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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第三章 地獄の鬼たちと新たな希望
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第11話 『剣聖』


 『剣聖』とは――


 言わずと知れた超級職で、剣士系統の頂点に立つと言われているジョブの一つ。

 だが、アイリーンの『大賢者』と同じく、通常の超級職とは違い例外に分類されている。


 アベルは生まれながらに天才だった。

 強靭な肉体を有しながら生まれ、周囲が羨むほどの剣の才にも恵まれた。

 その彼が、選ばれしジョブの一つである『剣聖』となることはある種当然と言えることだった。

 物心がつく頃には既に並のモンスターなら単独で討伐できるほどの強さを身に付け、将来を嘱望されるほどの人物だったのだ。

 幼少時から数々のダンジョンを踏破し続け、ゆくゆくはグランドダンジョンをも制覇し、冒険者の頂点に立つ存在となる、アベルの将来に関して、そう断言する者も多かった。

 

 そんな彼が、スタンピードの危機から人々を守るために、『統率者』である『修羅皇・大凶丸』と一戦を交えることとなる。


 現在はリゼルの下に従者として付き従い、世界の危機を守る存在となっている理由に関しては、未だ不明ではあるが……


 文字通り世界を救うためにその剣を振るうこととなる。


 ◆

 

 現在、戦場では目にも止まらぬ攻防が繰り広げられていた。

 二つの影がぶつかり合う度に金属同士が激しくぶつかるような音が鳴り響く。


 一つ目の影は、恐ろしい形相で刀を振るい続ける大鬼。

 その巨躯に似合わない俊敏な動きで、豪快にそして正確に斬撃を放っている。

 自分と互角に打ち合える相手と出会えて嬉しいのだろう、その顔には不敵なまでの笑みが浮かんでいた。

 その鬼の名は大凶丸。

 グランドダンジョン『鬼皇の死都』を統べる者であり『統率者』の一人であり『修羅皇』の異名をとる、鬼たちの総大将である。


 そして、もう一つの影は、銀髪の剣士。

 華麗な身のこなしで、相手の斬撃を躱し、神業の如く剣捌きで大凶丸の斬撃をいなす。

 『紫光』を操る女神に仕え、その命を受け、このスタンピードの危機に終止符をうつためにやってきた。

 その名は、『剣聖』アベル・ガルブレイド。


 現在その手には、眩い光を放ち続ける一振りの片手剣が握られている。

 今まで使用してきた剣もかなりの性能を持っていたが、この剣に関してはわかる者が見れば瞬時に格が違うとわかるほどに、ポテンシャルを秘めた輝きを放っていた。


 その剣の名は、『神命剣、シャイニング・ファルシオン』


 アベルが持つ幾多の剣の中でも最強の剣であり、彼の切り札である。


 大凶丸と対峙した瞬間にアベルは、相手の危険性を把握し『ソードチェンジ』でこの剣へと持ち替えたのだった。

 その結果、アベルと大凶丸の戦力はほぼ互角。

 まさに一進一退の攻防を繰り広げることになるのだった。


 「死ねぇ!オラァアアアアアア!」


 大凶丸の上段からの攻撃を受けたアベルの剣が軋む。

 しかし、何とか耐え切りながら、返す刀で下段から首元へ向かって斬り上げるような斬撃を放つ。

 並のモンスターであれば、確実に首を刎ねられているであろう一撃だったが、大凶丸は素早く刀の切っ先を回転させながら斬り上げを防いでしまう。


 その見た目からは想像もできないような器用さを見せつけられ、アベルは相手にわからないほどの大きさで舌打ちをしてしまう。

 大凶丸は強い、見た目通りの力強さはもとより、俊敏さ、器用さ、技術、全てが恐ろしいほどの高い水準で備えられているのだ。

 

 (やはり、一筋縄ではいかんか……)


 あわよくば自らの手でこのスタンピードを終わらせてしまう心積もりだったが、この拮抗した戦況ではそこまでを臨むのは尚早というものだろう。


 改めて、アベルは頭を冷静に保ちながら周囲の状況を把握しようと試みる。

 セイラを始めとした他の冒険者の状況、そして相手方の四天王を含む、大凶丸の手下たちの動向、それら全てを把握し、最善の行動へと投影すべく神経を巡らせ始めた。


 まず、神経を注いだのはセイラたちの状況だった。

 セイラと清十郎は最初からペアで行動していた。

 今ではそこへ『九頭竜』の二人と『金剛の刃』のメンバーたちも合流している。

 アベルが放った重力波で鬼たちがほぼ全滅してしまったことで、セイラたちの元へ向かう余裕が出たらしい。


 アベルが次に気にしたのは相手側の動向だ。

 こちらは、大凶丸と戦い始めた結果、重力波が解除されてしまったせいで四天王たちも自由に動ける余裕を持ててしまっているようだ。


 最も怪しい動きを見せているのは、山吹だった。

 アベルの攻撃と重力波によって、もはや虫の息と化していた朱天と白織のところへ行き、何かをしようと企んでいるらしい。

 何やら懐から筒のようなものを取り出すと、中に入っている液体を二体の鬼へ向かって振りかけ始めた。


 謎の液体を掛けられた朱天と白織は、最初はピクリとも動いてなかったが、徐々に体が輝きを放ち始めたかと思うと、見る見る体の傷が塞がり始め、ついには何事もなかったかのように立ち上がってしまったのである。


 この様子を目撃したセイラたちは、驚きながらも対処に向かう。


 これで戦場の構図は、アベルと大凶丸。

 セイラたち冒険者と四天王というようにお互い対峙する状態へと変化したのだった。


 そして、この状況にさらに一石を投じようとする者がいる。


 それは……山吹だった。


 「はあ……面倒くさい。おい黒曜、もうあいつらも呼んじゃえよ」


 「なっ!?山吹、あんた正気なの?あんな奴らを呼んじゃったらこっちもめちゃくちゃになっちゃうじゃない!」


 「白織の言う通りだ、山吹よ、四天王たるもの目先の戦況だけではなく長い目で物事を見なければ……」


 「うるせえよ」


 「え?」


 「だからうるせえってんだよ!おい、朱天に白織よぉ!あんな人間ども如きに無様にやられときながら、四天王がどうこうなんて偉そうなこと言ってんじゃねえよコラ、お前ら二人とも俺がいなきゃとっくにおっ死んでてもおかしくないだろうが!黙って俺の言うこと聞いときゃいいんだよお前らはよぉ!」


 「…………くっ!」


 「わかったら黙っとくんだな!おい、黒曜、聞こえてたか?さっさと動けコラァ!」


 「………………っ!?」


 突然、先ほどまでの気怠そうな態度とは正反対の粗暴な本性を現し始めた山吹の姿に残りの四天王たちは絶句してしまう。

 そして、山吹から急かされるままに、黒曜が再び影を操作し始める。


 再び出現した影の柱の中から新たに出現したのは、先ほどまでとはまた一風違った外見をした鬼の軍団だった。

 今までとは違い、数はそこまで多くなく、せいぜい数百体から多くても千体程度だろう。

 しかし、それぞれが放つ威圧感はさっきまでの大鬼小鬼とは大違いだった。


 それぞれの能力、そしてそれぞれが所持する武器や身に付けている装備の内容が格段に上がっているのだ。

 見るからに切れ味が鋭そうな刀を持った剣士のような鬼、巨大な棍棒を抱えた巨人型の鬼、中には魔導士のような姿をした鬼も散見される。

 アベルに葬られた軍団が雑兵だとするならば、こちらの軍団は精鋭集団と言える。

 ある意味、こちらが本隊と言っても過言ではないほどの戦力を有しているのは、対峙しているセイラたちの目からしても一目でわかってしまうほどだった。


 対する冒険者の数はせいぜい十数人程度。

 厄介な四天王+鬼の精鋭集団と渡り合うための戦力としてはあまりにも心許ないのは、火を見るよりも明らかだった。


 「まだまだお楽しみはこれからというわけですわね」


 「ああ?まだそんなこと言ってやがるのかお前らはよぉ、大体、人間如きゴミみたいな連中が俺たちと張り合おうってのがおかしいんだからよぉ。せめて抵抗せずに虫みたいに死んどけよ」


 構えを取り、迎撃態勢を整えるセイラたちに向かって、山吹が容赦なく憎悪を剥き出しにした言葉を投げ掛ける。


 「とにかく……やっちまえ、お前らぁ!」


 山吹の合図と共に、堰を切ったかのように鬼たちが突進し始める。

 その中には朱天や白織、黒曜の姿も見える。

 文字通り総力戦、全ての戦力を持ってセイラたちの命を刈り取ろうとしているのがわかる。


 このまま行けば敗北は必至、セイラたちが敗れれば、そのままアベルのもとへそのままこの戦力が殺到してしまう。

 そうなれば、せっかく大凶丸を抑え込めているこの状況が瓦解し兼ねない。


 そして、そんな危機に再び奇跡は舞い降りる。


 『遅くなりました。何とか間に合いましたね』


 セイラたちの耳に聞こえてきたその声、静かであり荘厳、優し気でもあり尚且つ凛としたその声に、セイラは聞き覚えがあった。


 「これは、『紫光』の……」


 その瞬間、セイラたちの眼前に紫色の光、つまり『紫光』が降り注ぐ。


 今までとは比べ物にならないくらいの濃密な紫色の光が、まるで黒曜が作り出すものと同じ柱のような

形状へと変化していく。

 セイラは考える。

 それは何らかの転移機能を備えているのは間違いないだろう。


 それならばその中から誰が出てくる?

 この状況からすれば出てくるのはこちら側の増援なのは間違いないだろう。


 となれば、答えは一つだった。

 『紫光』を使いこなす人物が、自分の思う通りの人間ならば、同じようなことを考えるに違いないからだ。


 そして、その答え合わせの時はすぐに訪れる。


 『紫光』で形成された柱の中から出てきた人物は二人。

 片方の人物は何やら騒いでいるのがわかる。


 「ちょっと!さすがに急展開すぎますって!どうしましょうか!?」


 「まあまあ、どうせ現地に行くのはわかってたんですから、早く着けて良かったじゃないですか」


 セイラの耳に聞き覚えのある会話が聞こえてくる。

 そして、それはセイラの考えが正しかったことを表している。


 「はあ、やっぱりこうなるんですわね……」


 「ええ、お嬢様。でも、これほど頼りになる増援は、他にはいません」


 そうしているうちに二人の姿がはっきりと見えた。 

 それは、自分の背丈ほどの大きな杖を持つ若い女性と、輝く剣を持つ青年だった。


 『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレットと『神速の配信者』草薙ハヤト。


 沖縄でのSランクダンジョン踏破を成し遂げた二人が……


 『紫光』の力により、再び戦場に舞い戻ることになる。


 『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』がスタンピードに満を持して参戦するのだった。


 

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