第三十四話 トロンの街のギルドマスター
「この娘の器、底が見えん」
ドワーフは私を見据えそう言った。
私は外の世界の人と何か違うのだろうか?
女魔法使いはまるで化け物を見るかのような視線を私に投げる。
段々と不安が押し寄せて来る。
「ハンッ! 俺にはそうは見えねぇけどなぁ」
その時、リュトの言葉が飛んだ。
「俺にはわからねぇな。そこいらの奴らと何らかわらねぇ」
ドワーフへの反発から言葉は乱暴だけど、リュトの発する言葉はなぜか沁みる………
(リュト………)
「俺からしたら底なしなのは、コイツの胃袋ぐらいだ。でっけーザクロの実をペロリと平らげちまったからな」
(あとで文句を……… いいや、ぶん殴ってやろう)
だけどリュトが言った事以上に、ロイという人はとんでもない事を言った。
「ん? リュト、この娘に惚れちまったか?」
「な! なんでそうなるんだよ!」
赤い顔をしてこちらを見ないで欲しい、恥ずかしくなってしまう。
この時、少し空気が変わった感じがしたが、あの女の人は鋭い目を向けたままだった。
しばらくして、その女の人はロイと呼ばれる男の人に言う。
「それでギルマス。この娘の正体はなんだい。アンタの事だ目星がついているんだろ」
すると男の人は私に近づき、私に向かって言った。
「『深淵の森』の者だね?」
一瞬呼吸が止まる。
私は何も喋らない、何も言えない。
「実在するの?」
黙る私を前に女魔法使いは、男の人に目を見開き質問した。
「どうだろうね。東の隣の村に残る古い伝承に、その痕跡はあるんだけどね」
まずい、私の事だけでなく、村の事が知られるかも知れない。
どうする、相手を怯ませるような方法は?
魔法は無理だ。
リュトの時と同じになるだろう。
相手の隙を探るにしても、4人は無理だ。
何も行えず、動けない。
リュトが口を開く。
「メテルが深淵の森の者として、そうだとしたらどうなるんだ?」
「どうもしないさ、今のところはね。しかし、今後非常に具合悪い存在になる可能性が高い」
「なんでだ?」
「グレーターベアの件さ。リュト、あらためて言うがこの娘にあの魔獣が倒せると思うかい?」
リュトは顔を女魔法使いの方に向けた。
女魔法使いは肩をすくめて首を横に振る。
当たり前だ、私にそんなこと出来るはずがない。
「そりゃあ、やっぱり無理だろ」
「一応理由を聞いても良いかいリュト?」
「結局のところ魔力自体は多くないんだろ? その器とか何かが大きいとしても、倒す事は出来ないんじゃないか?」
「その通り、ではあのグレーターベアはいったい誰に倒された?」
その質問に私はドキリとする。
この人は狼のような人だ。
狡猾で思慮深い………
「猟師かなんか、近くにいたんじゃないか?」
「それはないな、そのような痕跡は現場を見てもまるでなかった。それに外傷は古い傷のものばかりだ」
怖い、この人の言動が身体に絡みつく………
少しずつ私を守るものが、剥がされていく感覚さえ覚えはじめてきた。
その男の人が私の前に立つ。
「教えてくれるかな? 君の協力者を」
男の人は笑ってそう言った。
その笑みが怖い。
この男がトロンの街のギルドマスター。
身体の震えが止まらない、だけど絶対に精霊さんのことは言えない。
その時、パサリと小さな音を残し、キノコの形をした髪留めが床に落ちた。
次話、ついにキノコ登場!




