第四十九話 鉱山へ
鉱山から来た集団の中から悲鳴が上がる。
慌てて視線を向けると、集団の中にいた1人の男が川の、崖に向かって走っていた。
その時、急に頭が重くなりモゾモゾと何か動く気配がする。
(精霊さん!)
隣にリュトがいるのだ。
私は慌てて頭に生えたキノコを掴む。
そしてリュトに気付かれたかどうか、顔を覗き込んだ。
その時のリュトの顔は信じられないものを見たかのような、驚愕といったものを表していた。
でも、その視線は私たちの方を向いていない。
彼の、リュトの視線は集団の方を向いていた。
リュトの瞳に炎が写る。
(え?)
私はリュトの視線を追った。
私の視界に写ったもの………
それは火だるまになりながら崖から落ちる男の人の姿だった。
「ああっ!!」
私は思わず声を上げる。
視界に私の声に反応したのか、集団を護衛していたかに見えた兵士がこちらを向く、1人は魔法を使った後だったのだろう、右手に火の粉を散らせている。
「バカ!」
リュトの言葉と同時にまたもや視界が歪む。
「逃げるぞ!」
揺れ動く視界の中で、ダレフさんの声が響く。
気付くとダレフさんが私を抱えて走っていた。
私はダレフさんから見て、後ろ向きに担がれている。
私は兵士のうち1人が腰から何かを取り出し口に当て、もう1人はそのまま追いかけてきた。
警笛鳴り響く。
私を抱えて走るダレフさんは西の街道につながる道を行こうとしたが、そこでリュトが叫ぶ。
「おっさん! そっちはダメだ! ヤツらの詰所がある!」
リュトの叫びを聞くと同時に、信じられないものを見た。
追いかけてきた兵士が弓を放ってきたのだ。
その矢がダレフさんに迫ろうかと言う時、突如として空中に水の塊、水球が現れて矢の勢いを削いで行く。
(精霊さん!)
矢は届くことなく地面に落ち、矢を放った兵士は、何やら罵声をあげている。
それを精霊さんは私の周りを飛びまわりながらじっと見つめている。
その時、私はリュトが走りながらも、驚きの表情で私を見ていることに気づいた。
もうバレても仕方がない。
私は気にせず、兵士の方に視線を向けた。
リュトの言う通り、街道へ抜ける道には関所のようなものがあり、そこから数人の兵士が飛び出して来ている。
警笛は聞こえてたらしい。
「やむを得ん! 鉱山へ行く!」
ダレフさんがそう言うと街道へと向かう道とは別の道、つまりは鉱山へと続く道へ向かう。
見れば道の両わきは林で覆われている。
身を隠せる場所は他にはない、ダレフさんとリュトは迷わず林の中へ入っていった。




