第10話 大逆転
アベルが手にしているのは、刀身が三メートルほどの巨大な剣だった。
振り回るのも苦労しそうなほどの大剣を、担ぎ上げるように構える彼の姿も異様ではあったが、何より異様なのは、彼が述べた言葉。
「この戦場を制圧する」
この言葉の意味するところをセイラは測りかねていた。
現在、この戦場には鬼のモンスターで溢れかえっている。
その数は数千に留まらず数万単位に届いているはずだ。
更には、目の前で倒れている二体とは別に残り二体の四天王もいる。
何より、大ボスである『統率者』の大凶丸が控えている。
この状況で戦場を制圧する。
一人で?
あの大剣で?
一体どうやって?
どれだけ考えてもセイラには理解できなかった。
セイラなりに色々な可能性を思案するが、どれも正解には繋がりそうにはなかった。
そして、この後にアベルが実行する手段は、セイラの思案した可能性が全て消し飛んでしまうほどの驚くべきものだった。
「重神剣……バスタード・バベル」
アベルは、今までの武器よりもより一層物々しさを感じさせる武器の名前を告げると、担ぎ上げていた大剣を一気に振り下ろし、地面に刀身を叩きつけると、そこから円形に波動のようなものが広がり始める。
その波動はアベルを中心にどんどんと広がっていき、十メートル、二十メートルとその直径を広げていき、アベルへ向かって再び殺到し始めていた鬼たちを次々と飲み込んでいく。
驚くべきことに、その波動に触れた鬼たちはまるで何かに押しつぶされたかのように、その場でぺちゃんこにひしゃげ、大鬼、小鬼、関係なく血溜まりと化していった。
この波動に飲み込まれたものは強力な重力に押しつぶされ無惨に潰れてしまうようだ。
そう、波動の正体は重力波だったのだ。
そして、重力波はさらに広がり百メートルを超えなおもその直径を広げていく。
もちろん、朱天と白織も例外ではなく、波動の効力で押しつぶされそうになっている……が、ギリギリで耐えられてはいるようだった。
不思議なのは、セイラと清十郎も波動の範囲に入ってはいるのだが、その効力を一切受けていないということだ。
周囲の鬼たちが次々と潰れ血溜まりと化して行くのを、二人は呆然と見守っていた。
この光景は、まさにアベルの言葉通り……「戦場を制圧する」という行為そのものだった。
一撃で広範囲の鬼たちを殲滅し、味方のみを選別し生還させる。
今まで見たことも聞いたこともない、このような芸当ができるものが存在していることをセイラも清十郎も、実際に目撃してなお信じることはできなかった。
重力波の範囲は鬼たちを巻き込みながら、ついには一キロ程度まで広がりを見せる。
その中には『九頭竜』の二人や『金剛の刃』のメンバーたちが戦っていた場所も含まれている。
そして、もちろん全員無事だった。
冒険者のみが重力波の影響を受けず、その場にいる鬼たちのみがどんどんと潰され死んでいく。
その光景を皆一様に何が起こったのかわからないといった様子で眺めていた。
「ぐぐぐ……一体これは……何なんだ?」
不知火と白織の眼前では唐突に発生した重力波に飲み込まれた山吹が、潰されまいと必死で藻掻いている。
さらにそこから少し離れた場所では、もう一人の四天王である黒曜も同じ状態で重力に抗っているのが見える。
「ああん!?何だぁこれはぁ!?」
少し離れたところには、一際大きな怒声を上げている大鬼がいる。
そう、鬼たちのボスである大凶丸だ。
もちろん、この大凶丸も重力の影響をもろに受けてはいるのだが、見る限りはほとんどダメージは受けていない。
多少は動きが重くなったのか?程度の効果しか無いようで、大凶丸の動き自体はピンピンしていた。
「俺の部下たちを……一体誰がこんなことを仕出かしやがったぁ!?」
目の前で数万の部下たちが一気に醜い血溜まりと化していく光景を見せられ、怒り心頭のままに犯人を捜そうと周囲を見渡す。
重力波に耐えている山吹と黒曜、そして他の冒険者たち。
少し離れたところには、倒れ伏している朱天と白織、その近くに佇むセイラと清十郎がいる。
そして、ついには大剣を地面に突き刺し重力波を放っているアベルの姿を確認してしまった。
「……見つけた。俺の部下たちを皆殺しにしやがったのはテメエかコラァ!?」
その姿を見つけた瞬間、直感的にこの光景の犯人はこいつだ、と理解したのだろう。
アベル目掛けて天高くジャンプする。
重力下でもこれだけ大きく飛び上がれる辺りは、さすがは鬼たちの大ボスといったところだろうか。
大凶丸は、ズシン!と大きな音を立てながらアベルの目前に着地し、鋭い眼光で睨み付ける。
「おい……こんなふざけた真似をしやがったのは…… てめえか?」
「ああ、そうだと言ったら?」
「殺すに決まってんだろうがぁ!一体何者だぁ?名乗りやがれコラァ!」
あくまで冷静なアベルの様子に、心の底からの怒りをぶちまける大凶丸。
名乗りを求められたアベルは、静かに、そして厳かに名乗りを上げる。
「私は、アベル・ガルブレイド、お前たち全員を殺すためにきた……『剣聖』だ」
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