへばり付いてきた。
「ギャァア〜! バッチイィィ〜!」
首を左右に振って、振り落とそうとしてもびくともしない。
精霊さんの思念が流れ込んでくる。
「(罰だ! 罰だ!)」
「ひっ! ひゃぁ! お許しを! リュト取って〜!」
目を開けると、何が目に入ってくるかわからない。
私は目を閉じたまま、リュトに精霊さんを引っぺがすようにお願いする。
「うわっ! ばっちい! 来るなよメテル!」
「だぁ〜はっはっはっ!」
だけどリュトは逃げ回り、シェランさんは笑い転げているようだ。
そんな私たちをダレフさんは呆れた顔で見ていたようだが、何かに気づいたらしい。
少し歩いた先にあるクモの糸を搔きわけると、繭状になったクモの糸の塊が現れた。
「お主らこれを見ろ」
ダレフさんの声に、私とリュト、そして精霊さんがふざけるのを止め、ダレフさんの方に振り向く。
そして、繭状になったクモの糸の塊の前に集まった。
「へぇ〜、これはこれは」
さっきまで顎が外れるくらいに笑い転げていたシェランさんが、興味ありげにそれを見る。
「これ、さっきのクモの糸で出来ているんですよね?」
私はシェランさんの横に立ち、それを見ながらシェランさんに尋ねた。
「ああ、ジャイアントスパイダーは時折、獲物を仕留めたらこのように繭状にして、保存する習性があるんだ」
「え!?」
言われてみれば、普通のクモも似た習性を持っているから、別におかしくはない………
おかしくはないが、繭が大きすぎる。ちょうど人間くらいの大きさで………
そう考えた時、私は意識せず後ろに一歩後ずさった。
そんな私に対して、後ろにいたリュトが肩ごしに言う。
「魔獣の素材も遺体から取れるものも、俺たち冒険者の大事な収入源なんだ。もし、繭の中に遺体が入っていようが、気に留めないでくれ」
リュトは私に顔を向けず、繭のほうを真っ直ぐ見据えている。
そんなリュトを私は見上げていた。
「まっ、必ずしも人間が入っているってわけじゃないけどな。なんせこの大きさだ、十分に考えられる。リュト、ナイフで少し削りな、中を確認する」
シェランさんはリュトにそう言うと、リュトはナイフを抜き取り、繭へ近づいて行った。




