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『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
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第38話 エピローグ ~新たな謎と新たな脅威~

今回で第二部最終回となります。


主人公たちは出てきませんが、第三部の導入も兼ねておりますのでどうぞご覧ください!


 ハヤトとアイリーンがSランクダンジョン、『海魂の冥穴』を踏破し、地上に転送されたのとほぼ同時刻――


 それとは別のとあるダンジョンの入り口に、何者かの怒号が響いていた。


 「ちくしょぉ!結局最後まで攻略する羽目になっちまったじゃねぇか!しかもこのダンジョン、やたら深かったしよぉ!」


 怒号を発しているのは大柄の屈強そうな女性。


 『黄牙団』のクランオーナー、劉愛蕾だった。


 「劉様、私たちが不甲斐ないばかりに、申し訳ございません」


 その両脇には二名の人物。

 『黄牙団』のサブオーナーであり、序列二位の楊梓晴が膝を付いて頭を下げている。

 その仕草からは劉愛蕾に対しての絶対的な忠誠が滲み出ていた。


 「しかし、あの妙な光のせいで大変な目にあいましたね、あれが噂の『紫光』ってやつですかね?」


 それとは対照的にフランクな感じで劉愛蕾に接する男性。

 序列三位の呉李静が腕を組みながら言葉を発している。


 「ああん?間違いなくそうだろうよ。せっかく楽しかったところに水を差しやがって……誰だか知らないが犯人を見つけたら八つ裂きにしてやるよ」


 三人は、ダンジョン統括省本部前での戦闘中に、リゼルの介入によってとあるダンジョンの奥深くまで強制的に転移させられていた。

 そのダンジョン自体も攻略にかなり時間が掛かってしまうような構成になっていたため、踏破し地上へ転送されるまで、これだけの時間が掛かってしまったというわけだ。

 

 劉愛蕾にとって、『蒼氷の聖女』星羅・バーンシュタインや『闇鍋騎士団』のクランオーナーである、村雲ミズキとの戦いはそれなりに歯応えを感じられる数少ないものだった。

 しかし、その戦闘の最終局面、つまり一番楽しいところで邪魔をされたことは何よりも怒りを覚えることだった。

 今も、自分の中で怒りを消火しきれておらず、一見冷静を装ってはいるが、体中から沸々とその怒りが湧いてきているのが見て取れた。


 「しかし、ここは一体どこなんでしょうかね?」


 「ああ、まあ日本のどこかではあるんだろうよ、それより……さっきからコソコソしているそこのお前、いい加減出てきたらどうなんだい?」


 「!?」


 劉愛蕾が突然発した言葉に、他の二人は驚愕の表情を浮かべながら、彼女が視線を送っているのと同じ方向へ振り返る。

 そこは鬱蒼とした木々が覆い茂っており、一見何者の気配も感じることはできないが……


 「参りましたね。完璧に気配を消していたつもりだったのに……さすが『黄雷の戦妃』とでも言いましょうか。御見それしました」


 光学迷彩でも使用していたのだろうか。

 今の今まで何も存在しなかったところから、男性の声がしたかと思うとすぐにその姿が現れた。


 その男性は細身で長身。

 黒髪でオールバックの一見、紳士風の外見をしていた。

 本当に侵入者が潜んでいたことに劉愛蕾以外の二人は心の底から驚いた。

 特に、楊梓晴はショックを隠せない。

 彼女が就いているジョブである『諜報王』は隠密特化、当然、気配察知の能力も優れているはずだ。

 その彼女が、全く気配を察知できなかった。

 しかも、その存在をあっさりと看破してしまった劉愛蕾。

 自らの領域とも言える隠密の分野で、双方からこうも差を見せつけられてしまったことに対して、楊梓晴は二重の衝撃を受けることになってしまった。

 

 「ふん、バレバレだっての……で、お前は一体なんなんだ?あたしは今機嫌が悪いんだ。返答によっては一瞬でぶち殺してやるからな」


 「はは、噂に違わぬ凄まじい殺気ですね。これは敵うはずもない」


 自らの殺気を惜しげも無くぶつけてくる劉愛蕾に対して、やれやれといった表情で両手を上げて敵意が無いことを示してみせる。


 「突然の無礼、申し訳ございませんでした。私の名はロイド・ジョーンズと申します。以後、ロイドとお呼び下さればと存じます。今回は我が主の指示を受けて『黄牙団』の皆様に伝言を届けに参りました」


 「へえ……で、お前の主ってのはどこのどいつなんだい?」


 「はい、私の主の名は、ヴァレリア……ヴァレリア・ハートランドと申します」


 「……っ!?ヴァレリアだと?あの女があたしに一体何の用だ?」


 「それは私にもわかりかねます。私はあくまで伝言を届けるようにという指示を受けただけですので……」


 そう言いながらあくまで物腰柔らかに畏まるロイドの姿に苛立ちを覚えつつも、ヴァレリアという名前に警戒心を露わにする。

 

 「……で?その伝言とやらを聞かせてもらおうか?」


 「はい、それでは伝言を申し上げます、ちなみに伝言は二つございます。一つは『もうすぐその国でスタンピードが発生するため、注意されたし』……となっております」


 「ほう……スタンピードか、それは面白いね、じゃあ、もう一つは?」


 そうして、一息置いた後にロイドの口から発せられる言葉に劉愛蕾は驚嘆することになる。


 「もう一つの伝言は……『私は【神の虹】の秘密に近付いた。気になるならばこちらへ合流せよ』とのことです」


 「何だって!?それは本当かい?」


 「詳細は私には知らされておりません。しかし、伝言は一言一句間違ってはおりません」


 「ちくしょう!こうしちゃいられない。楊!呉!大至急アメリカへ向かうよ!」


 「「はっ!」」


 ロイドを通じて提供された情報は、劉愛蕾にとっても重要な意味を持つものだったらしい。

 すぐに態度を転換し、ヴァレリアがいるアメリカへと向かう意思を固めてしまった。


 「おい、ロイドとか言ったな。ヴァレリアのところまで案内を頼めるかい?」


 「はい、それは問題ございません」


 「よし、じゃあこのまま向かうから、さっさと案内しな」


 「承知しました」


 「ヴァレリア・ハートランド……『橙塵の女帝』か……」


  ……こうして『黄牙団』の面々とロイドを合わせた四名は大急ぎでアメリカへと向かうことになるのであった。


 ◆


 ――富士山の樹海のすぐ近くへ舞台は移る。


 出現したばかりのグランドダンジョン『鬼皇の死都』。


 そこへ至る道を規制すべくダンジョン統括省の指示のもと、軍が通行を規制すべく準備を行っているところだった。


 「おい!早くバリケードの設置はまだか?」


 「はっ!後三十分もあれば作業は完了します!」


 「早くしろよ!冒険者が到着するまでに絶対に侵入者を入れるなよ!」


 ダンジョン統括省が派遣予定であるSランク冒険者、星羅・バーンシュタイン。

 彼女が到着するまでにはもう少し時間が掛かる。

 それまでの間に、他の冒険者がグランドダンジョンへ挑戦を試みたりすれば一大事、その他にも他国の介入や一般人が迷い込むことも予測されるため、迅速に規制を敷くことが必要となる。


 そして、その作業も佳境を迎えていた頃……


 「……ん?何だ?あんなところに人影が……」


 一人の隊員が異変に気付く。

 ダンジョンへ通じる道の向こう側から何やら人影のようなものが見えたのだ。


 「変だな……ここから先はまだ誰もいないはずだが……」


 「あれは……本当に人なのか?」


 「それ以外に何がある?こんな場所にモンスターがいるわけがないだろう」


 ここは、ダンジョンの外のため、当然モンスターは存在しない。

 スタンピードでも発生すれば別ではあるが、現在はそんな報告を受けてはいない。

 

 訝しげにその人影を観察している間にもその人影はだんだんと近付いてきている。

 


 「おい!そこで止まれ!」


 とうとう目視でその姿が捉えられる位置にまで近付いてきたため、銃を向けて制止するように指示を出す。


 ……が、その人影は止まる様子は微塵も見せなかった。


 「……おい、あいつの頭に角のようなものが見えないか?」


 「……!?ああ、そう言われれば」

 

 「ということは、あいつは……モンスターなのか!?」


 隊員たちの嫌な予感はどうやら的中してしまったようだ。

 すぐ近くで確認できたその姿は頭部に奇怪な角を有しており、大柄で口からは鋭そうな牙を生やしている。

 鬼のようなその容姿は明らかに人間とはかけ離れており、どう見てもモンスターにしか見えなかった。


 ……となると、答えは一つだった。


 「スタンピード……」


 「おい!早く本部へ連絡だ!俺たちはここで食い止めるぞ!」


 そう言いながら一斉に銃を撃ち始める隊員たち。

 鬼のようなモンスターも銃の発射に反応するかのように、咆哮を上げながら隊員たちへ向かっていく。


 新たに出現したグランドダンジョンの『鬼皇の死都』。


 その出現に起因して発生したこの事件は……


 また、新たな脅威として日本中を震撼させることになるのであった。

 

新キャラも何気に出してしまってます。

ちなみに劉愛蕾が呟いた言葉は前からずっと書きたかった言葉でございます。


次回は掲示板回となり……


そして、その後に第三部へと続きます!


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― 新着の感想 ―
こんばんは。 次の舞台は鬼系のモンスターがメインのダンジョンのスタンピードですかね…? 鬼と一口に言ってもゴブリンみたいな小鬼タイプから、オーガみたいな大鬼とバリエーションも豊かでしょうから、かなり…
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