第五十五話 坑道
暗い坑道の内部に引かれた線路。
その線路上に1匹のネズミが立ち入っており、餌を探していた。
線路の中央で何か異変を感じ取ったのか、立ち上がって延びる線路の先を見据える。
遠くで金属音が鳴ったと思えば、それはどんどん近づいてくる。
キィとひと声鳴くと、ネズミは慌てて飛び退いた。
そこをトロッコが凄い勢いで通過する。
不幸なことに、トロッコにネズミが当たるが、ネズミにとっては不幸中の幸い。
当たったのは尻尾だけで、ネズミは衝撃でクルンと回転したものの何事もなく、そのまま走って岩陰に隠れ去ってしまった。
「きゃー!!」
3人を乗せたトロッコは暗い坑道の中を火花を散らせながら、猛スピードで走っていく。
〜〜〜
「死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ〜!!」
トロッコは右に左に、車体を傾かせながら、坑道の奥の奥へと進んでいくが、それどこれじゃない。
最初のほうこそ、かがんでいれば、たまに頭をぶつけるくらいで済んでいた。
だけど今はトロッコに取り付けられている、鉄パイプにしがみついていないと振り落とされそうだ。
おまけに真っ暗で先が見えない。
壁に生えている光苔が、わずかに坑道を照らすが、トロッコに乗っているとまるで意味がない。
「ダ、ダレフさん! こ、これどこまでいくんですか?」
直線に入ったときに、私はダレフさんに聞いてみる。
「ワシもはじめてじゃ! わからんワイ」
「え〜!! ギャフッ!!」
背を伸ばして不満を口にした時に、何かが私の顔面に勢いよく当たった。
「アイタタタ! な、何が!?」
ベチンッとした音を立てたものは、さほど硬いものでは無かったが、あのスピードではやはりそれなりに痛かった。
私はのけぞり、トロッコの中で転んでしまう。
そして、何事か? と探ろうとしたとき、ダレフさんが教えてくれた。
「こいつじゃよ」
ダレフさんが指でつまみ上げたそれは、でっかいコウモリだった。
「キャアァァー!! ペッ! ペッ!」
「大丈夫じゃ。気絶しとる」
そう言いながら、トロッコの外側へポイッと投げ捨てるダレフさんだが、あんな化け物よく平気で触れるものだ。
信じられない。
そんな私をダレフさんは半ば呆れた顔で見ていた。
「お主……… 」
ダレフさんが何か私に喋ろうとしたとき、トロッコの勢いが無くなった。
いつの間にか最深部にまで到達したらしい。
そこは光苔で囲まれた、やや広い採掘場であった。
だけど、ここはもうかなり放置されているようだ。
やがてトロッコは静かに止まった。
「ちょっと待っておれ、見てくる」
ダレフさんは、立ち上がりながら言う。
ここから出られるのだろうかと思ったが、アックスを足場に器用に登り降りをする。
ダレフさんはしばらく辺りを見渡して、こちらに顔を向けた。
「ロクでも無い場所だがいいじゃろう。降りても大丈夫なようじゃ」




