第四十話 毒牙
「領主さま、息子を、息子を返してくだされ」
野次馬の集団の中から1人の老婆が出てきて、この街の領主の甥であるビルツに言い寄っている。
「ええい、なんだこの老人は!」
ビルツの近くにいた2人のコートをまとった冒険者風の者たちが、動こうとした時にロイの声が響く。
「どうされました? ビルツさま。お困りで?」
涼しげに現れたロイにビルツは苛立ちげに答える。
「何をやっておる! 早くこの老女を捕縛せよ! コホッコホッ!」
「申し訳ありませんが、この老女は罪に問われることは何もしていない様に思われます。ただ、貴方様を領主様と間違えるあたり、非常に混乱しておいでだ。我々で保護いたしましょう」
ロイの言葉にアベルトそしてリュトら数名が動く。
ロイとビルツの両名は、静かにお互いの視線を交錯させた。
ロイはわずかに笑みを浮かべ、ビルツは無表情で、双方は静かな対峙を見せる。
だがその均衡を先に崩したのはビルツだった。
「あのグレーターベアは……… コホッ、こちらで引き取らせてもらおう」
「それはおかしな話ですな。我々は領主さまの依頼であの魔獣を得た。会得権はこちらにあるはずですが?」
ロイとビルツの両名の会話を聞いてアベルトは手が止まる。
(なんだと!?)
「ギルドマスターともあろうものが知らぬわけではあるまい、この街の状況を………コホッ」
ビルツの咳の後、ロイは眉をひそめる。
「この街の若い者達は皆、鉱山で働いておる。この街、いやこの国のために………コホッ! お前たちは何だ? 冒険者? 何のためにこの街にいる? あの魔獣、お前たちで倒したわけではあるまい。ワシが知らぬとでも思っておったか?」
アベルトはそれを聞いて驚愕した。
(バカな! ロイから討伐報酬は見込めないとは聞いた。だがこれで魔獣まで取られたら、我々は本当に無駄足ではないか!)
「それにだ、コホッ! 現領主であるアビリアムさまが就任された時に、お主はギルドマスターとして最大限に協力すると言っておったではないか? その言葉は偽りであったと言うのか? コホッコホッ!」
この言葉にアベルトは拳を握りしめ、ビルツの方へ身体を向けた。
(協力だ!? ふざけるな我々は今まで散々してきたではないか! 協力しないのは貴様らの方だ!こちらの要望に応えたことなど一度も無いではないか!)
そこでアベルトは気付いた。
ギルマスが憤っていると………
もう笑みは浮かべていない、その姿を見るだけで異常なまでの重圧を感じる。
「これは手厳しいですな………」
声を抑えロイはゆっくりと言う。
「されどあの様な魔獣が出現していながら、犠牲者の1人も出ていないのは僥倖かと存じます。これもひとえにグレーターベアが現れた事を事前に伝えた……」
ロイの言葉の途中で、ビルツは表情を変えることなく口から毒の牙を吐き出した。
「そのドワーフを捕縛せよ」
伏線はっても、回収する事ができるかサッパリわからない状況です。w




