~第三幕~ 「早乙女 大好の章」其の弍
「……待て。」
──ゴゴゴゴゴゴ!!
──!?
背後から、二択鬼〈ギルティ〉の唸る様な声が響く。
……俺は何事かと、焦りながら振り向いた。
「どうした?まだ、足りないのか?」
……おかしい。二択鬼の様子が何か妙だ。
「…………。」
──ゴゴゴゴゴゴ!!
二択鬼はゆらゆらと揺れ動きながら、怒りを込めて呟いた。
「……チガウ。」
「……は?」
「コレハ、偽札ダ。……騙シタナ、貴様ァ!!」
二択鬼は怒りに震え、憎しみの籠った表情で俺の事を睨み付ける。
「そんな筈は無い!良く見ろ、きちんと透かしも有るだろ!!」
俺は狼狽えながら透かしを確認し、お札を奴に突き付ける。
「コレ違ウ、コレ偽物!オ前、僕ダマシタ。絶対ニ……、許サナイ!!」
「良く見ろ!本物のお札だ!!一体何処が違うんだ!言ってみろ!!」
──二択鬼〈ギルティ〉は怒りを露にして、こう言った。
「諭吉さんじゃなーい!誰だよ、このおっさん!!」
「渋沢栄一だよ!お前、渋沢栄一も知らないのか!?」
「誰だよ、そいつは!!日本のお札は、聖徳太子か福沢諭吉に決まっているだろーが!!本当に日本人か、貴様ぁー!?」
「日本人だよ!!ざけんなっ!渋沢栄一知らない方が、おかしいだろ!!去年から一万円札のデザイン変わっただろーが!!知らないのか!?てか、お前こそ何人だよー!!」
「ぎゃーす!!」
「ギャース!!」
俺達二人は、叫び続けた。……駄目だ、全く話が通じていない。
てか、そもそもこいつは日本人ですらない妖怪だ。……新一万円札知らないなんて、時空でも歪んでいるのか?
──ゴゴゴゴゴゴ!!
「もう、許さない。……お前を殺してやる。絶対に解く事が出来ない、滅茶苦茶難しい二択を出してやる……。ううう。」
……くっ、これは無理そうだな。交渉決裂の様だ。何で新一万円札の存在を知らないんだよ。おかしいだろ……。
てか、難しい二択って何だよ。目瞑ってても五十パーセントで当たるだろーが。
「許さねー!!うおおおおおおおおおおー!!」
二択鬼は怒りの形相で俺を睨み付け、死の二択を俺に突き付ける。
二択鬼の怒りに俺は震え、戦慄した。……非常に不味い状況だ。怒りに我を忘れた二択鬼は、一体どんな無慈悲な二択を俺に出題すると言うのだろうか?
「はぁ……、はぁ……。」
「この問題で、貴様を必ず殺してやる!……地獄に送ってやるぞぉぉぉ!!」
俺は、覚悟を決める事にした。
仁科択一、一問正解。
猛虎大河、一問正解。




