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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第三章 地獄の鬼たちと新たな希望
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第7話 四天王の恐怖


 新たに出現した四体の鬼のモンスター。


 セイラの聞き間違えでなければ、それらはこう呼ばれていた、『四天王』と。


 「厄介ですわね……」


 確かに四体ともに外見、雰囲気ともに異様ともいえる存在感を放っているのがわかる。

 ただでさえ、目の前の大鬼の相手で精一杯なのに、ここで敵側に増援が加わることになってしまうとは……

 


 「それでは、大凶丸様、何なりと我らにご指示をお願いします」


 「ああ、さっさと目の前のあいつらを殺して、人間どもを皆殺しにいくぞ……朱天よ」


 「御意……」


 朱天と呼ばれた赤い鎧武者の姿をした鬼は立ち上がりながら、背中から太刀を抜き、こちらへ向かって構えを取る。

 その瞬間、刺すような殺意がこちらへ向けられたことをセイラは察知した。


 (こいつ……かなり強いですわね)


 その濃密な殺意のみで、朱天がかなりの強さを誇っていることを理解してしまう。


 「あららぁ……朱天だけ抜け駆けだなんてずるいわよ、私にも楽しみを残しておいてね」


 「ふん……白織よ、貴様の楽しみなんぞどうでも良いわ、俺にとって大凶丸様の指示を遂行することのみが重要事項と心得よ……」


 「はいはい、相変わらずの堅物なんだから……」


 白無垢を着ている美女の鬼は、白織というらしい。

 雪のように白い髪色と、透き通るような肌をしているがその頭には立派な角が生えている。

 その妖絶な姿は人間離れをしており、一見とてもか弱そうに見える。

 しかし、その体中から放たれる異様な気配をセイラは警戒していた。


 (あの女性もただ者ではないわね……それに黒いのも……)



 そして、もう一体、全身を黒い布のような衣装で覆っており、目だけが赤く不気味に光っている。

 よく見ると地面からわずかに浮いて、ふわふわと漂っている。

 もちろん、頭には立派な漆黒の角を備えており、鬼であることがわかる。


 「まあまあ、皆さん、久しぶりに四天王が集まったんですから仲良くしましょうよ!ね?ね?」


 「もう山吹ったら、相変わらずね?」


 山吹と呼ばれたのは優男風の鬼だった。

 張り詰めた空気を放ち続ける他の鬼とは違って、無邪気に笑い、如何にもやる気が無さそうな空気を出している。


 「まっ、さっさと始めちゃいましょう!黒曜さん、残り呼んじゃってください!」


 「………………」


 山吹が合図をした瞬間、黒ずくめの鬼の目がより一層激しく赤い光を放ち始める。

 その赤い光に呼応するように、黒曜の背後で黒い影が広がり始める。


 「これは……さっきのと同じ……?」


 四天王が出現した時と同じような現象が起こり始める。

 どうやらさっきの黒い影は黒曜の能力だったようだ。

 黒い影は見る見るうちに柱のように立ち昇り、その中から何かが這い出てくるのが見える。


 ……それは夥しい量の鬼だった。

 大鬼、小鬼、様々な形状をした鬼たちが、どんどんと影の中から飛び出してくる。


 「そんな……まさか……」


 あまりの光景にセイラを始めとする冒険者たちは絶句してしまう。

 そうしている間にも鬼たちは雪だるま式に増え続け、先ほどとは比較にならないほどの数で周囲が埋まっていく。


 「はっはぁ!さあ、俺たちのスタンピードはこれからが本番だぜぇ!気合入れろよ、お前らぁ!」


 大凶丸の檄に合わせて鬼たちが一斉に咆哮を放つ。

 その数も相まって軽く衝撃波でも放たれたのかと見紛うほどの大咆哮が周囲に響き渡った。


 『統率者』である『修羅皇・大凶丸』とその配下の四天王、そして、鬼の大軍勢。

 スタンピードの中核をなすであろう本体の出現により、セイラを始めとする冒険者たちは一気に窮地に陥るのであった。


 ◆


 同刻、とある異空間――


 「いけません……アベル、すぐに準備を、行きますよ!」


 「……!?リゼル様、それは……スタンピードへ直接介入するということですか?」


 「ええ、こうなってしまったからには仕方ありません、私たちが直接打って出ます!」


 「お言葉ですが……それは、理に反します、いくらリゼル様のお言葉といえど、承服することはできません」


 「アベル……あなたは……」


 毅然としたアベルの態度に対して、リゼルは一瞬何かを言いたげな態度を取るが、すぐに口を紡ぐ。


 そうして、暫く考えた後にアベルに向かって何かを差し出した。


 「リゼル様、これは?」


 「これは、いつかあなたにも見せようと考えていたものです。これを見れば、あなたが先ほど言っていた理というものが、いかにちっぽけなものかが、わかります」


 それは、手の平サイズの水晶玉のようなものだった。

 よく見れば、中に何かが入っているのがわかる、まるで、何かをその水晶玉に封じ込めているかのようだった。

 そして、その何かを見たアベルの表情が見る見るうちに青ざめていく。


 「ま、まさか……これは……リゼル様!?」


 「わかってもらえましたか?あなたが言う理とは……既に無いに等しいということを……」


 「あなたは……今までこれを……何ということだ……」


 アベルは口に手を当てながら何かを考えている。

 そして暫くした後に口を開いた。


 「リゼル様、わかりました。今回のスタンピード、我が力を存分にお使い下さい……」


 「はい、ありがとうございます」


 「そして、今まで知らなかったとはいえ、無礼な言動の数々失礼いたしました」


 「いえ、それに関しては、私にも非は十分にありますので、気にしないで下さいね」


 「はっ、有難きお言葉……もし可能であれば、今度全ての事情をご教授頂ければと……」


 「それは、スタンピードを無事に乗り越えたら……で良いでしょうか?」


 「はい、それで十分です」


 「わかりました。それでは今から現地へ向かいます。アベルは最前線へ行き、冒険者たちを助けてください」


 「リゼル様はどうされますか?」


 「私は、先に行くところがあります。私が行くまでの時間稼ぎは、お願いしますよ」


 「はっ!承知しました!」


 アベルの返事の直後にリゼルが持つ杖が紫色の光を帯び始める。


 今までは間接的に冒険者たちを助けてきた現象である『紫光』


 その『紫光』を司るリゼルとその従者であるアベルが……

 

 空前絶後のスタンピードにより、最大のピンチを迎えているセイラを始めとする人類に対して、救いをもたらすべく、ついに動き出そうとしていた。


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