第3話 『藍染』
また、投稿の間があいてしまった……
4月は仕事が忙しいのです。
どうぞ、お楽しみください!
「少し、敵の数が増えてきましたわね」
「ええ、お嬢様。やっと敵も本腰を入れてきたみたいですね」
先ほどから、目に見えて鬼の数が増えてきている。
しかも、一匹一匹の強さも心なしか上がってきており、いよいよスタンピードのモンスターの本体が出現し始めたのだろうか、セイラと清十郎は警戒レベルを一段階上げる。
まだまだ二人を脅かすのほどの強さを持つようなレベルの鬼はいない。
お互いに軽口を叩きながらも、軽快に捌ききれる程度の流れではある。
しかし、これ以上敵の数が増え続けるのならば話は別だ。
この程度の鬼の強さならば負けることはない。
負けることはないが、こちらはたった二人、大きな流れを止めるには余りにも数が少ない。
事実、現在の鬼の出現量でも多少の撃ち漏らしは出て来てしまっている。
その撃ち漏らしは今のところは後ろに控えている『金剛の刃』のメンバーたちで処理しきれているのだが……
「これ以上増えてしまったら少し厄介かもしれませんわね」
「ええ、このペースで増え続ければ、程なく均衡は崩れてしまいます」
迫りくる鬼たちを、一方は拳で殴り飛ばし、一方は斬撃で斬り裂きながら、お互いの認識を擦り合わせる。
このままでは、鬼たちの進撃を防ぎきれない。
それがお互いの共通認識だった。
万が一鬼たちが『金剛の刃』の包囲すら抜けてしまえば、後に残るは軍隊の兵士たちだ。
ダンジョンから生まれた鬼たちに対しての有効手段を持ち得ない兵士たちでは抑止力としては、ほぼ無力に等しい。
「さて、どうしたものかしら」
セイラは鬼たちを捌きながら思考を巡らす。
一つの手段として思い浮かぶのは、やはり最高位神器の使用だろう。
絶対零度を放ち、広域を殲滅することが可能な『アークセラフィエル』であればこの局面を打破するには十分だろう。
しかし、今それを使うのは得策ではない。
何故ならば、このスタンピードはグランドダンジョンから発生しているものだ。
この後に控えている鬼たちは、さらに強力な能力を持っているに違いない。
何より、最後に控えているのは『統率者』だ。
さらに圧倒的な力を持つ大ボスが控えている状況で無思慮に手札を切ることは避ける必要がある。
そうこうしているうちにも、鬼の数はどんどんと増え続けており、背後に目をやれば『金剛の刃』のメンバーたちも俄かに苦戦し始めているのが見えた。
「そろそろ手を打たないとまずいですわね」
自分と清十郎のどちらかがカバーに回れば良いのだろうが、今自分たちがこの場を離れた場合に、均衡が一気に崩れてしまう恐れがある。
しかし、このまま行けば『金剛の刃』の面々とその背後に控えているであろう軍の兵隊たちが危ない。
目に見えて『金剛の刃』のメンバーたちが鬼の軍勢に押され始めているのが目立ち始め、セイラと清十郎の表情に焦りの表情が見え隠れし始めたその時だった。
『金剛の刃』のメンバーと対峙していた鬼の軍勢を横合いから巨大な炎の塊が襲った。
炎の塊は鬼の軍勢の中心の辺りに着弾すると凄まじい爆発を起こし、周囲の鬼たちを吹き飛ばしてしまう。
それはさながら、『紅蓮の魔女』アイリーン・スカーレットの使用する爆炎系の極大魔法のようだった。
しかし、アイリーンは今は沖縄にいるため、この場にいるはずもない。
それでは誰が?
その場にいる誰もがそう思い、炎が放たれた方向へ視線を送ると……
「おお!まだまだ獲物はたくさんいるぜぇ!」
「もう、不知火さん、はしゃぎすぎですよぉ」
そこに立っているのは二人の人物。
一人は炎のように赤い頭髪をリーゼントのように固めたような髪型をしている大柄の男性だった。
その男性が炎を放った張本人なのだろう。
全身から蒸気のような煙を放ちながら得意満面な表情で仁王立ちをしている。
そして、もう一方は柄な体格をした少女だった。
こちらは男性の豪快な立ち振る舞いとは対照的に、俯き加減で申し訳無さそうに立ち尽くしている。
「あれは……確か……『九頭竜』の……」
アキラはその二人に見覚えがあった。
彼らは確か自分たちと同じく国内有数のトップクランと銘打たれているクランのメンバーたちだ。
その名は確か……
「おおよ!『九頭竜』が一人、『爆炎竜』の不知火とぉ!」
「……えええ、ええと『幻影竜』の水鏡ですぅ……」
声量の差が凄まじい二人の名乗りを聞いてセイラの顔に僅かに笑みが浮かぶ。
「なるほど、『九頭竜』ですか、彼らが増援ならば不満は全くありませんわ」
「ええ、しかし他の七人はどうしたのでしょうか?」
「おお!他のメンバーは違う場所のフォローに行ってるぜぇ!しかし任せときな!俺と水鏡の二人がいれば、十分だからよぉ!」
「いやいや……早く他のメンバーも来てくれないとぉ……」
頼りがいがあるのか無いのかわからない二人組が加わり、スタンピードの最前線は新たな局面を迎えようとしていたのであった。
◆
同時刻、某所――
とある研究所のような場所で、研究員たちが何かの調整に勤しんでいるところだった。
「ようし!最終調整が終わるまで後わずかだ……気を抜くなよ!」
「はい!こちらの調整は完了しました!」
「こちらもです!」
「こちらは後……三分ほどで完了します!」
徹夜続きなのだろうか、それぞれの研究員たちが目を血走らせながらハイテンションで作業を進めている。
「調整が終わり次第、スタンピードへ投入するぞ、そちらの準備も怠るなよぉ!」
「はい、しかし主任、テストも経ずいきなり実戦投入とは……しかも、あのスタンピードなんて……」
「ふん!スタンピードをテストと考えれば問題ないだろう!敵は多ければ多い方が良いに決まってるんだからな!」
主任と呼ばれた男性は他の研究員たちよりも、更に血走った目を鋭く細めながら手を動かし続けている。
彼の名は『平賀 孝丸』と言い、ダンジョン統括省の研究部門のトップに君臨している優秀な研究者だ。
彼の専門分野は対モンスター用の兵器の開発だった。
そして、正に今、彼の最高傑作が完成しようとしていた。
「それに、今期の予算の八割を注ぎ込んだ私の最高傑作のお披露目としたら最高の舞台じゃないか!」
彼が心血を注ぎ、上の指示を無視し、他の仕事を全て放置して作り上げた最高傑作品がそこにあった。
それは、一つの鎧のような姿をしていた。
随所に平賀のこだわりが込められたそのフォルムはかなり前衛的なものとなっており、丹念に手入れされたであろうその表面は見事な光沢を放っている。
「ふふふ、いつ見ても惚れ惚れするような出来だな」
藍色に光沢を放ち続ける鎧を優しく撫でながら恍惚とした表情を浮かべる平賀の姿を、他の研究員たちはドン引きしながら見つめている。
「さあ、いよいよ出陣だ……我が芸術品『藍染』よ!」
その鎧の名は『第四世代型対迷宮攻略決戦兵器・藍染』
ダンジョン統括省が誇る最新技術を惜しみなく投入し開発された対ダンジョン、対モンスター用の最新兵器である。
「さっさと実験た……冒険者を連れてこい!スタンピードは既に発生しているぞ!一秒でも早く投入するんだ!」
「は、はい!おい、例の少女を連れてこい!」
「はっ!」
この最新兵器は狂人染みた知性を誇る平賀の全てを込められているため、並の人間では扱えないほどのピーキーさを誇っている。
そのため、ダンジョン統括省の職員や兵隊ではもちろん扱えず、必然的に冒険者に委ねるしか手段はなかった。
冒険者と言ってもランクが低い者では話にならず、かと言ってAランク以上の冒険者たちからは、その怪しさから軒並み断られていた。
その中で、ただ一人、Aランク冒険者の中で快諾してくれた者がいる。
研究員は急いでその冒険者を連行してきた。
その冒険者は少女だった。
鮮やかな水色の頭髪をポニーテールにしている小柄なその体格のその少女は、今の状況を全く理解していないのか、朗らかな笑顔を浮かべている。
「あれー?やっと準備できたんですか?いやぁ、もう待ちくたびれちゃいましたよぉ!」
一見してアイドルのような装いをしたその冒険者。
『闇鍋騎士団』のクランオーナー、村雲ミズキは眠気を隠そうともせず、精一杯伸びをしながら連行されてきたのだった。
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