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『旅の目的』

 魔王城。

 西の塔にある客室にて。

 ふかふかのベッドに腰掛けながら、ヒカリとミレイアは2人だけで話していた。

 2人だけの時間が必要であると判断したシルヴェリアは、ヒカリとミレイアが自分の意思で扉を開けるまでは何者であれ例外なく一切の接近を禁じている。


「世界を守るために大昔から村がやってきたことが、まさかの無意味だったなんてね」


 弱々しい呟きと共に、ヒカリの肩にそっと頭を預けるミレイア。

 服越しに伝わってくるミレイアの体温。

 家族以外とほとんど話したことのないヒカリは、大切な友達が落ち込んでいる時に取るべき行動が分からない。

 大丈夫とか、気にしなくていいとか、軽々しく口にしていいのか。

 恋愛ドラマのように、優しく抱きしめてあげるべきなのか。


「……ごめんね」


 ヒカリの口から洩れたのは、謝罪だった。

 全ての元凶は終焉竜エンドラシア。

 終焉竜エンドラシアさえ存在していなければ、ミレイアの村が終焉ノ島に生贄を送り続けることもなかった。

 転生前の出来事など、ヒカリには関係ない。

 しかし、終焉竜エンドラシアとして生きる以上、無関係というわけにはいかない。


「どうして謝るの?」

「私さえいなかったら、こんなことにならなかったから……」

「私さえいなければ……なんて、そんな悲しいこと言わないでよ。悪いのは私の村なんだからヒカリは悪くない。ほんと、誰が何のために――」

「……」


 誰が何のために、終焉竜エンドラシアの封印を維持するためには赤と青の目を持った生贄が必要だという悪意に満ち溢れたウソを吹き込んだのか。

 赤と青のオッドアイが関係していることは確実であり、その者にとって不都合なことがあるのだろう。

 非人道的行為に利用されたことに怒りを覚えたのは、ヒカリかエンドラシアかどちらの感情であるのか。

 どちらにせよ、許すわけにはいかない。


「何人死んじゃったんだろ。大昔からっていうから相当な数だよね。10歳の子供が意味もなく。どんな目に遭ったんだろうね。モンスターに殺されるのならまだいいよ。苦しみは一瞬だから。生きたまま喰われたり泳いで逃げようとして溺れ死んだりとか、そんな子もいたんじゃないかなぁ。想像するだけで吐き気がするよね」

「……」


 世界を守るためという理由があるのなら幾分かマシだろう。

 しかし、その死が無意味となれば報われない。


「……決めた」


 ヒカリの肩から、ミレイアの体重が消える。


「ミレイア?」

「ヒカリ、人間界に行ったら冒険者カードを取ろう」


 ミレイアの提案は、冒険者カードの取得。

 冒険者カードが無くても魔法は使用できるが、人間界で過ごすなら持っていると持っていないとでは生活のしやすさに天と地ほどの差がある。

 冒険者カードは身分証明書になるだけでなく、冒険者ギルドから仕事を請け負ったり多くの設備が無料で利用できたりといった優遇制度が受けられる。

 死亡扱いされているミレイアとそもそも身分を持たないヒカリにとっては喉から手が出るほど欲しいものだろう。


「冒険者カードを取って、仕事を受けて人脈を広げて情報を集めたい。人間界で過ごすためにはお金も必要だし」


 冒険者カードを取ることで人脈が広がる。

 人脈が広がるということは、ヒカリの友達100人計画の大きな助けにもなる。

 ヒカリに断る理由は無い。


「うん、冒険者カードを取ろう」

「ヒカリならそう言ってくれると信じてた!! よし、次の目的が決まったね!! 魔界を出たら人間界で冒険者カードを取る!! これで決まり!!」


 ヒカリと目的が一致したことにより、ミレイアの顔にいつもの笑顔が戻ってくる。

 ミレイアは立ち上がると、思いっきり背伸びをする。


「シ、シルヴェリアさんたちが心配してる、から……客室の扉を開けて、元気な姿を見せてあげないと、ね……」

「そうだね。気持ちを整理する時間と場所をもらったし、きちんとお礼を言わないといけないね。ヒカリもごめんね。付き合わせちゃって」

「ううん、気にしない、で。私とミ、ミレイアは友達なんだから……」

「ありがとう」


 白い歯を見せ、にししっと笑うミレイア。


「シ、シルヴェリアさんが美味しいご飯を用意してるって言ってたから食堂に行こう。終焉ノ島を出てからミレイア何も食べてないよね」

「うん、実はお腹ペコペコだったんだよね。少し気になったんだけど、ヒカリはお腹とか空いたりするの?」

「お腹は空かないけど、美味しい物を食べたいなって気持ちはあるよ」

「あはは、ヒカリってほんと人間みたい。記憶を失う前のヒカリはどうして世界を滅ぼそうとしたんだろう」

「なんでだろうね……」


 けらけらと笑うミレイアと、私が知りたいとは口には出せず苦笑を浮かべることしかできないヒカリだった。

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