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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第三章 地獄の鬼たちと新たな希望
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第13話 スタンピード配信


 グランドダンジョン『鬼皇の死都』にてスタンピードが発生して暫く時間が経つが……


 未だネット界隈には、詳細な情報は明かされず、ネット民たちはモヤモヤした気分を抱えながら状況の推移を見守っていた。

 一応、召集された末端の冒険者や、偶然にも避難区域内に住居を構えていた配信者などから、様々な情報は伝えられてはいたが、どれも核心的な情報からは程遠く、最前線では現在どうなっているか?などの肝心な状況が全く掴めずにいたのだ。


 しかし、ここに来てネット民たちを震撼させるような情報がもたらされた。


 何と、配信チャンネルでは現在世界有数となっている『紅蓮の魔女と神速の配信者』に、唐突にとある最新の配信予告が入ったのだ。


 そのタイトルは……



 『スタンピードの最前線へ突入してみた』



 現在、国内で冒険者としては最前線を突き進んでいるといっても過言ではない、この二人のコンビによる配信チャンネル。

 その二人によるまさかのスタンピードの最前線突入の配信予告。


 これには、国内、いや世界中のネット民が一斉に議論を開始するほどのインパクトを受けたのだった。


 〈いや、さすがアイリーンさんと『神速』さんでしょw〉

 〈まさか、こんなことになるなんて……二人のファンで良かった……〉


 というような、二人を大絶賛する内容が某掲示板に投稿されれば……


 〈さすがに嘘だろwだって二人とも今は沖縄だろw〉

 〈ていうか、さすがに出しゃばりすぎだろw何でもかんでもあの二人だと萎えるわw〉


 なんていう、真っ向から二人を批判する内容も投稿される。


 まさに賛否両論を巻き起こしてしまってはいるのだが、この配信予告により、ネット民の議論が一気に活発化したのは間違いが無い。

 そして、この後、ハヤトによる生配信により、世界中が熱狂の渦に巻き込まれることになることに……


 未だハヤト自身も気付いてはいなかったのである。


 ◆


 そして現在、スタンピードの最前線では――


 「ボルガニック・レイザー!」


 たった今、目の前でアイリーンさんが放った熱線で数十体もの鬼たちが消し炭と化していった。


 「ブレイジング・スフィア!」


 熱線に続き、次に放たれたのは超高熱の光球だ。

 杖の周囲を六つの光球が旋回したかと思うと、一斉に尾を引きながら飛び立っていく。

 それぞれの光球は獲物を追う猛獣の如く、鬼たちを負い掛け、次々と塵に変えていく。


 「イグナイト・ブレイド!」


 相手の鬼たちもかなりの強者が揃っているのだろう。

 アイリーンさんの攻撃魔法の間隙を付いて相当数が、彼女の目前まで迫ってきたが……

 必殺の炎の剣を作り出し、華麗な身のこなしで斬り裂き、焼き尽くしていく。


 さすが、Sランク冒険者。

 グランドダンジョンのモンスターと言えども、まるで相手になってはいなかった。


 そして、その様子は俺のスキル『真・配信術』の効果で視界を通じて、完璧に生配信されている。

 やはり、世の中の人々はこのスタンピードに関して、多大な興味を持っていたらしく、その視聴者数はうなぎ登りに増加し続けていた。


 〈うはw本当にスタンピードの真っ只中にいるじゃねえかw〉

 〈本当だwどういうカラクリなんだ?〉

 〈おい、概要欄に説明が書いてあるぞ!〉

 〈本当だ、何々……〉

 〈なるほど!『紫光』の力で転移したってわけか!〉

 〈あの『紫光』が……〉

 〈じゃあ、今回もがっつり『紫光』が味方してくれてるわけだな〉

 〈本当だね!こんな心強い味方はいないぜ!〉

 〈とにかく、勝ってくれ!『神速』さん!俺たちの国を、守ってくれ!〉


 おお、コメント欄も物凄く盛り上がりを見せている。

 まあ、ダンジョン攻略と違って、スタンピードは本当に自分たちの生活を脅かす災害みたいなものだろうしな。

 そりゃぁ応援するのにも熱が入るのは間違いないだろう。

 いや、俺もこんな風に国の代表みたいな扱いで応援されたら、それはやる気が出るのは間違いないんだけどね。


 その一方で、俺たちに対してネガティブな反応を示すコメントも散見された。


 〈いや、またこの二人か……ちょっと出すぎだよね〉

 〈この二人ばっかり重用されるのって他の冒険者に対して失礼っていうか〉

 〈何か、政府の上の方と繋がったりしてるんじゃないの?〉

 〈『紅蓮の魔女』って単独で核兵器みたいな魔法を使えるんでしょ?単純に危なくない?〉

 〈そうそう、俺もそれ思ってた。何かあったら誰が責任取ってくれるんだ?〉

 〈本当に、ここはダンジョンの中じゃないんだから、暴走したら国が危ないだろうに〉


 はは……

 何か無茶苦茶言われてますやん。

 このコメントはアイリーンさんには見せないでおこう。

 彼女のことだからそんなには気にしないだろうけど、これだけ体を張って戦っているのに、こんなことを陰で言われているなんて知られたら、ちょっと気の毒すぎる。


 「あらあら、アイリーンさん?そんなに遅れてどうしたんですの?」


 「アイリーンさん、ハヤトさん、よくぞ来てくださいました!助かりました!」


 そこへセイラさんと清十郎さんが加わってくる。

 全力でお礼を言ってくれてる清十郎さんと、サラっと嫌味を組み込んでくるセイラさん。

 

 二人とも、アイリーンさんに並び立ち、接近してくる鬼たちを次々と倒している。


 俺の背後では他の冒険者たちも戦い始めているようだ。

 それぞれが役割を意識し、目の前の三人が撃ち漏らした鬼たちを各自連携しながら、各個撃破していっている。


 そして、少し離れた場所では、一際体躯が大きな鬼と、銀髪のイケメン剣士が目で追うのも苦労しそうなほどの速さで斬り結んでいる。


 なるほど……いやちょっとあれは理解するのに時間がいるのかもな。

 もう少し落ち着いたらセイラさんたちに状況を教えてもらわないと……


 さらには、目の前の鬼たちの中に、一際目立つのが四体もいる。

 紅い鎧武者みたいなやつに、真っ白な着物を着た美女、全身黒装束な死神みたいなやつに、茶色い着物を着た物凄い形相で怒鳴りまくってるやつ。


 どうやらこの四人が鬼たちの中でも大将格ということになるみたいだな。


 そうなると、あの銀髪の剣士と戦っている大鬼は、まさか『統率者』なのか?


 戦況は俺たちが加わってやっと膠着状態ってところかな?

 何せ数が多すぎるし、鬼も一体ごとの強さがかなりのものだ。

 これは、少し苦戦するのかもなぁ。


 そう思いながら、俺も戦列に加わるべく、『七星剣・セプテントリオン』を手に持つ。


 すると、またまたあの声が聞こえてきた。


 『お待たせしました。新たな戦力を……お届けします』


 これは、さっき聞いたばかりの声……リゼルさんだ。

 同時に、『紫光』が周囲に降り注ぎ始める。


 しかも、かなりの広範囲にだ。


 新たな戦力ってことは……

 俺たちを呼んだ後に接触して集めてきた戦力ってことになる。


 しかも、これだけの広範囲に広がった『紫光』から登場するとなると、かなりの大人数なのかもしれない。

 現在の膠着した戦況からすると、戦力は増えれば増えるほど有難いのは事実だが……


 一体誰が来たっていうんだ?


 俺は、強い興味を抱きながら、『紫光』が降り注ぐ方向を注視した。

 

 

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