第五十九話 山ケガレ
私たちは光苔を松明代わりにしながら、場所を移動する。
「ここは最初の頃の山で、見ての通り閉山している。もう銅も錫も取り尽くしたってことだ。つまり中身がスカスカだかんな。下手に暴れると崩落の恐れがあるからな」
なんでもないかのように、恐ろしいことを口にするシェランさん。
それはまぁそうかもしれないが、言い方に気をつけて貰いたい。
だってリュトのお父さんは、鉱山で起こった事故で亡くなっているはずだから。
私はなんとなくリュトの方に顔を向ける。
「姐御はこんな性格だからな、気にしちゃいねぇ〜よ、気にするほどバカってもんだ」
私の視線に気づいてリュトは私に向かってそう言った。
本当に気にはしてないようだ。
「ハン! ヒヨッコがいっぱしの事言ってやがる。つい最近まで泣きべそかいて……… 」
「シェランさん! あ、あの……… 先程の普通じゃないってどういう意味で………」
なんかシェランさんの話はリュトが不憫に思えそうなので、先ほどの話題に変えよう。
「ん? ああ、それはな人にも、この鉱山にも変なことが起こっているんだ」
「変なこと……… ですか?」
「ああ、まず人に関しては病気だ。鉱山の煙突から出る煙が原因というヤツが多いんだが、肺をやられる。いきなり死ぬことは無いが、咳に苦しんで働けなくなり鉱山を去る連中が多くなった」
「肺の……… 病………」
そういえば、街の人たちの中にも咳をする人は多かった。
あのビルツと言う人もそうだ。
「けど、領主……… さまは、薬師をつけて治療させてるって話じゃないか」
リュトの言葉にシェランさんは横に首を振る。
「確かにな、だけど治った奴は一人もいないんだよ。せいぜい咳を弱めるくらいだ。治らないんだよ、この病は、不治の病ってやつさ」
「それが働く人がいなくなる原因?」
その私の声に反応したのはダレフさんだった。
「そうじゃ! 山で動物が死んでおったろう、それも同じじゃ、お主ら人間は加減、程度というものを知らん!」
ダレフさんは怒っていた。
寡黙なダレフさんらしくない。
いや、たぶんドワーフとしてのダレフさんはこうなのだろう。
「ワシの仲間は伝えたはずじゃ! 考えなしに過度に山を削ると『山ケガレ』が起こると!」
「『山ケガレ』って………」
「山ケガレは、山ケガレ……… じゃ」
肩で息をしながらダレフさんは項垂れる。
「毒……… らしい」
シェランさんが静かにそう言う。
「『らしい』というのは我々が、人がまだ把握してないからなんだ。ドワーフの中では確定事項なんだ……… なんでも鉱山を削り過ぎることが原因だと」
暗い坑道を進みながら、この鉱山で起こっていることをシェランさんは話していった。




