『得意だからで済む問題ではありません』
「最後は物理攻撃耐性のテストだが……」
「魔王様、これってやる必要あります? 結果がもう目に見えているのですが?」
「言うな、アルラ」
アルラの意見に対し、真顔で言い返すシルヴェリア。
「きっと、振るった剣が折れたり拳が砕けるやつですよ。そもそも触れたら生命力を吸い取られるんですよね」
「あぁ……」
「ドラゴン形態では、魔王様のラ=フェンデュカでも斬れなかったんですよね。無理じゃないですか」
「あぁ……」
「ルフィンとレヴィアは無気力状態。後はもう私とミュエルだけじゃないですか」
「あぁ……」
「魔王様、聞いています?」
「あぁ……」
「私の給料5倍にしてくれます?」
「ダメだ」
「ぐぬ……」
どさくさに紛れて言質を取ろうとしたが、失敗してしまったアルラ。
「仕方ありません。力試しと行きましょうか――」
「みゅえるがやる」
圧倒的な力の差にシルヴェリアとアルラがやる気を失っていた時、今まで傍観していたミュエルが立候補した。
「おっ、やるか?」
「みゅえるにまかせて」
腕まくりして、ふんすっと鼻息荒くするミュエル。
ミュエルの力は人間の少女と変わらないくらいで、剣も重くて振るえないほどである。
「ミュエル、手袋だ」
「うん」
シルヴェリアから手袋をもらい、ミュエルはやる気満々の様子でヒカリに近づいていく。
「ひかり、しょうぶ」
「う、うん……」
人間化したヒカリの容姿は高校1年生程度。
ミュエルは小学6年生程度。
ヒカリからしても無害な子供にしか見えず、正直なところ少し舐めていた。
「じゃあ、いく」
「いい、よ」
「ちょうすーぱーふぁいなるみゅえるぱんち!!」
ぐるんぐるんと腕を回し、ヒカリと変わらないほどのひょろひょろパンチを繰り出すミュエル。
ダメージどころか衝撃すら入らないだろうと、この場にいる全員が思っていた。
――しかし。
ぺちんという頼りない音が響き渡ると同時、ヒカリの口からも声が洩れる。
「いたっ」
「「「「「「……え?」」」」」」
予想外の結果に、ミュエルとヒカリを除いた全員がポカンと口を開ける。
「ヒ、ヒカリ? ミュエルに気を遣わなくてもいいんだよ?」
「肩が赤くなっちゃった」
「ほんとだ……」
ミレイアが急いで確認すると、ミュエルのパンチをくらったヒカリの肩がほんのりと赤くなっていた。
「「「「「「えええええええええっ!?」」」」」」
「ふっふーん、みゅえるさいきょう!!」
驚愕の声が響き渡る中、ドヤ顔を浮かべるミュエル。
突如浮上したミュエル最強説。
「まて、どういうことだ」
「みゅえるがさいきょうなだけ」
「いやいや、そんなわけがないだろう。ミュエル、ワタシの腕を思いっきり殴ってみろ」
「まおうさま、しんでもしらないよ」
ミュエルは拳に息を吹きかけると、シルヴェリアの肩に一撃を振るう。
しかし、シルヴェリアに一切のダメージは無く。
「痛く、ないな」
「ふっふっふ、まおうさまがしんだらいけないからてかげんした。きょうはこのくらいにしておいてあげる」
捨て台詞を吐き、ミュエルは満足そうに去っていった。
ミュエルは決して手加減などしておらず、全身全霊を込めた一撃だった。
「……まさか、人間化したヒカリは……物理攻撃耐性、皆無……?」
「そんなはずはあるまい」
「ひっ、ままままって、シ、シルヴェヴェヴェヴェリアさんにパンチされたら私死んじゃう……!!」
「大丈夫、デコピンだ」
「ひゃっ」
手袋を付けたシルヴェリアは、かなり手加減したデコピンにてヒカリのおでこに攻撃を仕掛けてみる。
ぱちーんと響く甲高い音。
「ちょっ、魔王もう少し手加減!!」
「……折れた」
「えっ?」
「ワタシの指が折れた」
「えっ?」
「ひぎいっ!! 乱暴に触るな!!」
ミレイアに手を掴まれ、悲鳴を上げるシルヴェリア。
「うわ、これはひどい……」
シルヴェリアの中指が明らかに変な方向へと曲がっている。
第二関節の辺りで本来真っすぐであるべき指が「く」の字に折れ曲がり、関節部分が不自然に腫れ上がっていた。
「どういうことだ……これはアレか? ミュエルには終焉竜エンドラシアに対する完全特攻があるというのか……?」
「それは有り得ないかと」
「言ってみただけだ……誰か、誰か回復魔導士を呼んできてくれ……痛くて泣きそうだ」
「あっ、私使える」
ミレイアが触れた瞬間、シルヴェリアの指が一瞬で元通りになった。
「なっ」
「驚くこと?」
シルヴェリアから理解不能といった表情で見つめられ、首を傾げるミレイア。
「ワタシは魔族だぞ……? どうして人間の貴様が傷を治せる……?」
「得意だから?」
「得意だからで済む問題ではない。人間の回復魔法では魔族の傷は治せない。これは絶対だ。拒絶反応を起こして貴様がダメージを負うはずなんだ。死の瘴気に触れても死なず魔族の傷も一瞬で完治させる。貴様は一体何者だ」
「わかんない」
「わかんない、だと?」
「ファナル村ってところに生まれて、赤と青の目をしているからってだけで終焉竜エンドラシア封印維持のために終焉ノ島へ10歳の誕生日に生贄として無理矢理送り込まれた普通の女の子だよ」
「封印維持のための生贄……?」
ミレイアの「生贄」という発言にピクリと反応するシルヴェリア。
「封印を維持させるためには10年に1回の周期で生贄を捧げないといけないんだよね? 私がしつこく生き残っていたからヒカリの封印が解けたわけだし」
「……」
「いきなり黙ってどうしたの?」
「ミレイア、大変言いにくいことなんだが……終焉竜エンドラシアの封印に生贄など必要ない」
「……えっ」
シルヴェリアの発言を聞いて、ミレイアから表情が消える。
「終焉竜エンドラシアの封印は各種族の代表が全滅しないかぎり解けることはない。もしくは我々を超える力を持つ者が壊すか、だな」
「……と、いうことは?」
「貴様の村は何者かに騙されていたということになる」
シルヴェリアは一切誤魔化すことはなく、真実をズバッと言い切った。
「……ははっ、そっかぁ」
「各界の代表と共に終焉ノ島にて封印を施したワタシが言うのだから――」
「間違いないんだろうね」
乾いた笑みを浮かべるミレイアを、シルヴェリアは憐れみの目で見ることしかできなかった。




