第二十四話 トロンの街とドワーフ
ダレフが向かうギルドの支部から2人の人影が出てくる。
いずれも、地味なコートを2人とも羽織っていた。
まだ夏が過ぎたばかりで気温も高いのに、そのような格好であるのは理由があるからだろう。
顔を隠すとか………
その2人組がダレフの横を通る。
すれ違いざまに1人がダレフに顔をチラリと向けるが、ダレフは顔どころか目を向けることさえ無い。
2人組みは路地へと消え、そしてダレフはギルドの中に入っていく。
「ダレフさん、お帰りなさいませ」
ダレフに声がかかる。
声の主はこのギルドの受付や秘書のような仕事を行なっている女性、サーシャだった。
ダレフは気にも止めず、足を進めた。
「マスターは不在です。しばらくお待ちください」
サーシャは柔らかな笑顔を浮かべながらそう言った。
聞き入れたのか、ダレフは身体の向きを変えると近くの椅子にドカリと座る。
「お茶をお持ちしますね」
サーシャはそう言うと、その場から離れていった。
その場にいる冒険者たちが、遠巻きにダレフに視線を送る。
その視線はどれも排他的なものだ。
それをダレフは静かに受け止めていた。
彼らがそのような視線を送る理由。
それをダレフは知っているからだ。
この街トロンは隣接する鉱山で潤っていた。
いや、今でも十分に潤っているのだが、以前は今の比ではなかった。
3本の煙突全てが煙を吐き出し、取れる銅や錫を領地外に輸出する事で、莫大な利益を領地にもたらしていた。
鉱山夫が多く働き、街の酒場は毎晩が賑やかな喧騒に包まれ、そこに混じってこの街に多くのドワーフの姿があった。
この街に住む人々はドワーフと共に生活をしていた。
それがある日を境にドワーフの姿がパッタリと見えなくなったのだ。
採掘から加工までと鉱物資源を取り扱うものにとって、ドワーフの存在は大きい。
たちまち生産性において問題が発生する。
また領主が生産性の向上をうたい、採掘量を増やす計画を王都へ報告した矢先のことだったのが問題をさらに大きくした。
決して領主が無能というわけでは無い。
そこまで無茶な計画というわけではなかったのだ。
ドワーフがいての話ではあるが。
だが王都に計画を流した以上、実行しなければ領主の首が飛ぶ。
残った街の人々はドワーフの抜けた穴を埋めるべく、昼夜を問わず働くこととなり。
結果、事故が急増し、時期を同じくして原因不明の病気が発生した事でケガ人、病人共に死者が増大したのだ。
それが7年ほど前の話で今に至る。
現在は事故と病気により働き手が減り、街の生産性を持続させるのは困難である事がようやく王家に理解されるものの、全くの元に戻す事は難色を示している。
領主は首が飛ぶことからは逃れ、街の住民の生活はほとんど変わらないままとなっているのが、今のタロンの姿だった。
故に、いま街の住民のほとんどがドワーフを憎しみの対象としていた。
なぜ、この街を去ったのか!?
仲間ではなかったのか!
これがリュトを含む、この街の人々が持つドワーフに対する感情だ。
それはもう裏切られた者の気持ちと言っていい。
「お茶をお持ちしました」
突然にサーシャが笑顔で現れ、香りの良いお茶を持ってきた。
そして笑顔のまま会釈して席を離れようとしたとき、それまで一言も言葉を発しなかったダレフが口を開いた。
「ワシにあまり関わるべきではない」
まさか声をかけてくれるとは、思いもよらなかったサーシャは驚いた表情で振り向くが、そこには先程と全く同じ憮然とした表情のダレフだった。
だがサーシャはまた笑顔を浮かべるとダレフに向かって言う。
「マスターのご友人に失礼は出来ません」
ダレフはサーシャに顔を向けることなく、ただ静かに目を瞑った。
右手は回復中ですがまだまだです。
左手の打ち込みは疲れますなぁ、iPhoneだし。
まぁ、リハビリの一環として投稿してます。
打ち込みミスは軽く見逃してください。




