~第三幕~ 「早乙女 大好の章」其の参
「この難問で、必ず殺してやるぞおおおおおおおおおおおおおお!!」
──フー!フー!!
二択鬼は、息荒げに顔を俺に近付けてくる。
「"おぱーい"と"おしり"どっちが好き?」
「…………。」
……は?
こいつは一体何を言っているんだ?……馬鹿か?馬鹿なのか?
「……ねえねえ、どっちが好き?ねえねえ。」
……わくわく、そわそわ。
何やら、この上無く楽しそうな二択鬼〈ギルティ〉。
……何だか知らんが、もう少しまともな問題を出せよなぁ。てか、今その問題出すか?普通。……あれだけ怒っといて、何だよその問題。怒っている時に出す問題じゃないだろ?
「……はぁ。」
俺はため息を吐き、がっくりと肩を落とす。
……だが。
だが、しかし──。
「お前の敗因は、この俺を舐め過ぎた事だ。あまり俺を舐めるなよ?そんな問題など、俺の前で百パーセントなんだよ!!」
──ゴゴゴゴゴゴ。
俺は眼鏡をくいっと上げ、奴を睨み付けた。
俺を!一流の紳士の、この俺を舐めるなよ!!
俺は今まで以上のポーズを決め、心の底から叫んだ。
──答えは!
「……おしりだ!」
俺は叫んだ。
「おピ─────────、ピ────────が、ピ───────────で。ピ───────────────だから。ピ────────で最高で至高なのだ!!!」
俺は叫んだ、心の底から愛を叫んだ。例え今日死ぬとしても、後悔など一つも無い。俺は、間違ってはいない!!俺は最善を尽くしたのだ!!
二択鬼〈ギルティ〉よ、俺を殺せる物ならやってみろ!!
……今この俺は例え殺されようとも、只では死なん!!
「…………。」
「…………。」
長い、長い虚無と呼べる時間が過ぎ、二択鬼はぷるぷると小刻みに震えながら拳を振り上げた。
──ガッ!!
俺と二択鬼〈ギルティ〉は、熱く握手を交わした。
「…………。」
「…………。」
……無言で、こくりと頷く二人。二人の間には、最早言葉など必要無かった。
二択鬼の熱い眼差しが、全て物語っていた。
今この時、この世界で……。いや、この広い宇宙の中で。
──二人だけが、尊い存在であった。
二択鬼とは、敵なのかも知れない。殺し会う運命にあるのかも知れない。……だが、この瞬間だけは真の友であるのだ。俺は二人の間に、確かな友情が芽生えた事を感じていた。
くるりと振り返り、二択鬼は去って行く。……無言だった。だが、その背中は熱く物語っていた。
……次会う時は、敵同士なのだと。真の友であっても、殺し会わなくてはならない運命なのだ。……俺達は、哀しい宿命を背負った同志なのだから。
──そう、ここは戦場なのだ。
俺は眼鏡をくいっと上げ、その勝利を喜んだ。……そして俺は戦いが終わり、生き残った事に安堵する俺。
「……はぁ、はぁ。」
「俺は、おしり好きだから耐えれた。俺がおぱーい好きなら、きっと耐えられなかった。」
俺は叫んだ、心の中から生き残った事を喜んだ!!
「うおおおおおおおおおお!!ピ───────────が、ピ───────────で、ピ─────────で最高だったぜ!!やっぱりおしりは最高だぜー!!」
俺は全力で叫び、華麗にポーズを決めた。
「…………。」
「…………。」
……俺は、ふと視線を感じ振り向く。
「…………。」
「……いや、違うんだ。これには深い訳があってだな、君達。」
そこには、クラスの女子全員が集まっていた。
「……心配して来てみれば。」
「男って、サイテー。」
「まあ、楽しそうですこと……。」
「……いや、違うんだ。聞いてくれよ、頼むよ。」
クラスの女子達は、まるでゴミでも見るかの様に冷ややかな視線で俺を見ていた。
……特にあれだ、クラスの高嶺の花である高嶺さんなんてもう。
まるで汚物でも見るかの様に、穢らわしい瞳で俺を見ていた。
「……そんな目で見ないでくれ。俺を、そんな目で見るなー!!うわああああああああああ!!」
……俺は体育館の隅っこで真っ白になり、膝を抱えてガタガタと震えていた。
「……俺は、悪くない。俺は、何も間違っては無い。俺は、生き残ったんだ……。」
──ガタガタガタ。
あれから暫くクラスの女子達は、一言も口を聞いてはくれなかった。
……俺は、社会的に死んだのだ。
仁科択一、一問正解。
猛虎大河、一問正解。
早乙女大好、一問正解。〈社会的に死亡。〉




