第4話 不知火と水鏡
ようし、何とか二日連続投稿!
よろしくお願いします!
言わずと知れた国内トップクランとして有名な『九頭竜』――
その最大の特徴はクランに所属する人数にあると言われている。
その名の通り、所属メンバーは全部で九名しかいないのだが、これは国内で有名なクランとしてはかなり少ない部類に入る。
しかし、その九名の実力は折り紙付き、なんと九名全員がAランク冒険者となっているのだ。
Aランク冒険者が九名も所属しているクランは、日本国内には他には存在しない。
そのため、個々の実力ならば国内でトップと言っても過言ではないのだ。
ただし、そんな『九頭竜』にも弱点は存在する。
それは、連携の弱さに他ならない。
九名それぞれが好き勝手に動き回ることを好む曲者揃いであるため、協調性や連携は皆無に近いのだ。
どれだけ強力な頭が九つあろうが、それぞれの頭が違う方向に向かってしまえば胴体は裂けてしまう。
彼らのことをそう言って批判する者は少なくなかった。
連携さえクリア出来れば国内最強の座は盤石のものとなるに違いない。
これが彼ら『九頭竜』の一般的な評価だった。
◆
「おらおらおらおら!死ねこらぁ!」
不知火が放つ爆炎が周囲の鬼たちをどんどん吹き飛ばしていく。
『爆炎竜』の異名を持つ不知火の得意技は、もちろん火炎系統の魔法である。
「こ、こいつは……」
その姿に、『金剛の刃』のクランオーナー、金剛寺アキラは眉をひそめる。
彼の頭の中には周囲の被害など、微塵も考えられていない。
アイリーンほどの規模では無いにしろ、爆炎を起こしまくる彼の戦闘スタイルに周囲の者は、巻き込まれないように回避する他はなかった。
「これでは連携もへったくれも無いじゃないか……いや、しかし……」
それでもアキラに不知火の動きを制するつもりはなかった。
今回はダンジョン攻略とは違いスタンピード、どれだけ敵の数を減らし、進行を遅らせることが出来るかの勝負なのだ。
ということは、その観点でいけばこの不知火の戦闘スタイルは、現状に適していると言える。
アキラはそう判断し、敢えて彼を制することはしなかった。
そして、その考えの通り、不知火の両手から際限なく放たれ続ける火球は、鬼の軍勢を容赦なく蹴散らし、その数をどんどん減少させていった。
「それにしても、すごいな……ん?」
不知火の火力の凄まじさに感心していたアキラは、何かがおかしいことに気付く。
「これは少しうまく行き過ぎていないか?」
火力の高さに目を奪われていたため気付くのが遅れたが、よく見ればその不自然さに気付く。
鬼たちが無防備すぎるのだ。
まるで鬼たちの目に不知火が全く映っていないかのように、全く警戒をしていない。
鬼たちは一斉に、誰もいない方向へ一心不乱に向かっており、そこを不知火が側面から思うがままに攻撃を放っているという異常な状況が続いているのである。
先ほどから鬼たちと戦っているアキラからすれば、現在目の前の鬼たちの戦闘力の高さは身に染みている。
いくら不知火の攻撃力が高くとも、同じAランク冒険者である彼がここまで一方的に圧倒できるほどのレベルの差は無いはずであり、アキラが感じた違和感もまさにそこだった。
そして、アキラにはその現象に心当たりがあった。
「幻術……」
鬼たちはまるで幻でも見ているかのように、一斉に一方向へ進撃を続けている。
これは、どう見ても何らかのスキルが働いているに違いない。
そして、これだけの大量の鬼たち相手にこんな芸当ができるのは……
「これは、『幻影竜』か?」
アキラはそう呟きながら、一人の少女の方向へ視線を送る。
「ううう……早く終わらないかなぁ……」
その少女は、泣きそうな顔をしながら、広範囲へ向けて魔力を放っていた。
『九頭竜』の一人、『幻影竜』水鏡。
どちらかと言えば豪快で自分勝手なメンバーが多い『九頭竜』の中では異色とも言える小者ぶりを発揮しているこの少女。
現在進行形で目の前で起こっている奇妙な現象を引き起こしているのは、紛れもなくこの少女の仕業だった。
『広域幻影魔法・ファントムテリトリー』
これが現在彼女が鬼たちに仕掛けている高等魔法だ。
彼女の特技は幻影魔法。
周囲の敵に幻を見せ、惑わし倒す。
この分野では日本国内で彼女の右に並ぶ者はいない。
そう言われてしまうレベルの魔法を得意としている。
水鏡の幻影魔法により、鬼の軍勢たちはいるはずもない幻を敵と認識し、一斉に突撃を続けていた。
その幻とは全く違う方向から、一方的に殲滅されているとも知らずに。
「ガッハッハッハ!余裕だ余裕!」
不知火は、そのことを知ってか知らずか、上機嫌で火球を連射している。
水鏡の幻影魔法で隙を生み出し、不知火の火炎魔法で殲滅する。
噂では『九頭竜』のメンバー間に連携などは皆無と聞いていたが、目の前で繰り広げられているのは、高レベルかつ見事なまでの連携を駆使した戦闘だった。
そして、その効果は絶大の一言だった。
現に、アキラたちよりも更に前、最前線で戦っているセイラと清十郎は、こちらの様子を伺う必要が無くなったためか、前方の敵にさらに集中し、敵の殲滅効率をさらに上げているように見える。
新たな増援として駆け付けた『九頭竜』のメンバーの活躍によって、スタンピードの第一陣への対応はかなり優位に進み始める。
この場にいた誰もが、この時はそう思っていた……
◆
「ほう……少しは手応えのある人間共がいるらしいな」
そして、その様子を遠くから見ている者がいた。
樹海に生えている木々の中でも一番背の高い大木を選び、その頂点に昇りながらセイラたちを観察している。
「しかし、俺の部下たちもだらしねぇなぁ。あんなにあっさりとやられちまいやがって」
そう言いながら、その大鬼は背中に背負っている鞘から巨大な刀を引き抜く。
「まあ……とりあえずあいつらから、血祭りにあげてやるか……おい!お前らも準備は済んでるのかよ?」
そう言って大鬼が自らが昇っている大木の根元へと視線を送る。
そこには、四匹の鬼が控えていた。
その内の一人は玉座の間で先ほどまで一緒にいた優男風の鬼だ。
「ええ、我ら四天王、いつでも出撃可能ですよー」
そこにいる四匹の鬼は、『修羅皇・大凶丸』の腹心の中でも最強の四匹で構成された四天王と呼ばれる存在だった。
いずれも、鬼の軍勢の中でも最精鋭、ただ者ではない空気感を醸し出していた。
「ようし……それじゃあ、そろそろ俺たちの本当の力を……」
大鬼は、そのまま自らの足にググっと力を入れる。
「見せてやるか、行くぞこらぁ!」
そして、間髪入れずにセイラたちのいる場所へ向かって大きく飛び上がった。
それに続くように四天王、そして周囲に控えていた大量の鬼たちも行動を開始する。
『統率者』の一人、『修羅皇・大凶丸』が直々に統率する精鋭中の精鋭たち。
グランドダンジョン『鬼皇の死都』で発生したスタンピードの本当の恐怖が今引き起こされようとしていた。
次回は、主人公たちも出てくると思いますので……
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