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第二十八話 疲れた1日

「ふぅ〜」


 私はようやく念願のベッドに腰掛けることが出来た。

 本当にそう思う。

 今朝、村を出てからこの街に着くまでに、生命(いのち)がいくつか無くなるような思いをしたせいで、かなり疲れてしまった。


 うつむき加減でいたら、前髪の乱れがちょっと気になって髪を触ろうとした時に、髪留めに変わっている精霊さんのことが気になった。

 

「精霊さん?」


 キノコの精霊さんはグレーターベアの件を最後に、髪留めから戻っていない。

 多分精霊さんも疲れているのだろう。

 ふと窓の方を見ると薄暗くなっていた。

 外が暗いせいで窓ガラスは鏡みたいにうっすらと私を写し出す。

 髪留めとなっている精霊さまを見ていたら、キラリと光るものがあった。

 フェンリルの体毛だ。


「フェンリル………」


 それは伝説の魔獣。

 不老不死で神出鬼没、何者にも捕らわれず、倒すことのできない、狼の姿を模した神をも倒す存在とされている。

 あれは……… あの存在感は間違いなかった。

 思い出すだけで寒気がする。

 その存在感だけで私という存在は踏み潰されそうだった。

 だけど………


「そのおかげでグレーターベアには大丈夫だったのかな………」


 思えばあのグレーターベアも異常だった。

 巨大すぎる体躯と魔を宿したその存在は、間違いなく私を粉砕するものだったであろう、だが思い出してもあまり恐怖を感じさせない。

 いや、確かに鉢合わせした時は怖かったのだが、絶望の感じはしなかった。

 フェンリルと比べると………


 その時、扉からノックされる音がした。


「お湯を〜 お持ちしました〜」


 ここの宿屋の女将さんだろう。

 宿屋に着いた時に軽く挨拶はしたが、だいぶん年配のお婆ちゃんだった。


「はい、開いてますよ」


 私は扉に向かってそう言った。

 言ったのだが………


「お湯を〜 お持ちしました〜」


 扉の向こう側から同じ声が聞こえる。

 耳が遠いお婆ちゃんのようだ。

 やれやれ億劫(おっくう)だけどお湯は欲しい、扉まで取りに行こう。


「はーい………!?」


 返事をしながら扉を開けたのだが、そこには誰もいない。

 薄暗い廊下が続いているだけだ。


(アレ?)


 辺りを伺うが、扉の裏にも居ない。

 

(聞き違いかなぁ?)


 その時、部屋の窓からガタガタとかなり大きな音がした。

 ハッと振り向き窓の方を見るが、その時は音は収まり何事も無かったように見える。

 太陽が地に隠れて外は暗くなっているが、ぼんやりとお墓の並びがシルエットで窓ガラス越しに見える。

 その窓ガラスに妖しげな老婆の顔が浮かぶ。


「もし………」


 その直後に私の背後と言うより首筋から不気味な声が響いた。


「ひっ!!」

 

 後ずさりながら振り向くと、そこには女将さんがお湯を持って、いつの間にか立っていた。


「客は少ないですけど〜 お嬢さん、扉は鍵かカンヌキをかけて〜 くだせぇ〜」


 女将さんは歯の抜けた口をニンマリと開けそう言った。

 私はコクコクと首を縦に振ることしか出来なかった。

 心臓を掴まされた気分だった。

 ちょっと……… ちびったかもしれない………


「この宿は蛇と鼠がよく出ます〜。たまに墓地にグールが徘徊することが〜 ありますけど〜 大丈夫ですので〜」


 そう言ってまたニンマリと不気味に笑う。

 すいません女将さん、あなたの方がグールよりよっぽど怖いです。

 

「それでは〜 ごゆっくり〜」


 そう言って女将さんは部屋から出て行くと、暗がりの中へスウッと消えていった。

 私は急いで扉を閉め、カンヌキをかけた後、カーテンで窓を覆った。

 

 あれが噂に聞く隠密のスキルだろうか? 

 それともやはりここの女将さんは人外の何かだろうか?


 そんな事を思っていたけど、床に置かれたお湯の入った手桶に気がつくと、ある想いが湧き上がってくる。

 早く休みたい………

 私は手桶の前に座ると上着を脱ぎ始める。


(身体を拭いて、はやく休もう)


 お湯に浸した手拭いを首筋に当てる。

 その温かさにホッと安堵のため息が出てしまったが、本当に今日は疲れた。

 髪もすすぎたいが、もう目を(つむ)ると眠ってしまいそうだ。


 私はもう一度手拭いを手桶のお湯に浸す。

 その時、ドタドタと人が駆け上がってくるような足音が突然響いた。

 そしてそれはこの部屋の扉の前で止まると、つい最近と言うか今日知った声が大きく響いた。


「腹ペコ魔法使いいるか!? 入るぞ!」


 リュトだ!?

 声のした方を慌てて見ると、カンヌキが完全にハマっていない、外れかかっている。

 扉のきしむ音がすると、開く様子がスローモーションで流れる。

 リュトの前髪がわずかに見えた時、右手が動く。


「聞きたいことが………」


 何か言ったような気もするが、そんなの知らない。

 バシャともバキッともつかない音とともに侵入者は部屋の外に倒れ込んだ。

 吹っ飛んだと言ってもいい。

 お湯の入った手桶は見事なほどに侵入者の顔面を(とら)え直撃したのだ。


 そして、扉の奥にリュト以外の人がいることに、私はようやく気付いたのだった。


暇を潰せる物語を目指す!!

文法とかストーリーのつじつまとかどーでもいいや。

二の次!二の次!!

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