第1話 スタンピード発生
お待たせしました。
今回から第三部となります。
スタンピード編です。
前から書いてみたかったので、気合入ってますよ!
スタンピードについて――
スタンピードとは、ダンジョン外へモンスターが溢れ出してくることである。
日本国内でも、その数こそ多くはないが、いくつかのケースが記録として残っている。
あの轟清十郎を『龍殺の守護者』として世間にその名を轟かせる結果となった、『地龍ベルベイル』の事件などは最たる例として挙げられる。
通常、ダンジョン内に存在しているモンスターはダンジョン外へ出ることは無い。
これが全世界共通の認識事項として世間には浸透しているのだが、極稀にではあるが、それが破られる時がある。
その要因は未だ謎に包まれており、発生場所は発生時期の法則は全く解明されていないので、世間の人々からは台風や地震と同じレベルの一つの災害と位置付けられ、恐れられているのがスタンピードである。
万が一その脅威が人々が住む市街地まで及んでしまえばその被害は甚大なものとなる。
そのため、ダンジョン統括省や冒険者ギルドといった機関が組織され、厳密に管理されているのが現状だ。
出現したダンジョンは全て両組織によって厳重な管理下に置かれ、昼夜問わず常に監視が付けられるようになる。
これにより、万が一スタンピードが発生したとしても、迅速な対応が可能となり、被害を最小限に抑制することが出来ていた。
しかし、それがダンジョン出現直後に発生してしまったとなれば話は別だ。
出現直後のダンジョンは当然の如く両組織の管理が行き渡っていない。
そのため、ダンジョンのモンスターに対抗可能な冒険者の対応が遅れてしまうことになる。
そして、更に今回のスタンピードはグランドダンジョンが起因となっている。
AランクダンジョンやSランクダンジョンと比較しても、ダンジョン内のモンスターの脅威度が段違いに高いグランドダンジョン。
そのグランドダンジョンにおいてスタンピードが発生した事例は未だ存在しない。
ダンジョン出現直後のスタンピード発生と、グランドダンジョンが起因となるスタンピード。
未だ人類が経験したことが無いレアケースが二つも重なってしまったのが今回のスタンピードである。
そんな未曾有の大災害となる可能性を持つ危機に対して、ダンジョン統括省と冒険者ギルドに所属している全ての人々が、全てを賭して立ち向かおうとしていた。
◆
「はぁ……はぁ……いくらなんでもキリが無いぞ……」
「おい!気を抜くな!モンスターはまだまだ出てくるぞ!」
冒険者たちは先ほどから必死にモンスターたちと戦っている。
そのモンスターたちは、様々な姿形をしていたが一つだけ共通点がある。
それは、頭部に角が生えていることだ。
身長三メートルにも及ぶ巨躯の人型のモンスターもいれば、逆に子供ほどの大きさのモンスターもいる。
そうかと思えば、狼のような獣の姿をしたモンスターまで存在している。
そのモンスターたちは、いずれも頭部に立派な一本角を所有していた。
その姿を見たその場の冒険者たちは総じて第一印象としてこのように思った……
鬼が出たと。
数百にも及ぶと予測されるほどの勢いで襲来した鬼の群れは、まずダンジョン周囲にいた軍の兵士たちに襲い掛かった。
ダンジョン統括省直轄の屈強な兵士と言えども、相手がダンジョン起因のモンスターともなると話は別だ。
モンスターには、銃などの通常兵器は意味が無い。
通用するのは、冒険者が使用する剣や魔法などのみ。
もちろん、ダンジョン統括省直属ともなれば、モンスターとも対峙する可能性はあるので、一部の上級兵士たちには、冒険者同様のスキルや装備を所持しているものも存在している。
しかし、今回グランドダンジョンの規制に当たった部隊にはそのような兵士はいなかった。
とは言え、その襲撃によっての被害者は出なかった。
何故なら、今回はダンジョン統括省の依頼により、軍に対して冒険者のクランが同行していた。
そのクランの名は『金剛の刃』
先日の『黄牙団』の襲来に対して最初に対応したクランである。
Sランク冒険者である劉愛蕾に対しては力不足を露呈してしまった『金剛の刃』の面々ではあるが、彼らの世間での評価はかなり高かった。
Sランク冒険者こそ所属はしていないが、その総合力は高く、日本でも有数のトップクランとしてその名を馳せている。
そのため、並のモンスター程度であれば、彼らは十二分に対応できる。
当初、モンスターの襲撃対して混乱はしたが、即座に彼らが介入し、軍の兵士たちを守ったのである。
「おらぁあ!!!!」
最前線に立つのは両手剣を豪快に振り回す男性。
『金剛の刃』のクランオーナー、金剛寺アキラだった。
Aランク神器である『金剛刃・ヴァジュラ』を使いこなし、目の前の鬼たちをどんどん斬り倒していく。
「よぉし!団長に続けぇ!」
その後ろにクランの団員たちが続く。
数は圧倒的にあちらが上、常に一対十ともなってしまうような状況ではあったが、個々の実力差が効果を発揮し数の差をものともしなかった。
その結果、徐々に戦局は優位になろうとしていた。
未だにダンジョン方面から数多の鬼が出現し続けてはいるが、それを上回るペースで倒し続けることで、僅かではあるがその数は減少に転じている。
「このまま行ければ、スタンピードを抑えられるかもしれない……皆、このまま押し込むぞ!」
「おお!」
アキラの呼び掛けに呼応するようにクランの団員たちも気勢を上げながら後に続く。
本当にこのまま行けば、自分たちだけで危機を回避できるかもしれない。
あの悪名高き……しかも、あのグランドダンジョンで発生したスタンピードをだ。
そうすれば、自分たちに対する世間の評価は鰻登りとなるだろう。
アキラは、証明したかった。
自分たちのクランの実力を、団員たちの結束を、そしてクランの存在意義を。
先日の『黄牙団』の襲撃時にはクランとしては何もできなかったに等しい。
国内トップクランと呼ばれながら、Sランクダンジョンやグランドダンジョンなどの最前線の攻略となると、残念ながら後塵を拝しているのが事実だ。
だから、今回のスタンピードはある意味チャンスだった。
もちろん、スタンピードは人々にとっては災害に等しい由々しき事態である。
そこを冒険者として解決し、人々の役に立ちたいという想いに噓偽りは存在しない。
しかし、一方で一気に自分たちのクランの位置を高みまで引き上げるために動いているという想いを持っているということも否定は出来なかった。
「……なんだと!?」
そして、そんな想いがアキラの目を僅かではあるが曇らせてしまったのも事実だった。
一瞬、その勢いが衰えたと思えた鬼たちの進軍。
しかし、その鬼たちが湧き出てくるダンジョンの方角から、目にも止まらぬスピードで何かが飛来し、アキラの右肩の辺りに命中した。
「ぐああ!」
悲鳴と共に空に舞う何かが見える。
それは、アキラの右腕だった。
「だ、団長!」
一瞬、何が起こったか理解できなかったアキラと団員たちだったが、そこは歴戦の冒険者たち、各々が即座に行動を開始し、態勢を立て直し始める。
「弓による遠距離攻撃だ!タンク職は団長の前に!」
「ヒーラーは団長を回復!その後は遠距離攻撃を受けないように散開しながら各個撃破だ!」
「了解!エクスヒール!」
個々の迅速な対応によって一時は崩れかけた態勢も立て直すことが可能と判断し、その目に生気を宿しながら前を向く。
そして、そこで眼前に広がる光景に、一同は絶句してしまった。
そこに出現していたのは、新たな鬼たち。
しかも、今までどうにか退けていた雑兵のような鬼たちとは比較にもならないような凶悪な鬼のモンスターたちだった。
十メートル近い巨人の姿をした大鬼。
巨大な斧を担いだ重装歩兵の姿の鬼。
両手に鋭そうな長剣を持った甲冑を着た鬼。
そして、巨大な馬のモンスターに乗り、弓を構えている鬼。
恐らくさっきの攻撃はこの鬼からの攻撃だったに違いない。
間違いなく、それぞれの強さは先ほどまでの鬼たちとは桁が違うだろう。
『金剛の刃』の団員たちは自らの経験により、相対するモンスターの強さを測る確かな眼力を持っている。
そのため目の前の鬼たちが、自分たちにとってどれだけ危険なモンスターかは瞬時に理解してしまった。
しかも、それぞれの鬼が数十体ずつ群れをなしてこちらへ向かってきている。
「これが……本隊かよ」
やはり、グランドダンジョンのモンスターがさっきのような雑兵ばかりなはずが無かったのだ。
このままではクランが全滅するのは時間の問題だった。
アキラは焦りと共に後悔を覚えた。
もう少し冷静なれば、団員たちを危険な目に合わせることは回避できたのかもしれない。
世間からの評価を高めたい、功を焦るばかりに選択を間違えてしまった。
仲間を危険に晒して、何が団長だ。
そんな自分に絶望を感じたその時だった――
「よく頑張りましたわ」
茫然自失となっていたアキラの耳に、突如として凛とした声が聞こえてきた。
次の瞬間、鬼の群れたちへ向かって巨大な氷塊が降ってきた。
その数は、目視で図り切れないほどの数量だ。
氷属性極大魔法、クリスタル・アバランチ。
その圧倒的な氷塊の雨は、まるで隕石群のように鬼の軍勢を蹂躙していく。
そして、目の前にひらりと一人の女性が舞い降りる。
「お疲れ様です。後はお任せください」
「!?」
放心状態でその光景を眺めていたアキラの隣には、いつの間にか一人の男性が立っていた。
「あなたは……」
そして、その男性はアキラに向かい合う。
「もう大丈夫ですよ。ここからは、私とお嬢様が請け負います」
そして、再び背を向け、刀を抜きながら今なお蹂躙され続けている鬼たちの方へ歩み始めた。
アキラはその光景を二度と忘れることは無いだろう。
自分と仲間たちの命の危機に颯爽と駆けつけてくれた。
『蒼氷の聖女』と『龍殺の守護者』の姿を――
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