~第一幕~ 「仁科 択一の章」 其の壱
……俺の名前は仁科択一、高校二年生だ。
俺達二組の生徒は授業が終わり、教室から先生が立ち去った直後。
──この事件は起こった。
俺達二組の生徒五十名は、全員この謎の学校に閉じ込められる事となる。……恐らく脱出する事は不可能だろう。
一応確認はしたのだが、校門の外は崖だった。下は真っ暗闇で、何も見えなかった。ロープがあれば降りる事は出来るのかも知れないが、その様な考えが過らない程危険に思えた。
俺達五十人は、気が付いた時は何故か体育館に居た。そして、けたたましいアナウンスと共に体育館のスクリーンに"奴"が映し出される。
──二択鬼〈ギルティ〉が。
『皆さん、ごきげんよう。……そう僕だ。ギルティだ。君達がここを無事に脱出するには、この僕が出題する簡単なクイズを十問正解するだけでいい。……何、簡単な問題だ。しかも二択で五十パーセント正解出来る、とても簡単な問題だ。……まあ、外せば死ぬけどね。体育館から出れば、運が良ければ僕に会う事が出来るかも知れないよ?……それじゃ皆、頑張ってね。』
──プツン。
「なっ……。」
「ふざけんじゃねぇ!!」
「イヤァァァ!お家に帰りたい!!」
「……これ、何かの悪い冗談よね?」
「……ははは。」
……体育館は、阿鼻叫喚の渦と化した。
「…………。」
二択を十回だと!?馬鹿げている。二択を連続で十回正解する確率なんて、千分の一だぞ!?
0.1%だ!生き残れる確率では無い!!……それは考えるだけで、絶望的な確率だった。俺も悪い夢だと、思いたかった。
体育館から出ると危険との事だが、生徒達の大半は体育館から出て外を確認しに行った。
……先程言った通り、外に出る事は出来ない。
俺達は全員、この別次元の学校に閉じ込めらる形となった。
外を確認した後、俺はふとトイレに立ち寄る。
しかし、大変な事になった。……いや俺は心の何処かでは、まだ他人事だったのかも知れない。
──用を済ませ振り返ると、そこに"奴"は居た。
二択の鬼"ギルティ"が──。
「ギルティー。」
奴は、はぁはぁと息荒げに俺に近付き、俺の顔を凝視していた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……俺は恐怖で動けなかった。奴は全身白タイツの様な物で覆われ、顔にはまるで落書きの様に大きな目玉が描いてある。……そして奴の手には血が滴り落ちる、真っ赤な斧を構えていた。
……二択鬼〈ギルティ〉に、俺は会ってしまったのだ。俺はトイレに入った事を、こんなに後悔した事は無いだろう。
俺は動く事が出来なかった。……しかし、何故か"二択鬼"も動かなかった。
「…………。」
「……?」
……なんだ?どうして、動かない?もしかして、今なら逃げられるんじゃないか??
……そう考えていると奴は何やら、ぼそりと呟き始めた。
「お前、手を洗わないのか?トイレに入ったら、きちんと手を洗うんだぞ。」
……にっこり。
「…………。」
──!?
──じゃばじゃば。
……俺は手を洗った。こいつは俺が手を洗うのを、待ってくれていたのか?……意外と律儀な奴なのかも知れない。
「ふぅ、じゃあ俺はここで……。」
俺は、そう言って逃げようと考えた。
「……待て!」
残念ながら、逃げる事は出来ない様だ。奴はすぐに詰め寄り俺を睨み付けながら、こう話す。
「出ていけ!すぐにここを立ち去らなければ、命は無い!!」
──キリッ!
「…………。」
「…………。」
……俺は思った。
「お前が、連れて来たんだろーが!!今すぐ出て行ってやるから、出口出せや!!この変態全身タイツ野郎がっ!!」
──ドガッ!!
その時、突如クラスの仲間達が俺を助けに来てくれたのだ。クラスの仲間達は金属バットを手に、力いっぱい二択鬼を殴り付ける。
──ドガッ!バキッ!ドゴォ!!
「はぁはぁ……。」
ひたすら殴り付ける、クラスの仲間達。
──だが、それでも"奴"が倒れる事は無かった。
「……この、化け物がっ。」
奴は平然と手を上げ、そして俺達を睨み付けながらこう言った。
「……い、痛てぇよ。」
……は?
「……痛ぇよ。死なないからと言って、痛くない訳じゃないんだよぉ。どうしてバイトなのに、こんな酷い目に会わなくちゃならないんだよ……。」
こいつ、バイトなんだ。……大変だな。
「これで、時給780円だぜ?割に合わねぇよ……。」
……リアルな数字だな、おい。
──くるり。
「……では、ここで問題です。」
……その言葉に、俺は背筋が凍り付く。奴は俺を睨み付け、無慈悲な二択を突き付けてきたのだ。
──決して逃れられない、死の二択を。




